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神無月の巻(三)

 この間の日曜、お義母(かあ)さんと会いました。奥さんには秘密で、こっそりひっそりと。あの子のひいおじいさんについて、知りたいことがあったからなのです。本人に訊ねたら早いのかもしれませんが、義理の祖父母宅の開かずの間が開かれた夢のせいで、本人にその話題をふったら、心の準備もなしに危ない状況に変わりそうな気がして。夢で、奥さんは「ひいおじいちゃんとの約束を果たす時が来たんだ」と言っていました。あの子をよくみてきたお義母さんなら、思い当たる節があるのではないかと。

「名前が×××どうしだったから、とても仲良かったんですよ。私の父よりも、一緒にいることが多かったんじゃないかしら。今でも、あの子は、小さいときにもらった石を身につけています」

 石、どこかの川原で拾ってきたんでしょうか。それとも、いわゆるパワーストーンというあれですか。

「詳しくは分かりません。祖父が趣味で集めていた物のひとつ、だと思っています。霊験あらたかな所を歩き回ることが好きだったんです。あの子は、人の話を信じやすいから、祖父のオカルトな話を疑いもしないで聞いて……ねえ」

 ひいおじいちゃんにもらった、というより、ふたりでパワースポットへ出かけて、石を記念に持って帰ったのかな。

「石をもらったその夜だったかしらね、あの子が怖いことを言っていたんです。『みんなもう苦しまなくていいんだよ。田園の扉はいつでも開けられるから』。きっと、祖父の言葉をまねしたのね、としか思っていなかったんですが」

 理想郷のことを指しているのでしょうか。石は、夢のとおり、開かずの扉の鍵? あれが開いたら、田園に行けるのか。

「あの子、良くも悪くも祖父に影響されています。祖父との思い出を、ずっと覚えているでしょう。穏万喜(おだまき)さん、あの子に、忘れても良い事柄もあって構わないんだということを、教えてやってくださいね。多少くどいくらいが、効きますから」

 忘れてもいいこと。お義母さんは、奥さんの「信じやすいところ」が気がかりなんだ。一番近くにいる僕が、守ってあげないと。


  夢が、夢のままであってほしい。夢が現実になることは、時として、恐ろしい。


  神無月二十八日 混声合唱ですが野郎で五重唱とかおかしくないすか?

  ボキの期待を返せこのやろう!


 混声とか、混浴の「混」は、不健康な想像をふくらませてくれますね。最近、奥さんと同じタイミングで浴槽つかっていなくて、寂しいです。繁忙期こえたというのに。ひとりの時間がほしいのかな。

 今日は、裏合唱部の定期演奏会がありました。日文所属の僕が、なぜ音楽に? 演奏会の前座に、日文公認サークル「日本文学課外研究部隊」が出るからです! 顧問の安達太良(あだたら)先生が、裏合唱部のお困り事を解決された縁で、ゲスト出演が決まったそうなのです。裏合唱部は、合唱部の「裏」のクラブではなく、「裏」声で合唱するクラブで「裏合唱部」なんですって。けっこう長いこと続いている部活動なのです。現在の顧問は、芸術学部の鳥下(とりした)()反手(だて)先生……プログラムの写真と自画像が、ものすごい派手でした。写真というより、音楽室にある肖像画みたい……モーツァルトぽいフリフリとくるくるヘアーですね。自画像は、動物にたとえたら、くじゃく。紹介文までつけますか。どんだけ自分が好きやねん。

 歌っていた曲は、なんと、日本文学課外研究部隊のみんなが作詞で、作曲は安達太良先生のオリジナルだったのですよ! 安達太良先生が、講義の指示棒を指揮棒に変えて振り、部員の大和(やまと)さん、本居(もとおり)さん、与謝野(よさの)さん、仁科(にしな)さん(額田(ぬかた)さんと共同研究室に来てくれている、理学部の学生さんです)、夏祭(なつまつり)さん(附属高校の子だったかな)がかわゆいユニフォームで歌う。僕、汗と涙ぼたぼたでしたよ。活動を頑張っている部員さんが、他人とは思えない! 日文の先生方(宇治先生は講義でしたので、五人)も、拍手していました。前座でうるっときたので、後の裏合唱部は、目の前が水浸しでよう見えん。耳はしっかりはたらいていましたよ! どの曲が印象に残ったか……『箱根八里』ですね! あれを裏声でやっちゃうとは。滝廉太郎がお墓を飛び出してきそうな衝撃でした。ちなみに、僕の裏声は、奥さんと(あによめ)さまによると「完成されたドラアグクイーン」だそうです。

あとがき(めいたもの)

問:倭文野さんの「合唱コンクール」についてエピソードあれば聞かせてください。

答:合唱コンは、中学は戦力外でした。おっさん声に進化する前のきちゃない声でしたので。高校では強制でバスでした。ひどくない!? ふとっちょだからってバスって、偏見じゃないの!? テノール希望だった倭文野でしたが、仕切っていた女子達が、合唱部と吹奏楽部というキラキラキャラでしたので、よう意見を申せなかったのでした。息を吸うだけでも「だまれキモブタ」とね、罵倒されそうでね、ビビっていたのです。倭文野は、クラスでは下位の「闇のヲタグループ」の下っ端だったの! 女子と同じ空気を共有することでさえ、ありがたいことだったのよ!


 改めまして、八十島そらです。朝、なかなか布団からぬけられず、昼にやっと動けるようになり、一日の回転が遅くなるという悪い流れになっております。こんなに寒いと、外に出たくなくなります。

 さて、今回は『スーパーヒロインズ!』番外編「ものぐるほしきことども」の第三段と連動しているという噂です。番外編は第二段までしか投稿していませんが、第五段まで、来月くらいにお届けできる予定です。

 日本文学国語学科の先生方は……名前は架空ですが、人柄は架空だとははっきり言い切れません。「空満大学」のモデルとなった大学関係の方から「あの人物は○○先生じゃないですか?」とご指摘いただいております。そっくりそのまま、ではありませんが、参考にさせてもらっています。もしかしたら、現在もお勤めでいらっしゃる、かもしれません。特に、色濃く出ているのは土御門先生だそうです。

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