神無月の巻(二)
泥団子は、一晩寝かせると大きなチョコボールになる。世の中のことをろくに知っていなかった頃、信じていた事です。明日の腹を満たすために、砂場をぶっとい体で占領し、せっせと汗とよだれをたらして製造しておりました。チョコエッグは空洞なの! 泥団子は中身がぎっしりつまっているんだから、100パーセントチョコレートでしょうがあぁぁ! 昨日の夜、実家に寄ったら兄が「雷のチョコバー」を大量に持って帰ろうとしたので、土下座からの、相撲という協議を経て、僕の取り分が七割に決定いたしました。兄は「このストリート系脂肪野郎め、覚えてろ」と去っていきました。食べ物の恨みは、桁違いです。でも、負ける気しませんね。背丈と頭脳はあっちの勝ちだけれど、体重と力なら僕が能力値高いからね。ついでにカップ麺いくつかもらおうか。親の健康を考えて、息子がありがたくお湯注いでやる。
神無月十六日 僕は中三で発症しました
当時の通り名は「大地の剛球使い」でした。土属性の防御専門ファイターだったのです。めちゃくちゃなカタカナ語です。どうか、お察しください。
萌えた件がありまして。今日、仕事でA・B号棟前の広場を通っていたらですね、プリン探偵を目撃したのですよ! あの難解な神アニメ「プリン探偵 ア・ラ・モード」の主人公をコスプレにチョイスするとは、ただ者じゃありません。日文一回生の与謝野・コスフィオレ・萌子さんのコスプレコレクションの幅は広いですなア。倭文野、与謝野さんファンクラブに入りたてなのです。主なメンバーは日文の先生方と、オタッキーな学生です。美少女がコスプレでっせ。黒髪ロング、モデル体型でっせ。どっかのプロダクションから声かかっていないのかな。センター当選確実やでしかし。
三限が始まったころ、森エリス先生が相変わらずクールなたたずまいで助手席に来られました。
「昨日はゴシックロリータ、今日はお菓子モチーフの探偵か」
森先生は、与謝野さんをよく観察されています。僕がうっかり見逃した日があっても、日誌をつけているのかという風にぱっと答えてくださるから、心強いです。
来週は何コスプレから始まりますかね。
「これまでのデータを基にしたパターンを考えると、お嬢様キャラクターで登校するであろう」
お嬢様キャラですか。そうかもしれないな。先週は薄幸のバイオリニストのコスプレだったものな。恋愛ゲームだったか、なかなかトゥルーエンドにたどり着けない、超上級者向けのヒロインだった。本物は銀髪だけれど、与謝野さん版もありだなと思いましたよ。何着ても似合う人が、うらやましい。僕は大きいサイズ専門ですから。
コスプレだったら、森先生もできそうですよ。全然イタくないと断言できる。お色気寄りの軍服、ハイレグ、と、とにかくセクシーなボンテージ、げふげふげふ!
「倭文野事務助手、咳きこんでいるが、体調がすぐれないのだろうか。風邪だろうか」
「いや、あのう、大丈夫です。先生の真後ろに、その」
ものすごい殺気を放って、近松初徳先生がボ、ボキを見下ろしているのですが!
「森君、突然ですまないが、業務の補佐を頼むよ」
「はい」
森先生、行っちゃったよ……。残念だったな、とへこむ前に、近松先生の「好からぬことを考えているならば、斬る」が伝わる流し目で、震えあがりました。仲良しですのう。
あとがき(めいたもの)
事務助手から見た、日文の先生 六、森エリス先生篇
クールビューティ! デキる女性! 日文男子のマドンナです! 倭文野くんは、森先生を思うだけでご飯三杯はいけます。健全な学生さんは、森先生をまぶたの裏に描くだけで、円盤レンタルの費用を節約できたとか。セクシーなお姉様なのですよね……でへへ。
きびきびした口調なのは、日本語の勉強として、論文を読んでいたからなのだそうです。独国で長く暮らされて(本朝と独国のハーフなのです!)いたので、本朝に渡る前に予習をばっちりされたのだといいます。ここだけの話、本朝のことを教えていた先生は、今の空満大学学長なのです。元は日文の専任教員だったんですって。猫がお好きで口ひげが立派なお方です。
近松先生とは、仕事の関係で二人で行動されています。口頭で説明すると、長くなりそうな理由の予感がします。美人秘書、護衛のくのいち、ボスの右腕、なぜかパートナーの女医さん……想像がふくらんでしまってすみません。僕と同級生で、森先生と近松先生とのロマンスを漫画にしていたやつがいたな。二回生の谷崎君と、三回生の団君が、官能的な話を書いているという噂も。これは近松先生には内緒です。ばれてしまったら、市中引き回しの上、獄門にかけられるでしょう。じゃあ僕、日記書けないじゃん! 近松先生、素直になった方が良いのではありませんか。芸術学部のある先生が、森先生にぞっこんだそうですよ。うわあ、三角かな、四角、五角、それとも八角関係? 森先生は、罪な先生です。
改めまして、八十島そらです。私が「国語表現法」を真面目(?)に受けていた時は、バスや電車で学科の先生と、同じ車両かつ声をかけたら会話が始まるであろう距離なのに、弱虫すぎて孤独に窓のむこうを眺めてばかりでした。せっかくのネタ集めの機会が、何度失われてきたことか。でも、観察はさせてもらいました。服装、他の学生との会話、その他もろもろ。そうやって「八十島の、先生方記録」が分厚くなってゆくのです。つきまとい気質で、大変申し訳ございません。




