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長月の巻(五)


 だーちゃん、この世じゃどうしようもできないことを、できる場所があったら行きたい?


 まるで今日のごはんどうする? のように聞いてくるもので、面食らってしまいました。僕の刀自(とじ)さん、仕事の疲れが抜けきれていないのかな。この世ではどうにもならないこと、いろいろありますよ。僕は、もっと稼いでやりたい。でも、稼ぐにふさわしい能力が無い。それと、親になること、でしょうか。こればかりは、もう神様の領域なので、わがままになってしまいますけれど。そんなどうにもならないことができる場所……この世ではないのですよね。僕、刀自さんにはいい加減な返事をしたくなかったので、まっ正直に言いました。


 行きたくないな。


「あっそ」

 刀自さんの、気にしていないよという素振りは、僕には通じません。あれは、期待した反応じゃなくて落ち込んでいるのだと。僕は、一回限りの「生きる」を、簡単に捨てたくなかったのです。刀自さんがもしも、そんな楽園みたいな世界に行ったとしても、僕は、行かない。代わりに、僕がこの世を、刀自さんの望むような世界に変えてあげる。そして帰ってきてもらう。僕は小さな、無力な野郎です。ひとりで世界をいじくれるわけないけれど、誰かと、いろんな人に頭下げて、大人数で世界を動かしてみせるよ。


  長月二十九日 三連星、来たる

 いい親になれそうだ、保育士さんに適しているよ、など面倒見がいいねイメージがついている倭文野(しずの)くんです。子どもを育てられるのと、子どもが好きなだけなのとは、別だと思うけれどな。僕は、子どもが好きなだけなのよ!

 今日は、元気な三人組が共同研究室にいらっしゃいました。国語学担当の時進(ときすすみ)先生のお孫さんです。長男さんのお子さん、3つ子なのですよ。みんな男の子だから、遊び方が激しいのなんの。お名前が、(ごう)()くん、浄水(じょうすい)くん、旋風(せんぷう)くん、5歳です。近くの空満幼稚園に通われています。お父様はお仕事(陣堂府の大学で国語学の先生されているんですって)、お母様が空満神道本部に駆り出されているため、時進先生が代わりにみることになったそうです。二時間くらい共同研究室で待ってもらって、先生と一緒に帰られました。

 僕ね、三人の遊びに入れてもらっていたのです。覆面ライダーごっこでした。最近のライダーは、一シリーズに何人も変身しているみたいですね。しかも戦う動機が違う。でも、最終的に和解して一緒に悪を倒すのだとか。豪火くんが主人公のライダー・レオで、浄水くんがサポート役のライダー・パイシーズで、旋風くんがライバル役のライダー・ライブラ、僕はというと、悪役の星屑戦闘員をやらせていただきました。三人はどのライダーになるかでじゃんけん、たたき合い、キックし合いをしていたのですが、僕があみだくじをしてあげて落ち着きました。子どもの暴力も、甘くみてはいけませんね。救急箱出しやすくしておいて、正解だった。

 途中、近世文学担当の近松先生と、近現代文学担当の森先生がいらっしゃいました。近松先生がめずらしくおろおろされていたので、びっくりしました。女の子だったら、お馬さんでも熊さんでもなってあげられるのになとぼそっと仰っていたの、聞こえていましたよ。森先生は、子ども苦手そうなのかなと思っていたのですが、僕、誤解していました。けんかしたら、僕は怒ってしまうのに対して、森先生は静かに話をするのですよね。三つ子くんは、それをちゃんと聞いているんだよな。子どもに話をしたって分かるわけないでしょ、が破られましたね。

「子どもは、大人よりも賢い」

 森先生のリリック、倭文野ハートにぶすりときましたよ。ついでに、愚者め、恥を知りなさい、なんてそのバレエシューズで僕の脳天をぐしゃぐしゃと踏みにじっていただけたら……近松先生のただならぬ怒気が迫ってきたので、妄想はここまでにしておきました。言葉に出てしまっていたのかしら。近松先生は、森先生のことになると本気(マジ)になるからな……。

あとがき(めいたもの)

問:日本文学国語学科は、1学年につき何名ですか。

答:定員40名としていますが、それに満たない場合と、越えている場合があります。現在、1回生が40名、2回生が48名、3回生が42名、4回生が38名です。


 改めまして、八十島そらです。もしも、宿泊行事の泊まる場所が、二段ベッドだった場合、できるだけ下の段は避けた方が良いでしょう。夜、部屋に侵入されてわさびチューブを目元に塗られるかもしれません……。かの「○○中学校わさび事件」は、知る人ぞ知るお話です。先生が見回りをするため、部屋の扉は開けたままにしておかねばならなく、それを利用して、男子生徒が無差別に下の段で寝ている生徒にわさびを……。厳重注意されたのだそうですが、その男子生徒が普通に生活しているとなると、世の中の理不尽さを思いますね。彼にとっては、謝ったらはいおしまい、なのでしょう。どうか、道を歩く際はお気を付けて。そのような類いの人は、腐るほどいますから。

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