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長月の巻(一)

  だばだばだ 即席ペアの だばだばだ 恋人の歌 はいだばだばだば

 中学校の音楽でね、男女2人で歌う実技テストがあったのよ。女子は、甘い歌詞を高い声でただ歌っていればよかったんだけどね、男子には「だばだばだば」パートが追加されているってわけ。男てのは、なして恥ずかしいことを背負わされる役なんだべ!? と。だばだばだばを、ダンディボイスになりかけているヘリウム吸ったようなきったねえ声で歌わないといけないのよワタシ!? さなぎまっただ中にカブトムシかクワガタムシのような投げ技ができるわけないやろがあー! だばだばだばを「あ」の音を上げ下げしてごまかせないかなーなんて、倭文野少年は思っていなかったり思っていたり。無理だったんだよな、それが。「あ」で逃げ切った野郎は、チャラ男グループだよ。俺ら以外が使ったら体育館裏でボコる、って目で語っていたんだもん、オタッキーグループの下っ端のワタシには勇気無かったわよ! 極力ボリュームゼロに近づけてぼそぼそ歌う陰気技とか、いっそのこと「だば」を「ばさ」に変えちゃうトリッキー術とか考えつく頭を持ちあわせておらず、倭文野少年は、かわいそうにヘリウムボイスで「だーばだばだばー」しましたよ。組んだ女子? クラスで(下から)一番目にかわいい子に来てほしかったのに、あだ名「ゴールデンストライカー」の気が強い男子寄りの女子を引いてまいましたわい。なんで、ゴールデンストライカーか? あらやだ、もおう! とにかく蹴りがすごいの! やつの隣では、両足をきゅうくつでも閉じなければ命はないの。男限定の狙撃手なの! 命どころか、いつか降ってくるであろう息子か娘、そのまた子ども、そのまた子どもの子どもの命も危険てわけなの! これ以上は……ワタシ、お婿にいけない(いや、いけてます)。

  長月一日 夏休みの宿題は、父と兄貴と共闘してクリアしたワイです。

 そりゃあ、僕だって日本文学国語学科(略して日文)卒ですから、読書をしますよ。というわ、け、で、先週読んだ本の感想を書いちゃおうかな。

 原子博士『元素くんの冒険 賛歌に燃えよ』です。

 元素くんの冒険シリーズの第4弾です。「僕の成り立ち」「厚き壁」「ある狩りに参ず」「賛歌に燃えよ」「ひびけ、諫言」「勇気の申し子 上・下」「表向きの優しさ」「禍々しき咆哮」「素晴らしき黎明」の全9巻あります。原子博士の代表作ですね。化学者が本業なのだそうですが、文学にも興味があったとかで、実験感覚で原稿用紙を埋めていたらいつのまにか数々の物語ができていたのですって。子ども向け、恋愛もの、僕がついつい手をのばしてしまうジャンルを書いていました。ショートショート作品集の『元素ショートショート周期表』もおすすめです。

 物語の主人公・元素くんは、大国の王子様で、何不自由ない生活を送っていたのですが、国民に裏切られて、命を狙われてしまいます。両親、きょうだい、親族、家臣、元素くんの大好きな人達は、腹が立つくらいにひどい拷問を受けて、命を奪われてしまったのです。あんなに平和を愛していて、優しかった国民が突然……元素くんは、強い人間不信におちいりました。恨みが強すぎて、自分に悪意を持つと判断した者を分解してしまう「アトムへの逆らい」という能力を持ってしまいます。じゃあ、異能力で逆転すればいいじゃん! と思いたいところですが「アトムへの逆らい」は、使うたびに元素くんの「大好きな人達との思い出」を削る、とんでもない呪いだったのです。思い出だけを抱いて眠りたい元素くんは、呪いを解くために旅をして、いろいろな人と出会って、もう一度人を信じてみようかな、と考えを改めるのですが、呪いを解かなければならないのは、自分だけじゃなくなってくるのですね。

 「賛歌に燃えよ」では、他人を思えなくなっていた元素くんが初めて、誰かのために行動するようになるのです。「C王国」と「O王国」の戦争を止めるため、両方の国を、仲間の協力を得て説得しにいきます。民を第一に思うあまりに、他国の者を虫扱いするC国の王子に「昨日までは僕も君と同じだった。違う、もっと、残酷な思想だった。でも、君には僕と同じ未来を見てほしくはない」と投げかける元素くんに、僕は、やっと他の人を助けられる余裕ができたんだね、と涙しました。戦争を終わらせるためC王子が、焼ける城で命をかけて演説をする場面も、じっくり読んでいただきたいです。

 元素くんの成長はもちろんですが、恋愛模様も気になっています。みなしごの少女剣士、フラ・レーンか、いつも危機に知恵を授けてくれる瓶詰めの液状化した魔女、ミズ・ガ・ラスか。年が近くて積極的なフラちゃんに、ほとんどの読者は応援しているようですけれど、僕としては、いつもそばで彼を守っているラス姉様を推したいですね。序盤、元素くんが拾ってくれた恩に報いるため、寿命を引き換えにして彼を必ず助けているのですよ!? ラス姉様は、100万年以上は生きられる不思議な存在とね、私におまかせなさいとね、安心させてくれているけれど、元素くんよ、そういう「私を頼りにしていいのよ」ポジションの女性は、ちゃんと守ったらなあかんぞ。次の作品で、ラス様にかかった呪いがえらく進行して、元素くん一行が本当にピンチになるらしいのです。元素くん、ラス姉様の呪いを解いてあげてー!

あとがき(めいたもの)

問:倭文野さんが自慢できることをひとつ教えてください。

答:超絶かわゆい嫁と一緒になれたこと!(は、皆知っているのでカウントなし。とある筋の情報によると、泥団子をきれいに作れるそうです。泥とは思えない白さ)


 改めまして、八十島そらです。だばだばの歌は、演奏専門だったもので、人前で歌ってはいません。ハ長調版とヘ長調版があるのですが、私は後者が好きです。ファの音に、悪魔の響きを感じるので、色恋の歌には向いているのだろうなと思います。昔、雨が降っていて声の状態がよろしくないので授業をお休みしますなんて仰る音楽の先生がいらっしゃったそうな。ほんまかいな。

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