葉月の巻(三)
蟷螂が ヴェルサイユの 花を食む 謎が眠れる 数学科教室
日本文学国語学科卒のエス氏が詠んだそうですよ。エス氏の高校に、「カマキリ」というあだ名がつけられていた数学の先生がいたそうな。あごにかけて細くなっていて、目が飛び出そうに大きくて、怒ったらぎょろりと動くため「カマキリ」なんだとか。カマキリ先生は、数学科教室に、全集を番号順に並べていたのです。仏国に舞う薔薇の少女漫画の全集ですよ。男装の麗人と革命のあの、乙女歌劇団のファンが好きそうなお話です。謎めいた、格好良く潔く生きてゆく少女達の方ではありません。カマキリ先生と少女漫画が、生徒からするとミスマッチに思えたのですよ。妖怪かグロテスク物の間違いだろう、と僕もね(はっ、ばらしてしまったわ)、あの頃は……はい。
本棚に置いてある物で、持ち主のひととなりが何となく分かってしまいますよね。ヨメリータは、デジタル派なので本棚は所有せず。僕は、すみっこ大好きキャラクター関連の本や、ティーンズ向けの短編集を置いてます。若い子に読んでもらいたいから、ジャケットの絵や写真が、手作り物とか、ビーズとか、映えそうな景色ばっかりなのですよ。僕は色鉛筆画に惚れてまいます。それと、レシピ本ね。何系の料理ですって? 大盛りこってりですが? カワイイとこってりは紙一重なんだよォォォォォ!!
葉月十八日 練乳とシロップかけ放題ならば、吸いこんでやります。
今日は登校日でしたので、ホームルーム終了後、共同研究室にて「かき氷の会」を行いました。事務助手が世話役を受け継いできた「かき氷の会」は、学生・教員にかき氷をふるまう、シンプルな会です。他学科、飛び込み参加も可です。去年は、通りすがりの空満市お住まいのご老人と、迷い猫にも楽しんでもらいました。あの猫、妙に人間ぽかったな。小説の主人公にもなれそうで、雄弁な、けものさんでしたよ。
前期の成績表を配るだけ、なのですが、担任の先生によっていろんなホームルームがありまして。1回生の真淵先生学級は、夏期休暇の思い出を短歌にせよ、だったそうです。しかも抜き打ちです。どなたが得をするのか、という話ですよね。真淵先生の実験(陰謀じゃないわよ、決して)説が濃厚です。2回生の安達太良先生学級は、学生全員に成績へのコメントがついていたようです。直筆ですって。ひとりひとりを見てもらっているだなんて、もらった人は温泉につかったような気持ちになるんだろうな。3回生の森先生学級は、進路相談(希望者のみ)と「かき氷の会」の手伝い(いつもありがとうございます)を呼びかけていたと伺っています。4回生の宇治先生学級は、雀と子猫がどこからか入ってきて、混乱になったようです。宇治先生がバランスをくずして教壇から落ちたそうですが、第三柔道部員が感嘆した受け身でセーフ、陸上部員が呆然とするほどの俊足で雀らを捕まえて外へ帰してあげたとか。
来月は、後期の講義が始まります。倭文野くん、ちょっと今年は胸さわぎがするのです。秋に日文で何かが起こるんじゃないのかな、と。それは良いことで、でも、慌ただしそうな、だけれど、楽しそうなことの予感がします。
あとがき(めいたもの)
問:今年の夏休み、倭文野さんは毎朝何をしていますか。
答:奥さんが実家から持って帰ってきた「まりも」の水替えをしているそうです。
改めまして、八十島そらです。自分の性格を誤解されることに、もやもやを感じております。1グラムきっちり秤を使って、調味料やらなんたらを本の通りに計測するなどという煩わしいこと、わざわざ致しませんから。少しのほこりでも気にかかって、完璧に掃除をするわけもなし。適当に生きようと決めている私に、できないことを強制しないでいただきたいものです。…………というお悩み相談をいただきました。どう答えたか? 三文字です。「あーね」です。なるほど、それな、あーね、ふーんが使用技なのですよ、残念なことに。




