葉月の巻(二)
道徳を 守らん輩に 限ってさ ぽんぽこ分身 作るものだよね
倭文野夫人の作です。大型ペットボトルのコーラを忌々しくつかんで、3割ほど飲んで詠みました。炭酸がのどを妨げなかったのが奇跡です。夫人は仕事に熱く燃えて、不正を許さん心をしっかり持っているので、道を踏み外すような人をどうしても汚らわしく思うみたいなのです。
分身に罪はないじゃないか。その人は、もしかしたら親になれば、気持ちが変わるかもしれないよ。分かるよ、今まで好き放題に生きてきた人がね、福祉の対象になるのはおかしいだろとか、自業自得じゃないのとか、イラッとくる気持ちは、僕も無いことは無い。分かるんだけど、あなたは、個人のことにずっと集中するんじゃなくて、住んでいる人全体に分け隔てなく寄り添っていくのがお仕事なんだからね、ずっと怒りを抱えるものじゃないんだよ。それができたら苦労しない、のも、そうだよね、だから僕に話してくれたのよね。こういう発想はどうかしら? その人が自由気ままにやってきた分、神様みたいな、人間には太刀打ちできない大きな何かが「あなたは度が過ぎたので、これからは未来を育てるという苦労をしなさい」とはたらきかけられたんだよ。同じこと繰り返す人もいるけれど、それもやっぱり「もっと頑張りなさい、親のありがたみを思い知りなさい」ってことだから…………。
よしよし、なでなで。倭文野夫人は、まだちょっとご機嫌よろしくなかったのですが、まっすぐ寝室へ行きました。どんな人も幸せでいるべき、という太い柱が、あなたの荷物を重くするのか。仕事場に、僕も一緒にいてあげられたらと思うけれど、僕は要領良くないし、頭の回転も鈍いから筆記試験で落ちるの確定だから……。でもね、夫人、あなたの正しさだけで他人をのぞいてはいないかな。偉そうにきこえるかもしれない、だけれど、その人はとっても追い詰められていて、一日を暮らすのに精いっぱいだとしたら。頑張りたくても、良い方向に変えたくても、頑張れなくて、変えられない人も世間には実際、いるわけでありまして。あなたにも、思いがけなく新しい命を授かる経験があれば、そんな大変な人の、奥の方にある気持ちに近づけるんじゃないかな…………玉ねぎ刻むよりもつらくなってきたよ僕。
葉月十日 書き順めちゃくちゃでも社会をかろうじて渡れているデブ、生息中。
先週、おやつ断ちして1キロ減って歓喜に舞っていたら、今朝3キロ増えていました。ふんづけてやる!
来週の登校日まではお休みのため、未開封のままだった『きれいな字を書きませう 硬筆篇』を読み、練習しておりました。美しい文字になりたくて、始めたのです。小学校の書写で、隣の席のあいつが、お習字教室に通っていてちやほやされていたから、目を盗んで教科書のお手本を半紙の下敷きにして勝とうとした、愚かなる過去があります。あいつ、中学は私学へ行ったそうで、お習字教室はさぼりがちだったんですって。倭文野くん、14歳の夏にその事を聞き、白けたのでした。そんなしょうもないボウヤに対抗してきたなんて、つまらぬ小細工をしてしまったものだ。
日文の先生方は、書き慣れていらっしゃるので当然、僕は100万回生まれ変わったって及びませんね。変換機能に頼りきりで、文学部だったのに、ボケボケですよ。「会報」を「回報」、「予餞会」を「予選会」と書き取ったポンコツ事務助手が、ここにいます。電話のメモで良かった。これ、本番だったら切腹ものだったかも。あついしぼう!
安達太良先生は、すぱーん! と的の中心を射るような字です。板書、どこかの機会で見ましたけれど、黒板消し泣かせですよね。
土御門先生は、抜くべきところで力を抜いている、なめらかな字です。卒業論文のコメント書き、今も大事にしまっています。晩年は、こんな風に書けたらいいな。
宇治先生は……ハンサム、のひと言に尽きますね。数々の戦場をくぐり抜けたかのような、消しゴム・修正液を無効にしそうなバリアフォースをいつでも発動できるような状態。
近松先生は、母性本能くすぐられる書き方です。アタクシでも「あらやだア、手を引いてお家まで送っていきたくなるじゃないのよオ」という心境になりました。モテる男は、違いますね。
森先生は、診察されているような気持ちになります。病院の先生が書いている……カルテというのか、あの細くて解読が難しい字。そっか、独国で長いこと暮らしていらっしゃったから?
時進先生は、あんまり字を書かれていないような…………板書されない口頭スタイルですから。いつ体調が崩れても大丈夫なようにプリントを配っているのは、本当の話なのかもしれません。
真淵先生、筆跡が特定できないのですよね。薄い字の時もあれば、タイプライターで打ったような硬い字の時もありますし、手が取り外しタイプなんじゃないか? とぞくぞくしています。どの字が本当の真淵先生なのでしょうか。
文字は、人となりを表すといわれています。僕は、どんな印象を持たれているのだろう。前に、資料のコピーに来ていた二回生の大和ふみかさんが「大家族のお母さんみたい」とつぶやいていたような。サークル紹介やお知らせをくっつけているホワイトボードに、少し書いただけのものに、ですよ。周りをよく見ているんだな、と思いました。大和さんに「実はものすごい霊力がある、年末年始限定の巫女さん」て役を脳内で当てはめているのは、僕だけのひ・み・つ。
あとがき(めいたもの)
問:倭文野さんは、夏のお休み前半で楽しかったことありましたか。
答:高校時代の友人を訪ね、赤ちゃんと一緒に遊びました。おなかを床にすりつけながらはってこられて、胸がきゅんきゅんしたそうです。あんまんが食べたくなったそうです。
改めまして、八十島そらです。体力をつけるため、夕方散歩に行ったところ、検非違使に質問攻めされてしまいました。双眼鏡を所持していたのが悪かったのでしょうか。傷ついて、しばらくは玄関より先に足を出せません。




