文月の巻(三)
嫂さまと嫁さまとお袋に囲まれて、正座をさせられること1時間耐えた男、倭文野くんです。やらかしたのですよ、女性を敵に回すようなことをね……。兄貴は、こういうときだけ知らん顔をするのです。かわいい弟がつるし上げられているというのに、お慈悲をくれないのですね。昔は、僕のおむつを替えてくれたでしょうが。町内で自慢してくれたでしょうが。妹じゃないと萌えないのかコノヤロー。野郎に生まれきて悪かったな!?
食べ物と体重と家事については、べらべらとしゃべるものではありませんよ。ボキは、ボキは、ただ場が和めばいいなあと、良かれと思って、うう、ううう、ううううう……。泣きに泣いて腹減ったので、親父に米とうなぎを恵んでもらおうっと。あれだよ、なんとか納税でお礼の品をもらったものの、お袋と2人では食べきれないんだ。僕が手伝ってあげよう、どうだ、これが僕の親孝行だ!
文月二十一日 スイカ、何玉持てる?
また「プリムン」の成り立ちについて出題されたそうですね。文学部の必修科目「内嶺文化講」の5は、方言について学ぶのですよ。ある県では母音が5音ではなく○音で、ある県では「ハ行」の発音が「○○○○○」で、どうのこうの……先生からの出血大サービス問題ですから(倭文野くん現役時代の学科団の先輩方談)、怖れることなく立ち向かってくださいね! もう終わっちゃったけれど。
テスト期間終了ということで、日本文学国語学科共同研究室ではお疲れ様の気持ちをこめて、スイカをふるまいました。祖父がトラック出してくれて、楽に運べました。育ててくれた叔父に、感謝。先生方も学生さんも、喜んで召し上がってくれました。
スイカ好きの安達太良まゆみ先生、今年も1玉軽くいきましたね。ご自宅用に2玉、自転車に乗せて持って帰られるそうです。気に入ってくださっていて、何よりです。
安達太良先生は、去年赴任されたので、僕、まだまだ知らないことがあるのですよ。ご実家、お住まいともに空満市であること、弓道がお得意であること、三度の飯よりカレーとスイカであること、土御門先生とは永遠のライバルであること、実は日文のOGであること。分かっていることはそれくらいでして、今後もお世話になりますから、いっぱい話してみたいです。
今日、先生について知ったことをひとつ。先生が「まゆみ先生」と学生から呼ばれている理由です。世間では、先生を名前で呼ぶのは敬意を払っていない、といわれるものですが、安達太良先生から「まゆみ先生でいいわ」で広めていらっしゃるのです。とても珍しい名字のため、覚えにくいことと、発音上呼びにくいことから、名字ではなく名前で呼んでもらっているそうです。
「お祈りとかお呪いとかで何かと物騒なことで有名な家なものだから、まゆみで覚えてもらっているのよー」
僕は、かっこいいと思いますけれどもね。安達太良、引き締まった名字ではありませんか。
「ふふっ、そう褒められると嬉しいものね。自分の名前は、好きよ。『萬葉集』にも載っているのよ。陸奥の安達太良まゆみ! てね」
僕も自分の名前、なんだかんだいって好き……ですよ。先生みたいに、どこかの和歌にも詠まれていますから。嫁さまにも、名前好きだよって言われてますし……うふうふ。
事務助手から見た、日文の先生 四、安達太良まゆみ先生篇
20問までなら、答えてもいいわよ、とのことですので、質問してみました。
問1:お誕生日はいつですか。
安達太良先生(以下安):霜月十一日よ。あの細長いチョコレート菓子の日、電池の日、サッカーの日、靴下の日、チンアナゴの日とも呼ばれているわねー。昔私の誕生日でネタにされていたこともあったかしら。
問2:空満市出身だそうですが、学校も地元だったのですか。
安:そうね、小・中は近くの市立校だったわ。高校は家から一駅分の県立校に通っていたわね。自転車通学禁止だけど、こっそり乗ってたわー(これ、オフレコね)。大学は吉野女子大を目指したけど一浪して、滑り止めのそのまた滑り止めで空満に入ったの。あなたと同じ日文。大学院は、吉野女子大へ行って、それから講師として西へ東へと教えていたわね。去年にやっと母校に来て、今に至ります。
問3:ちなみに、血液型は。
安:Aに近いB型よ。献血したいんだけど、私ったら夏に限らず痩せているでしょ、職員さんに止められてしまうのよねー。スリーサイズもおまけに教えてあげるけど。え? 遠慮しなくてもいいのよ?
問4:学生の頃、部活はされていましたか?
安:小・中は放送部。県の早口言葉大会でいつもベスト3には入っていたわね。高校は合唱部。アルトでたまにソプラノに回っていたかな。大学は実家の弓道場を頼まれていたから、帰宅部ね……。
問5:高校時代の得意教科を教えてください。
安:音楽と倫理。いわゆる「副教科好き」よ。特に声楽とギリシア哲学ができたわねー。
問6:高校時代で苦手な教科はありましたか。
安:政治経済。先生がいみじくイヤな人物だったの! 当てる時に、いちいち生徒の机を指でコンコン叩きまわるし、ダミ声も無理だった。それと、数学。こんなのいつ使うのかしらーってブツブツ文句いってね。この2教科のテストはほとんど白紙で出してやったものよ。
問7:大学生時代について教えていただけますか。
安:ふふっ、いいの? ずっと本ばっかり読んでいたわよ。真面目で大人しくて、一日喋らないこともあったな。あらー、そんなにビックリしないの。ま、今と全然ちがうってことが分かれば良し!
問8:先生はなぜ『萬葉集』を研究しようと思われたのですか。
安:高校で古典ができなくて、追試受けるほどだったの。その補習でね、担当されてた先生が「お前たちに、この歌教えてやる」って、萬葉の巻十六・3827番、双六の歌ね。サイコロの目を並べた歌を詠まれたのよ。そのまんまじゃない、と追試メンバーみんなで言ってたら、「当たり前じゃないかと思うことも、古典として残っているんだ。なあ、ちっともこわくないだろ?」と先生が仰ったわけ。その言葉に頭の中がパアーっと明るくなって、もっと『萬葉集』知りたい! って思ったのよ。あの日からとりつかれたように読みふけってね……。特に虫麻呂に興味があって、いつの間にか研究していたの。
問9:今年の担当講義をうかがってもよろしいですか。
安:上代文学研究A~D、日本文学講読A、空満基本講義(日文)C、日本文学基礎演習B、日本文学演習(上代)A・B、卒業論文演習(上代)A・B、ね。
問10:教える時に気をつけていることはありますか?
安:楽しく学べるようにする! これが第一。分かりやすい説明も大切よね。なかなか難しいけど。
問11:ご自身を漢字1文字で表すと何ですか。これ、学生の間で流行っているみたいでして。
安:雲。私って、こうみえてもふわふわしているから。
問12:好きな色は何ですか。
安:白。昔は黒だった。そういえば、好きな色って性格を表すそうねー。倭文野さんは蛍光のピンクとオレンジが好きなのよね? 温厚なんだけど、時にはっちゃけたくなるところあるんじゃない? あらー、当たっちゃった?
問13:好きな食べ物は何でしょうか。
安:カレー。ドライでもスープでもパンでもどんと来い! よ。うどんは除くけど。辛ければ辛いほど燃えあがる感じね。そうそう、死ぬまでに一度は、カレーの海を泳ぎまわってみたいものだわ。それと、スイカ。安達太良家では白い部分が見えるまで食べるのが決まり!
問14:好きなかき氷の味は何ですか。次回、かき氷の会しますので参考に。
安:みぞれかしらね。エメラルドパインも気になる……すいか味は無いの?
問15:趣味は何ですか。
安:よくぞ聞いてくれました!! ひとつは、歌うこと。適当に作って、どこでも声出すの。この前は「靴下の穴」を歌ったわね。もうひとつは、深夜のテレビとラジオ。おすすめはテレビは「古点戦隊ゴセンジャー」と「ひが耳アワー」、ラジオは「青春宝島」と「想像のジェット気流」。ふふっ。
問16:これだけは許せない物を3つ挙げてください。
安:食べ残し、知ったかぶり、一輪車!
問17:えーと、日本文学国語学科の先生方に一言を。
安:土御門先生→先日の約束通り、まゆみスペシャルを一週間おごってもらいますわよ。おほほほほっ。
宇治先生→いつもスカートがお似合いですわね。そして、先生の作品に臨む態度、見習いたいです。
近松先生→剣道対弓道、またお手合わせをお願いしますわ。まだ、私の力を出し切れていないように思えますの。今度は真剣を使ってくださいませ。
森先生→女性として尊敬しております。凛々しいお姿、素敵です。特に近松先生と並ばれると、絵になりますわ。
真淵先生→今度「ひが耳アワー」に投稿しますので、ご指導ください。よろしくお願いいたします。
時進先生→鉄分補給についてよい方法を見つけましたの。またお話いたしますわ。
問18:まゆみスペシャルとは何ですか?
安:空満大学食堂のオリジナルメニューよ。その日に出す全てのメニューをごはんの上にかけたりのせたりした、夢のような一品! カウンターで500円出して、声をかけたら誰でも食べられるわ。私が空満で実現できたことのひとつね。
問19:一日だけ変身できるとしたら、何になりたいですか。
安:そうねえ……、風車になってみたいかな。からから回るのって、どんな感じなのかしら。
問20:最後に、好きな『萬葉集』の歌を教えてください。
安:良し! いいわよ。巻九・1755番歌、虫麻呂の長歌。ほととぎすを詠んでいるんだけど、托卵のため鶯に紛れて生まれているのよね。鳴き声は両親に似るわけもなし、孤独に飛んでゆく姿は、身につまされるわ。
あとがき(めいたもの)
注:まゆみ先生は、あとがきにしては長かったため、本文に入れております。
改めまして、八十島そらです。和歌に自分の名前が入っていたら、嬉しくありませんか?八十島も、百人一首あたりでちらりと見かけますので、声に出して詠まれたら、心の中でうふふ、と笑っています。表には出せません、公共の福祉に反する醜さでございましてね。
安達太良まゆみ先生について、関係者より「○○さんがモデルか?」「どこそこのなんとかさんではありませんか?」「あの伝説の先生では?」といろいろ訊かれていますが、それはまた別の場所にて、答えにはならないけれども、なにかサインを残そうと思っています。




