文月の巻(一)
晩ごはんの仕度だけで、時間をごそっと奪われるのは僕だけでしょうか。北の方、ついに激怒しましてね、夏場は君が家事をしなさいと言い渡されたのです。朝早く出勤、夜遅くまでお勤めなので、家の事まで手が回らないみたいです。僕は全然、嫌じゃありませんよ。どちらかが忙しかったら、どちらかが助けてあげなくては。北の方の職場は土日、祝日がお休みで、世間からは定時で帰れる優良な所だと思われがちなのですが、全然違うみたいですよ。ハズレな上司に当たってしまったら、休日も作業させられ(人が来ないから集中しやすい、の考えがあるそうです)、中には日付が変わるまで働いている方もいるとか。でも……これは北の方には言いませんが、休日行った分と残って仕事をした分、お給料もらえるのは、とてもうらやましいですね。代休も取れるそうではないですか。その代わり精神的にまいる業務をこなさないとならないから、ゆっくり休んでもらいましょう。
ご飯の仕度中、この間飲みに行った高校時代の友人から聞いた、廊下で女子が餃子焼いていた件を脳内再生していました。
友人が部活で校内走り込みをしていたら、三階の廊下でホットプレートをONして餃子を焼く女子と出会ったと。理想のタイプではなかったけれど運命を感じて、勇気を出し話しかけてみたら、
「あんたにやるギョーザはあらへん」
玉砕して、異性間コミュニケーション能力を、がくっと下げられ彼女いない歴を更新し続ける友人であったとさ。後日、餃子の君は、吹奏楽部の新入部員歓迎ピクニックのためひたすら焼いていたそうです。家庭科室の許可が取れなかったので、生物教師の副顧問が、生物実験室を貸したのだといいます。お弁当に気合いを入れに入れたので、コンセントが混線(笑うところではありませんからね! コンロが無いからたこ焼き器やプレートに頼るしかなかったそうなの)し、餃子の君はあぶれて廊下で……になったのです。四階にはクレープを作る筋肉ダルマがいたらしいです。料理担当は「お調理婦人」と呼ばれていたのですってよ。どこのスポ根やねん、ブラスバンド関係ないやろ。
文月七日 恋するロシアンたこ焼き
倭文野くんは、北の方の実家でサプライズ行事「ロシアンシュークリーム」で二等からし味を当てました。
今日の4限後、奥の休憩スペースで2回生司書課程4人組による「ロシアンたこ焼き」が行われました。研究棟内は火気厳禁のため、電気で調理してもらいました。一個だけたこ以外の「○○焼き」にして、食べた人は恋愛話をしてもらう、乙女な遊びです。公平にするため(?)僕が中身を入れてました。以下、和泉さん、曽我さん、本居さん、大和さんの女子トークを、書き出しました。
曽我さん:記念すべき1回目の当たりは、モトちゃん! チョコ入ってたでしょー、逃げられないよー。
本居さん:あはは、ルールやもんなぁ。どないしよ、恋ゆうたって、うちそないな話ないんやけどぉ……。
大和さん:え、大ありでしょ。
和泉さん:あったね。夕陽といえば、あのお方。
曽我さん:真淵先生―!
大和さん:先生のことになると、暴走するもんね。言っちゃおうよ、楽になるから。
本居さん:ふええ! 愛しの真淵先生とは、まともにお話したことはないんやよ。講義で目が合ったらラッキーなくらいでなぁ……。
和泉さん:そう? 真淵先生、夕陽を気に入ってない? 夕陽さん、て呼んでいるもの。
曽我さん:ホントにそれだわ! あれなんで? 名字と間違えている説は消えてるし。あんなイケメンにセクハラ感はしないしさ、なんでよ。
本居さん:うちも知らへんねんよ。最初から名前で呼ばれてたんやわぁ。
和泉さん:ふみか、なんか怒ってる? 不機嫌そうだけど……。
大和さん:べ、別に怒ってなんかないよ。うん。
曽我さん:さては妬いてるなー? 大和夫妻、解消の危機!
大和さん:ちょ、違うってば。というか、夫妻って何。
曽我さん:あれ? ふみかっちとモトちゃん、まゆみ先生学級じゃ、夫婦っぽいって有名だよー。
和泉さん:無口なふみかと、尽くす夕陽が昔の夫婦みたい、だって。寮でも広まっていたよ。
大和さん:え、ええ。
曽我さん:真淵先生にかっさらわれちゃうかもしれないよ? ダンナさん、お気をつけあそばせ!
本居さん:るりちゃん、あんまりからかいすぎたら、ふみちゃんしょげてまうからほどほどにしたげてなぁ。
大和さん:しょげてないから。
曽我さん:ごめんね。でさー、真淵先生は脈アリだと思うよ。押しまくっちゃえ!
本居さん:せやなぁ……今度のテスト、頑張って百点取ろかなぁ。
和泉さん:夕陽なら余裕です。どの講義でも最高点なんでしょう。
曽我さん:そんじゃあキュン度上げられないって。手作りお菓子でしょーが。
本居さん:うち、お料理はあんまり得意やないんやよ……。
大和さん:図書室でしょっちゅうレシピ本借りておいてよく言うよ。
曽我さん・和泉さん:おおー。
本居さん:レモンゼリーでも、作ってみよかなぁ。
曽我さん:その意気だよ!
大和さん:あ、あの、私にもください。
本居さん:えぇよー。ぎょうさん作ってくるから楽しみにしててなぁ。
日本文学国語学科では、国語学の講義に、会話分析というものがあります。あらゆる会話から、方言、独特の言い回し、流行語などを切り口に、研究します。僕は、ただ聞いていただけなので、深く読みませんが、日常会話も充分、分析に使えるそうです。
あとがき(めいたもの)
倭文野さんの短冊「奥さんと一緒に、おいしい物を食べ尽くす旅に行きたいです」
日本文学国語学科共同研究室に、笹を立てておいたところ、たくさんの学生さん、先生方の短冊が結ばれて、カラフルになっておりました。近所の村雲神社に奉納しておきますね。
事務助手から見た、日文の先生 三、真淵丈夫先生篇
ここで働いている身なので、割り切っていますが、ちょっと苦手な先生なのです……。恐ろしいイメージがあるのですよ。
ミステリアスな先生です。知らないうちにお見えになっていた、ちょっと目を離した隙にいなくなっていた、忍者か、瞬間移動の使い手なのではないかと思っています。附属空満図書館の司書でもいらっしゃるので、個人研究室よりも空満図書館を訪ねた方が、お会いできる確率高しです。国語学の講義の他、司書課程の講義も担当されています。昔は、日本語教員課程必修の「音声学」も教えられていたそうですよ。聴覚が鋭くて、警察に捜査協力の依頼が来た噂も。変声機を使った犯人の正体と居場所を簡単に突きとめたそうです。
真淵先生は、近松先生に次いで女子学生の人気が高いですね。いつも笑みを絶やさない、時々開く瞳がきれい、細い体で弱そうなのに「こう見えて男ですよ」という力強さのギャップに惚れちゃう、源氏さんも霞んでまうような清らな男性なんですよぉ! …………僕も黄色い声に包まれてみたかったな。熊みたいなルックスだよ? おなごは熊が好きなんだろう? 妻も僕の第一印象「熊さん」だったよ? どうしてモテなかったのかな? 呪呪呪。
先生の胸元につけていらっしゃるブローチ、女性用な気がするのですが、いわくつきなのでしょうか。訊いてみたいけれど、真実を知ってしまえば最後、魂を抜かれてしまうのではないかと変な心配をしていて、訊けていないのです。時進先生の五男くんは、先生と仲良いのかな。五男くんは空満図書館の司書、日文OB(僕の後輩です!)だから、組むこと多いんじゃないかな。手が空いたら、会ってみよう。
改めまして、八十島そらです。
元気がほしいな、と思ったら、音楽を聞いています。ジャンルは問わず、今日の気分はこれだ!
という曲を選んでいます。
体がものすごく調子が悪くて、寝込んでいた時に、ある歌い手さんの「歌ってみた」をかけて
みたのです。力強い歌声で、気持ちが負の方向に行くのを止めてくれまして。時々、艶のある
声に変わるのも素敵だなと思いました。「我香芽」さんという方なのだそうですが、あまり更新
されていないようなのです。もっと他の曲も聞いてみたいのに、残念です。私個人として、歌って
もらいたい曲がいろいろあるのです。メールを送ってみたものの、お忙しい様子で。我香芽さん、
あの時は生きる力を与えてくださり、ありがとうございます。




