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水無月の巻(五)

 水無月と葉月は、相方さまがイライラする魔の月なのです。相方さまの仕事がですね、その時期がものすごく忙しいそうでして。毎年1万人と戦う修羅ステージなのだとか。

 「まち」のなんでも屋みたいな仕事であること、相方さまがとても正義感が強いことがあって、ストレスが溜まっていくのです。夫である僕が、ちょっとでも心が軽くなってもらえればいいなと思い、お話を寝る前に聞いています。2時間話してくれました。なんかね、締め切り守れ、国外に住んでいるのに国内に住んでいるふりをして不正受給するな、保険証と免許証をなぜ間違える書き方100回読んでくれや、無料で産めると思うなよ、何を勉強しに留学してんだ保健体育なら自分んちでもできるだろ、ワイを指名するないちいち覚えてるわけないんじゃ、あああ家系ラーメン食べたい食べさせろ明日な明日連れてけよとね。ひとりで抱えこまないで、僕に話してくれて。ああ夫婦になって、君は良い方向に変わってきたんだなと思いました。もやもや、イライラは大好きな人に洗いざらい話したらすっきりできますよ。明日は家系ラーメン、こってり味おごってあげるからね。僕は大盛りライス付きを!


  水無月三十日 「公職」を「好色」と変換ミスして、胸がざわつく俺です

 え? ()文野(ずの)くんは学生時代、如月十四日のチョコレートはお母ちゃんだけだったって? どうして僕がモテないの知っているんだよ。中学生の頃、梅雨の空き教室でバスケ部のシニヨンちゃんに「読んでください!」と手紙をもらい、即開けてみたら「好きです付き合ってください       うっそぴょ~ん」。罰ゲームで僕にウソ告白をする女子が、ますます信じられなくなって。僕の女子への接し方は最奥部に達してしまって……。健全な女子中学生、女子高生、女子大生の皆様、告白するなら本気でお願いします。あなた方の軽い「好き、うそやけど」が、精神を重体にさせるかもしれないのです。倭文野くんは幸い、好きな人ができて今では激甘激アツの夫婦生活を送っていますが、誰も愛せなくなる場合もありますからね! 考えたくありませんが、恨まれて刃傷沙汰にまで及ぶ可能性も無きにしも非ずです。ご注意ください。


 学科団の子に、講義前に共同研究室の紹介をしてもらったこともあり、一回生が入りやすくなって、事務助手として喜んでいます。

 三限目終了後、寄ってくれた一回生の男子達が奥の応接間兼休憩スペースを見て、リアクションしていたのです。鼻血が出そう、顔がゆでだこみたいに真っ赤、口を酸欠の金魚のようにぱくぱく、昭和に流行った「びっくり仰天ポーズ」をとる、お経を唱える。ういやつらめ。

 若い衆は、近松先生にドギマギさせられたのですね。そりゃあね、両手に花でお茶を飲んでいらっしゃいますからね。右手はマグカップを持って森エリス先生の肩に回し、左手は宇治紘子先生の肩に着地寸前。

「ギリセーフなのか、アウト?」

 君よ、憂いてくれるな。森先生は、これが近松先生なのだから、と割り切っていますからセーフ。宇治先生は肩にタッチしていたら大騒ぎですがほらね、ちょっと手を浮かせているでしょう。身を固くしていらっしゃいますけれども、近松先生はちゃんと女性を見ているのですよ。免疫の有る無しを見極めて加減しているのですから。

「ちきしょう、おれにはモテ期来ないんか」

 焦ることないさ。シ・ズーノ・オ・ダマキーは人生に3回あるといふモテ期なるものを迎えることはなかったが、めっさきれいな花嫁やってきて、天国へ昇ったんだよ。近松先生はね、人間版「世界の恋人」なのよ。最初から比べちゃあ、いけませぬよ。これ、学生には絶対していませんのでね、隣に座ってもよござんすよ。

「ふぬ? 諸君、いつまで棒立ちになっているのかね」

 出たー! 近松先生必殺の、流し目!! 夏恋、はじめました。……いかん、いかん! 僕が落とされてどうするよ。ところで先生方、お茶のおかわりいかがですか。学生さんも、適当に掛けてください。冷え冷えの、お出ししますねー。


 あとがき(めいたもの) 

 事務助手から見た、日文の先生 二、近松(ちかまつ)初徳(そめのり)先生篇


 もし、1日だけ入れ替われるなら、近松先生になりたいです。モテたい。


 女性によく囲まれています。恋多き人生を歩まれているとご自分で仰っています。士族の出身でして、武道がお上手です。演劇部の顧問をされていまして、戯曲も書いていらっしゃいます。毎年大学祭で新作を発表し、世を賑わせています。恋愛物では右に出る者はいないとか。ラジオ劇「朝と夜のキムチに寄せて」僕聞いてみました、声だけで泣かされました。今は心中がお気に入りなのでしょうか。近現代文学担当の森エリス先生がいつもそばについています……危険な香りがしますね。先生のゼミは、不思議と全員女子学生です。ゼミ生との卒業旅行を計画して、時進先生に許可をもらおうとされているのですが、ことごとく却下されています。近松先生ときたら、湯けむり○○事件をつい連想してしまいます。僕だけですか?


 改めまして、八十島そらです。

 もう半年を超えたのですね。月日が経つのは早いものです。どこかの子ども番組で、雷様とお日様とお月様が旅行へ出かけたが、翌朝、宿には雷様だけが残っていて、あとはとっくに発ってしまった、そのオチは……という小咄があったはず。子ども教育番組、見ていて飽きませんね。毎日がお熱を出して家で静かに過ごしている小学生みたいなものですよ、八十島は。

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