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水無月の巻(四)

やかましくもなく、無口でもない、適度にしゃべる男、倭文野(しずの)穏万喜(おだまき)です。あと20年したら「話は、たしなむほどに」と格好良く言えるおじさまに……なりたいな。

思春期は口数が減るようでして、僕も中学校最後あたりから高校出るまで、黙っていることが多かったと思います。親には、挨拶だけ。今日はどんなことがあったの? と訊かれたら「ふつう」のみでした。もうお子様じゃないんだぜ? 男にはいろいろあるんだよ、背中を見りゃわかるさ……。何人か友達といると、聞き役にまわっていることがしばしば。アニメ・マンガ・ゲーム大好き、電化製品大好き(特にパソコンね)、週末はリュックを背負って新たな文化を開拓しに行く男衆にも、外向的な者と内向的な者とがいまして、僕は、後の方でした(わりと仲が良かったやつに言われて、最初は納得できなかったな。僕、しゃべりに行く方なのに)。

話を聞くことに慣れていると、遠くでやっている会話まで耳に入ってくるのですよ。盗み聞き、というものです。まあ、倭文野くんたら、いやらしいわね。

高校2年生のクラス遠足、行きのバスにて。

「なーなー、俺んちのじいちゃん、なんて名前と思う?」

「シゲゾウか」

「俺のじいちゃん、ヘイヨウつーねん。HEY,YO!」

「おもろー」

 肉食系の男子グループは、皆笑っていましたが、僕はあまり面白いとは思いませんでした。家族の名前をいじるのは、いくら親しくても失礼な気がしまして。僕の祖父は、ダテマキです。冗談です。カミさんは笑って「は? そいつら一族まとめて土に還れ」と評していました。

 高校3年生の体育大会、クラス対抗ダンスコンテスト出番待ちの時。

「紫は欲求不満の色」

「え、んじゃ、3組みんなアレなわけ?」

「欲求不満なさわやかじゃない3組」

「うわ、私明日から紫の服着られへんやん。飢えてるって思われるやん」

 吹奏楽部の女子2人組だったかな。高度な話をしているじゃないのと感心していたのですが、承認とか自己実現の欲求の話じゃなかったようです。どうして、男子でそっちの話をしたら「下品」「サイテー」と蔑まれるのに、女子がしたら、秘め事に聞こえるんだ。うらやましく思えるんだ。僕も紫の服着られなくなったじゃないか。次のゴミの日に捨てましたよ。

 他人の話は、聞こえていないふりをしてこそっと拾っておくと、なにかと楽しめますね。4回に1回くらいは、盗んでもバチ当たらないのではないでしょうか。


水無月二十一日 サイドのカード3枚取れるだと!? 僕が抜けた間にそんな進化を遂げていたのか!


僕の恩師、土御門(つちみかど)先生がおなかをさすりながら、よろよろ共同研究室へいらっしゃいました。

「赤のエネルギー符を引けとったら、こないな悪食せんでもよかったんや」

 (そら)(みつ)大学の名物となりつつある、安達(あだ)太良(たら)まゆみ先生との「お昼ご飯勝負」に負けて、超山盛りのカレーライスを食べさせられたそうです。勝った方が選んだメニューを、一緒に召し上がる決まりなのです。

「お嬢は、白の属性を使うんや。なんや特徴の無いもんやないか、勝ちはいただきましたぞ。それがや、白の属性は、どの属性のエネルギー符でも技出せるんや。ずるうないか」

今日は、大人気のカードゲームで対決されていたのですね。僕も子どもの時に遊んでいました。僕は茶色の属性と、グレーの属性を組み合わせていましたね。どちらも手堅くダメージを与えられるので、町内では負け知らずでしたよ。

「あれは、拡張パックとやらで強められとった。わたしも2、3枚はパックのレアカードを入れとったんや。安達太良嬢は一からデッキを組んどったんやないか? 箱ごと()うとるに違いないわ」

あー、最近発売されたという「はじめようデッキ」を使われたのでしょう。各タイプ揃っているから、迷ってしまって、全種類購入した人もいたみたいです。大人も遊んでいるから、売り切れ続出なのですよ。

「『きよめのメガブレイズ』が使えたら、300ダメージ、控えの(けもの)符全部にも50ダメージ与えて、サイドのカード3枚取れて勝てたんや。あの運任せな『くびをふる』に敗れてもうたんが、悔しいてたまらんのや」

えええええ、サイドのカード一気に3枚取れるんだ。僕の頃は、1体倒すごとに1枚でしたよ。カミさんから聞いたけれど、サイド6枚を3枚にして短時間でバトルできる遊び方もできたんですって。カードゲームも環境が変わっていくものなのですね。

「いうことやから()文野(ずの)や、3限空いとるやろ。わたしのトレーニングとやらに付き合いなされ」

先生、あいにく僕にはデッキが…………。

「心配はいらん、わたしの研究室においとる。好きなタイプ使い。白と青以外やったらええわ」

赤は、青のタイプに弱いですからね。先生、見落とされているようですが、茶色のタイプも赤にとっては不利なのですよ。

「わたしが勝つまで、やりますぞ。安達太良嬢や、見とれよ、必ずやひと泡ふかせたる」

1回目は茶色で、2回目はグレーか緑に変えて、先生には気持ち良く勝負を決めていただくとしましょうか。


あとがき(めいたもの)

問:倭文野さんの奥さんは、どんなお仕事をされているのですか。

答:「空満市」という機関で働いています。住民の幸せに関する仕事をする部署に所属しています。悲しい話、奥さんと所得の差がかなり開いてきています。

 改めまして、八十島そらです。体調がとても良いので、私に関するお話をひとつ。

「国語表現法」のような、小説を書く講義は実際にあります。講義名は様々なようですが、2,000字以上の超短編を書いているのではないでしょうか。私も大学でそんな講義を受けていました。最終課題で、先生が出したお題(時計と雲、哲学の香りがしますね……)で小説を書け、とありまして。先生は、文集という形として残してくださったのですよ。皆の考えていることや自我が、小説を通して読める読める(悪趣味です)。各作品について先生が講評されていました。文集の表紙イラストを描いたこともあってなのか、私の小説はなかなかの好評価だったと覚えています。後で冷静になって振り返ってみたのですが、あれは……本心で仰ったことではなかったのかもしれません。だらだらとしたくどい文章をわざわざ書いてくれてどうも、を遠回しに、優しく、傷つけずに包装されたお言葉だったのかもしれません(言葉の裏が分からなければ、ただの愚か者。分かったらもう二度とそのような真似をするな。言葉はそのままの意味で受け取れないのが、難しい、多くの方が人間関係に疲れを感じるのは、これが大きな原因なのでしょうね)。

……それでも、本当に「ほめ言葉」じゃなかったとしても。担当の先生からの評価があって、私はつらつらと書き続けているのでして。人は、「勘違い」で、行動できるようにも、夢に向かって羽ばたけることも、できるのですよ。私みたいに……。先生は、私のことなんぞ忘れられているとは思いますが(影薄かったですし)、私は先生の言葉、しっかり覚えています。これからも書いていきます。


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