水無月の巻(三)
兄やん、げんきか。この前、いもほりに行ったよ。
さつまいも、兄やんにもあげるから、おれに天しんあまぐりちょうだい。
じゃあね。
小学校1年か2年かの図工で「秋のお手紙を書きましょう」というものをしたのです。倭文野くんは、上のような拙い文章と、サツマイモと栗の絵を描きました。これ、郵便局のコンテストだったそうで、僕、局長賞をいただいたのですよ。美しき兄弟愛とやらが、大人達のハートをつかんだそうでして。ブラザーコンプレックスのつもりで書いたわけではなかったのにな。物々交換を提案しただけなのにな。なんで賞を取ったのかな。兄も食いしん坊でしたので、芋も栗も兄の胃の中でしたよ。泣きじゃくった弟くんは、父ちゃんに甘栗1袋もらって、独り占めして満足しましたけれどもね。
水無月十四日 手紙を く れ な い か
手紙ね、もう何年も書いていないです。携帯かパソコンのメールなら、ほぼ毎日打っていますが。
今日、共同研究室に来てくださった2回生の方々が「今回の国語表現は、手紙を書くことが課題だ」と話していました。気になったもので訊いてみたところ「手書きであれば、何に書いても自由」「ただし持ち運びできる物であること、もちろん法律違反しない範囲で」「誰に宛てても良い、実在、架空、ご存命の方、故人……人間じゃなくても可」とのことでした。
僕も書きたくなっていました。手紙といえば、昔、かえるがお家のポストに住みついて、手紙が来るのを待っているというお話、ありませんでしたか? 男の子の家だったかな、その子がポストを見に行ったら、かえるが勝手に郵便物を読んでいて「ずるいぞ!」と怒ったら、かえるが「僕の家なのだから、家に来た物を見てなにが悪い」と返したのが、憎たらしかったのですよ。倭文野くんのポストには、カタツムリが来てました。お袋がハエ用の除去スプレーかけて追い払っていましたが。あいつ、どこかへ逃げたと思うけれど、元気しているのかな。子や孫の世代が生きのびているのかも。
では、僕はあの先生に「おてまみ」書きますか。
土御門隆彬先生へ
いつもお会いしていますが、お元気でいらっしゃいますか。私は、甲斐性のある妻のおかげで、とても元気に過ごしています。
安達太良まゆみ先生と昼食をかけた勝負、陰ながら応援しております。先日は、和歌トレーディングカードゲームで決闘をされていましたね。安達太良先生の萬葉デッキを、先生の古今デッキで鮮やかに勝利されていました。切り札の小野小町「わが身世にふる」で、安達太良先生にダイレクトアタックしたところが、最高でした。
安達太良先生と食堂で一緒にいらっしゃることが多くて、私は少し寂しく思っております。安達太良先生は空満大学のOGで、土御門先生が担任をされていたとうかがっておりますが、私も空満大学のOBです。王朝文学講読会の元会員です。月に1回でも構いませんので、どうか、昼食を一緒にとらせてください。以前、先生にインスタントの焼きそばを湯切りを忘れてしまって、お出ししたことがありましたので、そのお詫びをしたいのです。からしマヨネーズ付きの物か、海鮮塩味か、お好きな方をもう一度作らせてください。両方お作りすることもできます。カップうどん、ラーメン、他にもいろいろ揃えております。先生のご恩を、お返ししたいのです。
結びに、安達太良先生が来週の勝負は借り物競走にする、と仰っていました。特大の白いテディベア、日本文学国語学科の腕章、台本、ティーコジー、附属空満図書館の貸出証のどれかが当たりそうです。時進誠先生、宇治紘子先生、近松初徳先生、森エリス先生、真淵丈夫先生に前もって声をかけておきます。ご武運を。
倭文野 穏万喜
あとがき(めいたもの)
問:倭文野さんは、土御門先生と仲良くお昼ご飯食べましたか。
答:手紙を渡してから2日後に、男ふたりで超大盛りヤング向け焼きそばを食していました。1人1食です、調理は倭文野さんが責任を持って行いました。
改めまして、八十島そらです。インスタントの焼きそばは、激辛味が好きです。途中で水分補給したらかえって辛味を感じるという説を信じていますので、完食するまで水なしで耐えています。もう二度と挑戦しない! と言いつつも、また食べたいと思うのは……変なのでしょうか。




