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風の音に負けぬよう、少佐が大声で皆を鼓舞する。それに促され七人はのろのろと歩きだした。

 確かに風は恐ろしく激しく、皆をあの蒼黒い奈落の様な空へ吹き飛ばそうと容赦なく吹きつけてくるが、こちらも負けじと氷の地面に氷斧ピッケルの石突と鉄カンジキの爪を叩き込みつつ前へ前へと進む。

 ここでも一時間かけて頂上直下にたどり着く、わたしは送信機を背負うケジャさんと発電機を背負うペンチャさんにそこで機材を下すように指示。梱包を解き設置を始めた。

 カク教授とオウオミ先生、そして私や開発班皆の努力の結晶。いまその真価がためされる。

 あの飛行機や飛行船の発動機の様な発電機がまず最初に据えられ、何本もの綱や氷杭アイススクリューでしっかり固定される。

 そこから導線を同じく固定された送信機につなぐ。それと同時に少佐が架空鏡パラボラアンテナを組み立て、受診する施設の有る東にお椀のくぼみ側を向けた。

 発電機を起動させてみる。筒の中の回転翼がものすごい勢いで回り出し発電量を示す計器を見ると最大発電量をすでに叩きだしていた。

 ここまでは問題なし。

 あとは、撮影機だ。

 少佐が私を見つめて言った。


「お前さんがあそこに登って撮影機を据え付けな、大尉。これはお前さんの仕事だからな」


 皆を見渡す。誰もが頷く。

 だったら、行くか!

 撮影機を背負って岩の台に攀じ登る。思ったほど高く手足のすべてを使い我が身を持ち上げ攀じ登る。

 下から腰の安全帯に電源線と出力線を括り付けた少佐が続き、綱や鉄杭ハーケンを背負ったラチャコ君が続く。

 やがて、右の手が虚空を掴んだ。ここから先、岩も氷も雪も無い。

 上半身を岩の台の上に預け、撮影機の重さに押しつぶされつつ下半身を引っ張り上げる。

 全身が岩の上に登り切り、顔を上げると、先ず見えたのはもはや宇宙と言っても差し支えないほどの黒さの空に数本の筋雲、下には別の山の真っ白い山容がどっしりと腰を据え、その先へのびやかに稜線を続かせている。

 そう、今いる場所よりもう高い場所は無い。

 ここがオルコワリャリョ、七四九七.五 メートルの頂だ。

 私はついにここまでやって来た。そしてこの世界に住むすべての人々で初めてこの場所にたどり着いた。

 けど、感慨よりまず頭に浮かんだのは『撮影機を固定しなきゃ』

 本体を引っ張り出していると少佐が三脚を組み立て岩肌に鉄杭で固定している最中だった。

 撮影機を三脚に据え付け、電源線と出力線を繋ぎ起動させる。接眼 透鏡レンズを覗くとさっき私が見ていた隣の山がきれいに映っている。送信機の電視機モニターをみていたシスルが叫ぶ「映ってる!しっかり映ってるよ!」

 撮影機は問題なし。あとは送信機だ。

 携帯無線機を取り出し、インティワシ連峰の内の一座、オルコルミ峰にある受信施設を呼び出した「ミミズク、ミミズク、こちらハゲワシ、送れ」

 すぐさま雑音交じりの返事が返って来た「ハゲワシ、ハゲワシ、こちらミミズク、感度良好、送れ」ノワル曹長の懐かし声だ。


「こちらハゲワシ、ただいまより画像を送る。確認でき次第報告せよ、以上」『こちらミミズク、了解』


 撮影機をインティワシ連峰に向け、その最高峰であるインティワシの頂に焦点を合わせる。嫋やかな山容が透鏡レンズに映り込む。

「九時方向に一個分隊!山岳猟兵だ、奴らもここまできたぞ」ワイナ・ウリさんの声に接眼 透鏡レンズから目を放し振り向くと急斜面を一列なって進んでくる人影が見えた。

 シュタウナウ大佐率いる山岳猟兵の精鋭。

 時間が無い。

 ワイナ・ウリさんがインティキルの三人を指揮して防御態勢を取る。お互いが見える位置なのに銃撃してこないと言う事は、向うも火器を装備していないと言う事だ。

 少佐は賭けに勝った。

 けど、人数は向うの方が倍。白兵戦に成れば圧倒的に敵が有利になる。

 今は兎も角撮影に集中しよう。

 再び接眼 透鏡レンズに向きあい、一足先に山頂を降り、送信機の傍で待機していた少佐に大声で指示を出す「送信開始!出力最大!」すぐさま「承知!送信開始!出力最大!」の声が返って来る。

 今度は少佐が自分に代わって発電機の方に移ったシスルに向かって怒鳴り声「出力が出ねぇ!発電機どうなってる!?」沈黙の後「方向を変えて風を多く受けるようにした!どうだ!?」との甲高い返事。


「よっしゃ!来た来た来た!電波も安定してきやがった!大尉!イケてるはずだ!」


 接眼 透鏡レンズを睨みながらオルコルミ峰の受信施設を呼び出した「こちらハゲワシ、ミミズク、画像は受信できたか?繰り返す、受信できたか?」

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