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皇紀八三七年華月九日(聖暦一六三―年八月九日) 十時00分

オルコキンジャ西側山麓


 六千 メートル級の山を二座登り、高度順化をしつつワカパンパ大圏谷を十三日かけて縦断し華月の九日。ようやくワリャリョ連峰主稜線に繋がるオルコキンジャ山麓にたどり着いた。

 ここに至る以前に隊の三分の二をワカパンパに返し、隊の総勢をは私たち『禿鷹挺身隊』三人とインティキル精鋭部隊十名の十三人。およそ一個分隊。

 以降の行程は完全な山岳路で当然すべて徒歩となる。

 つまり撮影機材も登山用具も食料燃料なども全部自分で背負っての移動だ。そして、もうこの辺りの酸素濃度は地表の半分も無い。

 常に呼吸は意識的に行い。確実に肺に空気を送り込み血に酸素を送り込まなきゃならない。

 ワカパンパ大圏谷の底を西に向かって流れるパラ川の源頭部に当たるオルコキンジャの裾野は、それこそ白無垢の着物の裾の様に豊かになだらかに広がり、一見難なく登れそうに思うけど、実は雪の下に奈落に繋がる氷の裂け目が随所にあり、先頭を行く少佐やインティキルの人々の経験や勘が無ければ一歩も進めない地雷原のような場所だ。

 そんな中を私たちはお互いの体を綱でつないで一歩一歩登ってゆく。


「隠れろ!同盟の飛行機だ!」


 ラチャコ君が叫ぶが、ここはなだらかとは言え氷の上に分厚い雪が降り積もった山の斜面。

 どこに隠れろって言うのよ?

 仕方がないので氷斧ピッケルを雪面に打ち込み、体を臥せるしかない。自分の上半身ほどある背嚢も白、上下つなぎの羽毛服も白、何もかも真っ白という衣装の力に期待しよう。

 って、言っても飛行機って何処?

 体を捻じ曲げ空を見上げるけど、目に映るのはひたすらに深い蒼の空と白い絵の具を薄く一撫でしたような筋雲だけ。

 耳をすませば、確かに遠くで発動機の音はするけど?


「大丈夫だ!アレならここでうろつく俺たちは見えやしねぇよ」


 と、少佐。単眼鏡で南側の稜線を眺めている。

 その先を見ると、銀色に輝く点が稜線すれすれを遊弋していた。

 アレを肉眼で見つけたの?眼鏡を掛けてる私でも必死の思いで目を凝らさなきゃ見えないのに。流石イェルオルコ、山の民。


「すまねぇ、音がしてその方向を見たら見えたからつい叫んじゃったよ」とラチャコ君が謝ると「構わねぇよ」とつぶやいたあと少佐は単眼鏡を覗きつつ。


「落下傘を落としやがった。あの気流の中でよくやるぜ。けどうまく回収できりゃ、自前で持つ荷物も少なくなるし、ついでに飛行機から道案内させりゃ迷路みたいなプキュウ渓谷も突破できるかも知れねぇな、正に三次元的思考って奴だ。やっぱりシュタウナウ大佐って奴はただもんじゃねぇぜ」


 そして少佐は単眼鏡を懐にしまい込むと氷斧ピッケルを手に再び歩きだしながら。


「俺たちそのものは見えてねぇだろうけど、帰っていく荷駄隊は見えてたかも知れねぇ。そうなりゃ俺たちの現在位置も奴さん方は把握しただろうぜ。向こうも速度を上げるだろうからここから俺たちもネジを巻いていくぜ。死なねぇ程度に頑張って着いてこい!」


 ここから少佐は本当に足を速め、スイスイと斜面を登り始めた。山熟れたインティキル精鋭と体力の塊みたいなシスルは黙々とそれについて行くけど、私はもう必死!

 何度か立ち止まりそうになりながらも、私の後からついてくるシスルに追い立てられながらなんとか少佐の背中について行く。

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