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「無理だ。半年でも難しい。同盟側が来年の色月《九月》に第四回境界線決定会議の開催を提案してきた。今年は色々理由を付けて会議を飛ばしたから向こうも何かしらこちらの動きを察知したんだろう。もうごまかしは効かない」


 新しい無理難題だ。ずぶの素人にあの複雑極まる三つの装置の使い方から修理の仕方まで、七千 メートルの山の上で出来るように半年の間で仕込まなければならない。

 ただ、打開策はある。あるにはあるが、私がそれを口にすれば自分を窮地に、いいや最悪死地に追い込むことになる。

 ひたすら考えてうつむいていると、閣下が「何か考えがあるのか?」とたずねられた。たぶん私の考えを見透かされての事だろう。

 腹を括るしか無かった。ここまで来たんだ。もう引き返せるもんか。


「閣下、私が撮影隊に加わります」


 目を見開かれた閣下は。


「およそ一年前、私は貴官に相当無理な任務を押し付けた。しかし、君はそれを見事に成し遂げた。それは君にその才能があったからでもあるが、失敗しても命を失うことなどはまずない任務だったことも忘れてはならない。多少の無茶も恐れずできる。しかし今回は違う。作戦の失敗は即ち死だ。それを理解して上での提案と考えてよいか?」

「勿論です。しかしここで前進せねば、私たちの一年は無駄になります。それに私は元々山育ちですから酸素の薄い所に成れるのも早いでしょう。平地育ちの人よりましだと思います」


 閣下はしばらく黙っておられたが、不意に立ち上がられると私のすぐそばに座られた。一年前と同じだ。

 でもあの時は閣下の美貌に息を呑み、そのあと発せられた過酷な命令に魂消てしまったが、今はこの吸い込まれそうな鳶色の瞳も臆することなく見つめ返せる。

 お互い見つめあう(睨みあい?)と閣下はまたその頬を緩ませ。


「一年間でその階級に相応しい軍人になったようだな。承知した。君が隊に加わり撮影についての指揮を取れ。その前にまず今回の任務で君と組むことになる者たちを合流し、山岳戦と隠密活動についての訓練を受けてもらわねばならないな。訓練のための施設はすぐに準備させよう。一度研究施設に戻り準備を整え直ちに訓練に入れ」


 翌日、研究施設に戻り両先生とソウゴ中尉、ノワル曹長にこれからの任務について、可能な限り説明した。当然、詳しい地名やそうなった経緯なんかは機密保持のため省いたけど。

 カク教授は、まるで自分の事の様に怒り出し。


「こんな若い娘に、死地に赴けとはなんと薄情な。まるで自分の死に場所を作る為にあの装置を開発したみたいなもんじゃないですか、大尉」

「ねぇ、本気で行くつもり?七千 メートルの未踏峰。そこまでしてあの女狐の言う事聞く必要あるのかな?」


 と、平気で特務機関員が居る前で言うオウオミ先生、一瞬ドキッとして中尉と曹長の顔を見るが別に怒り出す風もなく、曹長は『マッタクだ』と言わんばかりに頷いてさえ居る。


「でも私が行かないとこの一年の皆さんの努力がムダになります。そんなことは私は絶対に嫌です。それに正直言うとあれが本当に過酷な場所で見事に作動するのか私自身の目で確かめあ地という欲もあるんです。ここまで来たんです最後の最後まで行きたい」


 私が言い終わると、ソウゴ中尉は首をヒョイと竦め。


「ま、おネェ様の人を見る目に狂いが無かったって事ですね。とんでもない馬力でとんでもない度胸だ。これなら七千 メートルだろうが七万 メートルだろうが踏み越えて行きますよ」


 カク教授は大きなため息を吐くと乏しい頭の毛を掻きむしり。


「まったく、どこまで人を利用し尽くせば済む国なんだここは。ええ?もし大尉が生きて帰ってこなかったら、私は同盟に亡命しますよ亡命」


 と恐ろしい事を言い出す。一応、ここにいるのは特務機関の人間なんですけど・・・・・・。

 オウオミ先生はしばらく姿を消していたが、やがて左手に一升瓶と右手に五つの湯飲みを持って戻って来ると、机の上に湯飲みを置き、それぞれに一升瓶からお酒を並々と注いだ。


「これはね、死地に赴くための盃じゃないからね、見事任務をやっつけて、無事戻ってくるための盃だからね、みんな絶対に勘違いしない様に」


 と、自分の分を捧げ持ち。


「シィーラちゃん、絶対に戻ってきてね。そしたら軍隊なんて辞めて私と写真機の会社を作ろうよ。カク先生も一緒に如何ですか?」


「いいね、素晴らしい思い付きだ。良い良い」とカク教授。

「株式が公開されたらぜひ株主にさせて頂きたいですね」とソウゴ中尉

「私みたいな不器用なもんでも使えて貧乏人にも買える写真機をお願いします」とノワル曹長


「では、シィーラちゃんの無事帰還と、私たちの輝かしい未来を祈って。乾杯!」


 五人一斉に湯飲みを煽る。清酒独特の甘みと共に酒精が胃の腑にまっすぐ落ちる。

 なんか、やれそうな気がして来たぞ!私!


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