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 刈月(十月)二十日。私はまた輸二十式輸送機の機内に居た。

 離陸し気圧が下がると、昨晩催された実験成功祝いの酒宴でしこたま飲まされたお酒のお陰で頭が重くなる。

 しっかし、オウオミ先生はあんなにきれいな人なのに良く飲むよなぁ、カク教授もソウゴ中尉もノワル曹長も、皆酔いつぶれたのに一人で一升瓶二本も空けちゃうんだから。

 拓洋空港につくと防暑服に着替え迎えの車に乗り拓洋市内を移動する。

 一年ぶりの拓洋は相変わらず暑い。研究所の過ごしやすい夏が懐かしい程。

 車はなぜか市内を通過し南側に広がる丘陵地帯に入っていく。思わず運転している兵士に「総軍司令部に行くんじゃないの?」と尋ねると。


「特務機関は司令部から現在は郊外の烽火山地区にある『寂峰荘(じゃくぶそう)』という屋敷に移転しております」


 との事。烽火山地区と言えば大貴族やお金持ちの邸宅やら別荘やらが多くある風光明媚な土地。なんでそんなところに引っ越したのかな?

 しばらく行くと、車は亜熱帯の木々が茂る森につけられた道を走る様になり、梢の空いたからは凝った造りの門がチラホラ見えるようになる。

 因みに肝心の建物は道から遠すぎて全く見えない。さすが雲上人の住む山だわ。

 一軒の門の前に車が止まると、黒い背広姿の屈強そうな男の人二人がどこともなく現れ、車の中を覗き込む。運転席の兵士が身分証を差し出すと重たそうな門扉がゆっくりと開き、車を中に招き入れる。

 鬱蒼とし森の中をしばらく走り、突然視界が開けると青々と芝生の丘の上に真っ白いお屋敷が見えて来た。

 塔を中心に左右に棟を展開させた三階建ての西方風の邸宅、というよりはもはやお城?宮殿?

 車寄せまで来ると、あの羊角の当番兵が車の扉をを開けてくれて館内へと案内してくれる。

 中では職人さん達が工具やら壁板やら壁紙を抱え忙しそうに歩き回っている。また内装工事の真っ最中なのか。

 三階まで上がり奥の部屋に通される。

 三方に腰高窓が撮られた広々とした部屋には、あの総軍司令部あったのと同じ椅子や机が置かれ、窓を背にした大きな机には真っ白い制服姿のトガベ少将が掛けておいでだった。


「騒がしくてすまないな、この階はおおむね終わっているのだが、一階から地下はまだ模様替えの工事が終わっていないのだ。何せ普通の別荘を秘密機関の根拠地に作り替えるのだから骨が折れ話だ」

 

 私の敬礼を受けるなり、そう、申し訳なさげにあの美しい眉を潜ませ閣下は言う。


「お気遣い、ありがとうございます。それにしてもこれが元別荘ですか?まるでお城ですね。元の持ち主の方はどなた様何でしょうか?高位の貴族の方でしょうか?それとも大富豪?」

「そんなお品の良い方々では無いな。詳しい事は言えないが、簡単に言えばある悪党から取り上げた物だよってタダ同然だ」


 閣下は愉快気にお笑いになられ、私に長椅子に座る様に促されるとその前に座られ表情を引き締めて。


「よいよ、君に今までの艱難辛苦が何のため必要だったのか説明する時が来た。これから話すことは外交上の最重要機密だ。心して聞いてもらいたい」


 それから閣下の口から語られた話は、およそ私の様な下っ端には理解しかねる中身だった。

 戦争をしても、二度も三度も会議をしてもなお定まらなかった国境線を確定するために、誰も登ったことのない山に登り、そのことを全球に知らしめる。

 あのみんなが寝食を惜しみ心血を注いだあの装置は、国同士の紛争を終わらせるために生み出されたのだ。


「登れば天罰が下り、死に至ると言われ、まだ何人たりともその頂を踏ませていないオルコワリャリョの初登頂を成し遂げ、それを内外に知らしめることが出来れば、即ち人が生きて登れる山である事が証明され、同盟が今まで主張してきた理屈が通らなくなる。つまり測量が為され国境線が確定される」


 二日酔いはすっかり吹っ飛び、口の中はからからに乾き、背中には暑さのせいではない汗をかいていた。

 考えていたより、事は重大だ。


「では、すぐに操作法を手順書にまとめ撮影隊の訓練に入らねばなりませんね。試験撮影では無線で私やカク教授、オウオミ先生が指示できましたが、同盟領内に潜入して撮影するとなるとそんなことはできません。それに故障などの障害にも対応せねばなりませんから、機構についても徹底的に教育を施す必要があります」

「どれぐらい時間が掛かる?」

「あと一年、頂ければ」


 途端に閣下は表情を曇らせた。

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