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 一週間後、研究所は急ににぎやかになった。試作機くみ上げのための職人さんが工作機器と共にやって来たのだ。

 無論、この人たちも向こう九か月はここで缶詰。それなりのお金はもらっているとは言え気の毒なのは気の毒。

 けど、到着の日の訓示のあと皆から「ま、我々そんなの慣れっこですんで」「女房にはすでに愛想つかされとります」の返事。しまいには「大尉さんこそ、若い身空でとんだ貧乏くじですな」と逆に同情される始末。

 トウラ中尉からの情報によると。

 

「航空軍の新型誘導弾、戦争が終わったんで予算が付かづ開発計画の規模がかなり縮小されたみたいで、基礎研究は継続するそうなんで学者連中は来ないようですけど、制作部門はゴッソリこちらが借り受ける事が出来たみたいです。まぁ、見返りとしてこちらの成果をよこすってのが条件の様ですけど、つまり資金の有る新領特務に開発の肩代わりをさせよって腹じゃ無いですか?」

「特務機関ってお金があるのね」

「我らがおネェ様、トガベ少将はああ見えて金儲けや資産運用の天才ですからね、それに近々いくら使ってもアシが付かない莫大な金が特務に転がり込むって噂もありますし」


 なんか、胡散臭い世界に脚を突っ込んじゃったなぁ。


 職人さんが来て、カク教授とオウオミ先生が陣頭指揮を執って試作機の開発に入ると、私は教授が匙を投げた電源問題に取り掛かることにした。

 ・・・・・・。って。私専門外なんですけど。

 でも人様にやれという以上自分自身もやるしかない。あの才槌頭なめられてたまるか。

 まず本当にカク教授が言う通り、小型軽量で大容量な電池や蓄電池は百年先でしか出来ないか、色々自分で調べてみることにした。

 結果、教授の言う事は本当だった。

 鉛は当然重く、酸と一体なのでさらに重く大きくなる。水銀も同じ扱いが面倒、リチウムは、これが実は危ない物質で条件が悪ければ燃え出す始末。他の素材も色々あったたがどれも小型軽量大容量なんて夢のまた夢。

 ただ、撮影機材を省電力で動かす方法は見つかった。『暗黒結晶』だ。

 これは飛行艦や飛行船を浮かせるのに欠かせない『浮素』を産出する鉱山から一緒に採掘される鉱物で、つい十年ほど前に発見された新しい物質。

 光をなんと百分の九十九.九九九九七まで吸収する文字通り暗黒の結晶体で、これを使えば非常に小さく電力消費が少ない電子回路が作ることが出来る。

 つまり受像機構、画像処理機構にこれを使えば小さくそして少ない電力で作動させることが出来るのだ。

 とは言え、最低百 キロメートルも電波を飛ばす、その上大量の情報を載せなきゃならないとなると少々装置の方で電力を節約したとしても知れている。

 やっぱり何としても大容量の電源を確保しなきゃ。

 右手で研究開発全体の面倒を見つつ、左手で電源問題の解決に取り組むような、まさに軽業師的な仕事を続ける事ニヶ月。

 皇紀八三六年凍月(二月)九日、試作第一号がついに組みあがった。

 撮影機の方は縦千 ミリ横五百 ミリの長持みたいな軽金属性の立方体に二本の筒を付けたような形で、一応普通の撮影機の様に三脚に乗せて使う事が出来る。送受信機の方は直径千 ミリの巨大なお椀みたいな形の架空鏡パラボラアンテナと撮影機ほどの大きさの送受信機本体で構成され、この三つの装置で一組となる。

 撮影試験は電源の関係上有線となるので、研究施設から一番近い独立混成第一三一旅団の衛戍地えいじゅち(基地)まで画像を送ることとし、皇紀八三六年肥月二十日実施される事となった。


 時間は機密保持のため真夜中。夜陰に紛れ無線通信用の鉄塔の上に架空鏡を担ぎ上げ夜が明ける前までに試験放送を開始した。

 〇一○○時、工作室に据えられた撮影機の前に立ったのは私。ひょっとしたら動く画像を電波で送られる人類初の人間になるかもしれない。あ、髪と解かすの忘れた!

 オウオミ先生が撮影機を覗き込み、試験開始の合図を出す。カク教授が送信器の電源を入れトウラ中尉が試験開始を電話で衛戍地に告げる。

 工作室には確認用の電視機モニターが置かれていて、そこに軍服姿の私が白黒で映し出された。

「シィーラちゃん、可愛く映ってるよ」とオウオミ先生。まずは撮影機としては問題なく機能してる。あとは送信できているかどうか?

 電話が鳴り中尉がとる「拡声器スピーカーに切り替えますね」

 五十 キロ向うの衛戍地から聞こえて来たのはノワル曹長の声。


「こちら独立混成第一三一旅団衛戍地であります。電視機モニターに映っている頭に角を生やした眼鏡美人は何処のどなた様でありますか?」


 工作室に響き渡る万歳と皇弥栄すめらぎいやさか(皇帝への讃辞)。

 オウオミ先生は私に抱き着き「今からお祝い、さあさあ飲もう飲もう」としつこくせがみカク教授は「大尉が美人に映るというのは問題だが概ね成功だと言えるね」と少々失礼ながらも成功を認める。

 まずは第一関門を乗り越えた。

 まだ問題は山積だけど。

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