3話:やれること
3話:やれること
あれから桜はNew Excite Onlineにログインしていなかった。
New Excite Onlineでは、フレンド欄でその人がログインしているかどうかわかる仕組みになっている。ログインするたびに確認をしているが、その名前は灰色のままだ。
リアルではいつも一緒に登校しているが、あの日からはすれ違っている。学校でも同じクラスだが、話しかけにくい。
俺はその間でもNew Excite Onlineにログインし、スライムをちまちま倒し、レベルを上げている。桜と一緒にプレイしたいが、なかなかにメールもしにくい状況である。
でも、また一緒にプレイできることを信じてやれることをやっておこうと思った。
そして、思いついたのが採取と採掘である。
なにも生産職になろうというわけではない。
基本、ポーションや基本的なスキル(スキルはスキルオーブというアイテムを使用することで習得できる)は店で買うことができる。もちろん武器や防具も。
お金も無限にあるわけではないので、素材を持ち込み、ポーションを作ってもらおうと思ったのだ。
今は採掘をできるところには一人では行けないが、その素材も持ち込むことができれば、武器や防具が作れる。
桜が帰ってきたときのために、今から準備しておこうと思ったのだ。
スライムを倒しても少ししかお金を稼ぐことができないというのもある。
採取と採掘はそれぞれ500G、二つ合わせて1000Gである。ゲーム開始の初期金額1000G+スライムからのG。心許ない。
(ポーションをたくさん用意してダンジョン攻略とかしたいしな)
いくら桜がチート過ぎて、攻撃を回避できるといっても複数体モンスターが出てくればその限りではないし。ボスモンスターならなおさらだ。俺の分もあるしな。
俺はゲーム知識が疎いので現状それしか思いつかなかった。
《森の中》
なので、今日も俺は森の中で採取を続けている。
出てくるモンスターは一体だけなら倒し、それ以外なら逃げて、隙あらば採取といったところである。
HPポーションの材料になる薬草、SPポーションの材料となる活力草を取り、時折森の中の安全地帯かつセーブポイントで休憩をはさむ。
熊型のモンスターが出たときは全力で逃げる・採取を繰り返している。
こんな状況だが、良いこともあった。
《始まりの街》
「おー、またたくさん持ってきたね」
笑顔を浮かべて薬草を受け取ってくれるおじさん、プレイヤー名:「テル」さんである。
生産職の方で、路上でプレイヤーから素材とGを受け取り、生産スキルでポーションなどに変えることをしている。
身長が高く体もがっしりしているので怖い印象を受けるが本人の柔和な笑顔ですぐ打ち解けることができた。
「またお願いします」
いつも大量に持っていくので、申し訳なく思ってしまう。
「こんなにポーションを作って・・・ダンジョン攻略でもするのかな?」
ふとした疑問を尋ねられた。
「まあ、その予定ではあります・・・」
サクラのことがあってあいまいにしか答えることができず困り顔になる。
「そうですか」
俺の困り顔に気が付いたのか、それ以上は追及しなかった。そういうところで大人だなと感じ、尊敬が持てる。
「では、またお願いすると思うのでよろしくお願いします」
「はい、いつでも来てください。待ってますよ」
いつもの柔和な笑顔で俺を送り出してくれた。
《森の中》
テルさんに見送られて、また森の中まで来ていた。
途中でモンスターが出てきたが、一体なら問題なく倒すことができた。
取り敢えず、安全地帯かつセーブポイントまで戻って来て、いつものようにここを拠点にして素材を探そうと思う。
「今日はもう少し奥の方に行ってみてもいいか」
そう思い立ち、森の奥まで足を運ぶ。
俺が森で採取を続けている間、世間?(NEO内)では、エリア、ダンジョンの攻略が進んでいた。新たなエリアに向かう者、ダンジョンでレアスキルを探すもの、様々である。
この森も散策が済んでいるのかと思った。
採取をしている途中、木の根の方に屈まなければ入れないような穴を見つけた。下に下に繋がっているみたいだ。
草に隠れて歩いていては見えないようになっているらしく、採取をしていた俺はかろうじて見つけることができた。
実は攻略サイトでは、この近くに大きな洞窟があり、ダンジョンになっているそうだ。
方角からして、そちらに伸びているように感じる。
(もしかしたらここから入れば、攻略されていないところに出るとか?)
探索してみたいと思った。この奥には何があるのだろう。レアスキル、レアアイテムがあるかもしれない。幼い頃、桜と一緒にした宝探しのような感覚。
二人で行きたいと思った。
この喜び、懐かしさを共有したい。
そう思い立ち、セーブポイントまで戻ってセーブをしてリアルへと戻った。
桜と連絡をとるために。