1話:幼馴染の様子
1話:幼馴染の様子
《始まりの街》
ゲームの世界に降り立った時、これは本当にゲームなのかと思った。
美しい街並みは、現実に存在するものと何ら変わりはなかった。
ここがNew Excite Onlineの世界、俺とサクラがこれから冒険する世界。
今まで、サクラほどゲームにははまらなかった俺だが、直観でこの世界は何か違う気がした。
楽しみたい、サクラと楽しみたい。
そう思えている自分がいて、早くサクラに合いたくなった。
ゲーム開始地点は、中央に噴水のある大きな広場だった。
今日がゲーム開始日なので人がたくさんいる。
皆、待ち合わせていたり、ウインドウを見せてスキルを確認したりしている。
桜(ゲーム内ではサクラ)を探し、あたりを見渡す。
サクラのキャラはいつも決まっている。
と確信を持って、桜色の髪を腰まで伸ばしている女性を見つけ、話しかける。
「サクラですか?」
一応、敬語になる俺。もし間違えたら失礼だ。
「ユウ!さっきぶり!」
ハイタッチを交わす俺たち。そこでふと複数の視線を感じた。
周りのプレイヤーたちがこちらをちらちらと見ていた。
それもそのはず、幼馴染びいきなしでもサクラはかなり可愛い。その容姿に見とれているのだろう。
「どしたの?ユウ?」
「ううん、何でもないよ。取り敢えずどうしようか」
「そうだね、人が多いし、移動しながらどこか座れるところに行こう?」
広場から移動することを決めて、歩き出す。
二人で歩いて、広場を出ていく際、
「何だあの男は」
「俺が隣を歩きたい」
などの声が聞こえてきた。
サクラはゲームが楽しみすぎて、注意を払っていないのか聞こえていなかった。
(すごい殺気みたいなものを感じる)
戦々恐々としながら、広場を後にした。
しばらく歩き、花壇の花が綺麗な場所を見つけた。
これも現実と遜色ないので、本当にすごいゲームだと思う。
その花壇の近くにあるベンチに座り、話し合う。
「私はもちろん剣士です」
ふんすと鼻息をならすような勢いで話す。
「まぁ、そうなるだろうなと思ったよ」
苦笑交じりに聞いて、昔のことを思い出す。
あれは小学生低学年頃のこと。
「私は将来剣士になる!」
小さい頃にそう宣言した桜。
確かその時やっていたアニメかなんかの影響だったはず・・・
男の子っぽいところがあり、棒切れを持って、俺を巻き込み、冒険という名の探検をしたものだ。
(確かに今、剣士になっているな)
将来の夢をある意味叶えているのであった。
「ユウは武器を見るかぎり、魔法使い?」
そう、杖を持っているので、魔法使いだ。
「どんな武器にしようか決めてなくてさ、サクラが剣士なら遠距離から攻撃できる魔法使いがいいかなと思ったんだ」
「いいね!魔法使い!そういえば、小さい頃、私が剣士でユウが魔法使いねとか言ってたっけ」
そう、棒切れ持って暴れていた?頃。
「悠くんは魔法使いね!」
と言われたのだ。
「なんか昔に戻ったみたいだね」
「そうだな、懐かしい」
少し感傷にふける俺たち、まさか本当に剣と杖を持つとは・・・
「そういえばユウの姿、リアルのままだもん。もっと楽しめばいいのに。金髪とか」
「それは恥ずかしい、サクラこそやっぱり桜色だな」
「だって気に入ってるから」
自分の髪を優しく撫でる。
「それはそうと、選んだスキル何?私はこれ」
自身のウインドウを見せてくれる。
【剣の心得Level1】【物理攻撃上昇Level1】【物理防御上昇Level1】【HP上昇Level1】【SP上昇Level1】【敏捷性上昇Level1】【毒耐性Level1】【麻痺耐性Level1】【眠り耐性Level1】【混乱耐性Level1】
「何か一人で完結しそうなそうでないような感じがする・・・」
「そっ、そんなことないよ!ユウと一緒にプレイしたい!」
慌ててかつ大きな声で言う。
周りから視線が集まる。
「あっ、ごめん・・・」
「ううん、いいけど」
(どうしたんだろう?いきなり大声あげて)
「なぁ、何かまずいこと言ったかな?」
「ううん、大丈夫・・・」
「そっか、なら早く行こう!なんか早く冒険に出たい」
努めて明るく言う。
「えっ、そう?じゃあ早く行こう!」
「あっ、待って、その前に俺のスキルも見てくれ」
【魔法攻撃上昇Level1】【魔法防御上昇Level1】【HP上昇Level1】【SP上昇Level1】【SP自然回復量上昇Level1】【火魔法Level1】【水魔法Level1】【風魔法Level1】【土魔法Level1】【命中率上昇Level1】
「魔法は取れるだけ取ったけど、まずかったかな?」
「うん、いいと思う。敵の弱点ごとに攻撃できると思うし。まずは東にある平原で戦ってみよう」
そう言ってサクラは歩き出す。
(様子がおかしいところはあるけど、もしかしたら時間が経てば話してくれるかもしれないな)
その時は力になりたい。
変な感じになって、ゲームが楽しめなくなるのはいやだから。
そう考えサクラの後を追って、東に歩いていく。