~本谷 真奈の場合~ 2
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仕事にも職場にも少し慣れた頃、書店部門の方に新しいバイトの男の子が来た。
年齢も近く、私の1つ下。
背丈は少し私が見上げるぐらい。
太ってもいないけど、痩せてもいない。日焼けしていない白い肌と、温和な顔立ちに黒ぶち眼鏡がいっそうあってる。
喋り方も、ソフトで優しい感じ。
社交性もあり、趣味も合い、シフト時間や休憩時間も重なることが多くて自然と話す機会は多かった。
ハッキリ言えば私のタイプではなかったけど、一緒に居るのは楽しかった。
他の同僚の子たちも私と彼の仲が良いのを知っていて、「付き合えばいいのに」と言っているのを聞いていた。私も表向きには否定していたけど、満更でもなかったのは事実。
お互い独身だし、付き合っている相手も居ないことは知っていたし、私と一番仲が良いことは周知の事実だし、何だったらそうなってもいいなぁ・・・と段々彼の事を考える時間は増えていっていた。
「オレ達、付き合う?」
そう言って、告白してきたのは彼の方。
仕事終わりに少し車内で喋っていたのだ。
職場までは、彼は徒歩。私は、車。大体二人とも深夜勤務だったから、帰りは私の車で送ってあげることが多かったのだ。
その流れで休日、一緒に映画を見に行こうか・・・という話になり、最近話題になっている映画の話の合間での告白だった。
最初は唐突すぎて何を言われているのか分からなかった。
咄嗟にそんなタイトルの映画ってあったかな・・・ぐらいにボケていた。
でも彼の手がそっと私の手を握りしめてきて、ジッと私を見つめてきたから、私の方もだんだん雰囲気にのまれたみたいに心臓バクバク打ち付けてくるし、緊張と興奮で体が熱くなって息苦しくなるし、で。
彼からとうとう告白されたっっっっ‼
って、このあまあまデロデロな状況の意味が分かってきたら、とたんに私の方も嬉しくなって、恥ずかしくなって、ついでに顔がニヤニヤしてくるのが止まらなくなって‼
で、また彼に顔面崩壊寸前の顔なんて乙女として見られたくないから私も別の意味で必死だった。だって彼の体が少しずつ私の方に近づいてきていたしね。
この後の展開って、やっぱり告白の後はアレだよねっっ
・・・・・・・・・ハイ。
王道でした。
やっぱ、王道最強だよね。
でもね、でもねっっ
ハッキリ言えば、あんまり覚えていないんだ。
テンパりすぎて、あの後なに言ったのかどうやって帰ってきたのかも自信がない。
お察しの通り、初告白からの初キスです。
その後 布団の中で、告白シーンを脳内リプレイしまくって悶え叫んでいたことは誰にも言えない。
幸せすぎて、言いまくりたいけど言いたくない。まだね。今はね。
それより、顔をあわせるのが(〃ノωノ)恥ずかしいっ。
モチロン会いたいし、一緒に居たいけど。でも、どんな顔をして良いか分からない。
やっぱり彼は私の事 好きだったんだね~。
だって一番、仲が良いしね‼
彼から「付き合おう」って言ってきたんだしねっっっ
それに付き合うなら、相手から愛されていた方が幸せになれるっていうしね。
実は 告白されるのも、彼氏ができるのも初めての事。
姉と妹は明るくて、みんなから好かれていて、友達も一杯いて・・・中学から彼氏だっていたし。何なら口添えも頼まれたこと何度だってあるし、比較もされてきた。
私はどっちかというと引っ込み思案で人見知り。
でも、成績は良かったんだ。
2人よりランクは上の高校にも行ったしね。私だけ大学進学もした。
誰も私を知らない場所で、姉妹と比較されることもなく、何をしてもやっても自由でいられる・・・・友達もいっぱい作って、サークルも入って、恋愛もして、彼氏もできてーーーーって。
そう夢見ていたけど、結局 大して変わり映えもせず大学は卒業。
院に進みながら就職先も探したけど、やりたい仕事も見つけられず。
親に言われるがまま地元に帰ってきてしまったのだ。
でも、でも、でもっっっ
好きだって。付き合おうって。彼の方から言ってくれた。
今までの人生の中で、一番好きになった人からだよ。
私にも、彼氏がとうとうできたんだよっ‼
あ~っっ、帰ってきて良かった‼
本心を言えば、少しばかり地元に帰ってきたこと後悔していたけど。でも、文文堂に来て良かった。これは、もう、運命だよね。
彼が、私の、運命の相手だとしか思えない。
言いたい。
職場の人たちにも、彼と私が付き合っているって言いまくりたい。
ラブラブなんだよって。
だって他に、彼のこと狙っている人がいるかもしれないでしょう。
でも彼は恥ずかしいから、暫くは職場の人には言わないでいようって言われてしまった。
確かに書店の方のおばさん達は口うるさい。好き勝手に言ってくるし。
でも前は「付き合えば」って言われたぐらいだし、今は付き合うことになったし。それに、嘘は良くないよね・・・もし、また誰かに聞かれたら今度は言っても良いよね。
それにさ、前とは別の意味でキチンと周りに知っておいて欲しいんだ。
彼は私と付き合うことになったんだから、へんなちょっかいかけないで、って。
とくに、新しく七曲店に配属されてきた、新入社員の彼女にはハッキリと言いたい。
私の不安が的中してしまいました。