第1話 『中華転生』
『これで終わりだな』
『はい、龍様…長かったですね』
龍と呼ばれた男に女が答えた。
『龍さん これからどうします?明でも攻めますか?』
『明…あぁ中国か それも面白いかもな』
日本の戦国時代の様な質素な室内に男達が10人程集まっていた。
『龍!なら俺に先鋒をやらせろ!地平線の果てまで地図を塗り替えてやるぜ』
『あぁ 頼むよ』
龍と呼ばれた男がそう答えると仄かに男の身体が半透明になり始めた。
『龍殿…それは…!?』
『あぁ、何かそんな予感がしてたんだよね。これで元いた世界に帰れるのかな』
『そんな…龍様、私もお連れ下さい!』
『ん〜…そんな事は出来ないんでないかな』
龍は(ほれ)と女を掴んでみたが、まるで煙でも掴むかの様に女の身体を擦り抜けた。
『龍さん…こちらの世界は俺らにお任せ下さい。数十年、数百年と太平の世を築いて行きます』
『あぁ…任せたよ。お前らなら心配ない』
『龍様…!』『龍殿!』『龍さん!』『龍…!』
『…じゃぁな みんな!』
間も無く龍と言う男の意識は、途絶えた。
『ん…ココは…』
男が目覚め、周囲を見渡すと そこは鬱蒼とした木々に囲まれて居た場所だった。
(また山かよ)
とは思ったが、まずは自分の居場所を知る為に男は立ち上がり歩き始めた。
男の名は三國龍。
日本に居た頃は30代だった。
そこから神の悪戯の転移により日本の戦国時代に似ていた世界に飛ばされ10年近くを過ごした。
その戦国時代を統一したタイミングでまた飛ばされたのである。
(元の世界に帰れたのか?…にしても どうせ戻すなら着地点を家にしてくれよな…)
暫く歩くと集落があるのが見えた。
(お、村か?何か建物が古いと言うか…石で組んでるけど…まさか)
集落の建造物を見て龍は嫌な予感がした。
ココが現代日本でも戦国時代でもない何処かだと言う予感だ。
集落の入口に立ち、龍が呆然と建造物を見ていると
老爺が龍に気付き、近付いて来た。
『どちら様かな?』
『ん?あぁ ごめんよ。ココって何て言う村?』
『この集落には名前はないんじゃ』
『名前ないのか…んじゃココは何処?』
『なんじゃ 迷ってしまわれたのかな?ココは涼州は金城郡の山中じゃよ』
(涼州…涼州…まさか…)
この時点で龍の嫌な予感は的中した事が確定したと感じた。
涼州とは恐らく中国、しかも現代ではなく古代の中国の地名だ。
『爺さん、涼州ってのは確か過去に馬騰が居た地名だと思ったんだけど』
『あぁそうじゃ今 馬騰様は鄴におられるよ』
(今…? 馬騰が現役だって事は…)
龍は日本の戦国時代も中国の三国志も所謂 歴史物は好きではあった。
しかし詳しく人物を覚えていた訳でもないし何かが起こった年代を細かく記憶して居る程でもない。
ぼんやりと人物名や戦の名を覚えている程度だ。
しかし 馬騰は そのぼんやりと覚えている範囲内に収まる程の有名人物であった。
『って事は今は三国志の時代って事か…こりゃ参った』
『ふむ…?三国志とは何の事か知らんが 少しワシの家で休んで行くかね?疲れたろ』
『え?良いのかい?助かるよ』
龍は老爺の優しさに甘える事にし、その家へとお邪魔した。
『さぁ、食べなされ』
『ありがとう、いただきます』
老爺に出された夕飯を食べながら、家に入るまでに見かけた人々の事を考えていた。
女子供と年寄りしか出会わなかったからだ。
『爺さん、この村には若い男は居ないのかい?』
『あぁ、そうじゃな今この集落に居る若い男はお前さんだけじゃ』
『いやいや若いって…俺そろそろ40歳だぜ?』
『ふっはっは、お前さん面白い冗談を言うなぁ、どう見ても二十歳かそこらじゃろ』
『ん?俺は別に童顔って訳でもないぞ?』
『なんじゃ…頭でも打ったのかね?ほれ鏡をよく見てみろ』
机の上にあった手鏡を老爺から受け取り龍はマジマジと自分の顔を見てみたのだが…
そこには二十歳の頃の自分が映っていた。
『おぉ…?嘘だろ…』
『ふっはっは、やはり頭でも打った様じゃの。飯を食い終わったら早いトコ眠りなさい』
『あぁ…悪いな爺さん』
夕飯をいただき、言われるがままに龍は横になり眠りに落ちるまで考え事をしていた。
(今度は三国志の時代をどうにかしろって事か…)
どうにかとはゲームをクリアする様に一つの時代を終わらせろって事だ。
(中国って広いぞ…仮に20歳まで歳が戻ってたとしても俺一代で統一って出来るもんか?)
曹操も劉備も孫権も本人達の代では地盤を築いて終わったという事までは龍も知っている。
(まぁ、なる様になるか…そういや この村に若い男が居ないのは戦に駆り出されたからって言ってたか…)
(馬騰が今は居ない…じゃ誰がこの辺の主なんだ?)
龍が色々と考えを巡らせていた時、ふと遠くの方から悲鳴が聞こえて来た。