6
「それじゃ、俺が交渉に行って来るから、待っててくれ」
トラックから降りたニボユボは、荷台のビリヅとタチアナに声をかけると、1人で建物の中に入って行った。
しばらく待っていると、ニボユボではない若い男が出て来た。
「今から、これ、駐車場に入れますから、乗っててください」
男は運転席に乗り込むと、トラックを動かした。トラックはダモエ教団の建物に沿って進み、やがて、建物の裏手の空き地に止まった。男は運転席から降りると、
「私はダモエ教団のヨボ・ノネジャという者です。ハセャ様から、皆様を中にお招きするように、仰せつかりました」
ツニ、タチアナ、ビリヅの3人は、ヨボに従い、裏口から教団の中へと足を踏み入れた。案内されて進むと、仏像が数多く並ぶ部屋に、老人とニボユボが相対して座っている。ニボユボが言った。
「おお、来たか。ハセャ様、我々は、この3人と、もう1人、全部で5人です。5人揃って、ダモエ教団に入信させていただきます」
教団を買収すると聞いていたビリヅは一瞬、耳を疑ったが、ツニとタチアナは、そんな様子は一切見せず、ニボユボの隣りに、静かに腰を下ろした。ビリヅもそこに加わる。
「いやあ、うれしいぞ。一挙に5人も信者が加わってくれるとは。何しろ、今いるのは、ヨボ君と、おお、そのメッツ君だけじゃ」
どこからか1人の女性メッツが出て来て、4人の前、それぞれにお茶を出した。メッツも20代くらいの若い女性だった。
「わしも以前はご本尊様の神通力を駆使し、様々な奇跡を行ったが、今では毎日ご本尊様をお祀りするだけのご奉公じゃ。君らが、それぞれの修行をしたいと言うなら、自由にやってくれたまえ」
しばらく教祖ハセャの昔の自慢話を聞いた後、ニボユボら4人は、長い机が置かれた、広めの座敷に案内された。
「ここが控室ですので、ここで、おくつろぎください」
案内してくれたヨボは、そう言うと4人を残し出て行った。すると、それを見計らったようにニボユボは話し始めた。
「ここで宗教を立ち上げるとなると、宗教庁への登録など面倒なことも多い。そこで、俺らは、ダモエ教団に加わることにした」
「それは、ダモエ教に入信する、ということですか?」
即座に尋ねたのはタチアナだ。ニボユボはニヤリと笑った。
「まあ、分かりやすく言えば、入信ではなく乗っ取りかな」
「乗っ取り!?」
ビリヅが思わず声を上げると、
「おい、さっきの奴に聞かれたら、どうする」
とニボユボは声を潜めてビリヅを制した後、静かに話し出した。
「さっき、ハセャ教祖の昔の話、聞いたろ。俺が見るに、奴には以前、動物霊なのか自然霊なんか、そうしたものが憑りついていた。だからこそ奇跡も可能だった。だが、今は、そんなものはいない。つまり、このままでは、この教団は自然消滅するしかない。そして、そんなことは彼自身が一番自覚している。だからこそ、彼は、得体の知れない俺らを招き入れたのさ」
ニボユボはそう言うと、3人の顔をゆっくりと見回した。
「まずは、ここに修行のための道場を作る。そして、そこに入門者を募る。ここは科学の国グヨ国との国境の街だ。グヨ国からの流れ者も多い。そうした新たな要素も取り入れ、ここで本物の宗教を究めたいと思う。一緒に頑張るぞ」
ニボユボの勢いに、ビリヅは何も言えなかった。