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ニボユボによれば、テゴタワは鉄道に乗れば、半日ほどの行程で行ける都市らしい。ただ、最初にビリヅが転生したチロゾトブ教は大宗教ゼラサ教の流れを汲むが、テゴタワを教区に持つチユシカ教は、大宗教チバケア教の宗派に属する宗教だと言う。
「ゼラサ教の教典の主なものは、もうすでに頭に入れてしまったからな。次は、チバケア教関連の知識を得たかったんだ」
駅で切符を2枚買うと、ニボユボはビリづに1枚を渡した。
「まだ金はたっぷりあるから、心配ないさ。ただ、向こうに着いたら、また何か商売を考えないといけないな」
列車は、年代物でキレイではなかったが、席はほぼ満席だった。
「宗教庁ができてから、人の往来が激しくなった。今は、のほほんと神を信じてるだけじゃ、教団も成り立たない時代になった。金さえあれば、教団を丸ごと乗っ取ることも可能な時代さ」
ニボユボは、妻ベテとのことを忘れたように饒舌だった。
しばらくすると、今度はニボユボがビリヅに尋ねて来た。
「ところでビリヅ君は転生者なんだから、前世の記憶を持っているだよね。君の前世の話を聞かせてよ」
そこでビリヅは、前世では、一流大学に入学するため、幼い頃から学校と塾通いの勉強の日々を送り、ようやく迎えた大学受験の当日に、交通事故で命を落とした、という話を伝えた。すると、
「ははは、それは災難だったね。でも俺は、その人生にも、そして、そこから選んだ、この人生にも、何らかの意味があると思うよ。生まれ変わり、というのは、そのためのものだからね」
ビリヅは、ニボユボに、守護霊について聞くことにした。
「僕は、ここに来る前に、ヅプという守護霊に会ったんだけど、あれは神様なのかな?」
ニボユボは驚く様子もなく答えた。
「守護霊というのは、言うなれば、自分の一部なんだ。自分というのは、表面に出ている自分だけじゃなく、もっと大きな存在と考えていい。でも、神というのは、そのさらに上にある存在のことさ。そして、俺が目指しているのは、その、神になることなんだ」
やがて列車は「テゴタワ駅」に到着した。時間は午後2時を少し過ぎた頃だった。
「それじゃ、チユシカ教団を見に行こう」
駅を出ると、正面の街並みの先に、2つの塔とその奥にドーム型の建物を有する、チユシカ教団の本部があった。ニボユボが足を止めたのは、大きな掲示板の前だ。
「中には入門者からお金を取るような教団もあるが、ここはタダみたいだな。ビリヅ君、真理探究のためだ。これを飲んでくれ」
教団本部へと歩きながら、ニボユボは錠剤をビリヅに手渡した。
「これを飲めばいいの。なら、飲みますよ」
教団本部の2つの塔の真ん中に扉があり、そこを入ると、集会場のような空間があり、その奥に、さらに扉があった。その扉の前まで行った時、ビリヅは突然、強烈な目眩に襲われた。
ビリヅは立っていられなくなり、ニボユボにもたれかかる。ニボユボはビリヅを抱えたまま、扉を何度も叩き、
「私たちは教団への入門を希望する者だが、連れが突然、体調を崩した。何とかしてもらえないか」
と、ありったけの大声で叫んだ。