4 知らないうちにご近所さん
飲み食いします。
「はいそこの三人。キリキリ働くんだぞ~。お前らがどんな立場だろうが関係ないぞ~。てめぇの尻はてめぇで拭くんだぞ~。」
う~ん。今日はいい天気だ。人のんびり釣りにでも行きたい気分だね。昨夜の出来事が現実でなければ。
―まったく……それでも元守護竜か? 次にこんな真似をしたらお前はこの地から消え失せるものと思え―
オルはなかなかのイライラっぷりだな。ま、こればっかりは仕方ない。
「おはよ~! 朝から頑張ってるね……結局これって?」
少しばかり寝坊したのか寝ぼけ眼のニーチェが来たな。しまった! 朝飯持ってきてもらえばよかったな。
「おぅ。おはようだ。もちろんこの三人に弁償させたぞ。魔術具もな。」
「あはは……こればっかりは自業自得ってやつだね。」
ニーチェが渋い愛想笑いを浮かべて俺の横に座る。オルはニーチェの膝の上にちょこんと乗り三人に目を光らせている。
「悪気があってのことじゃないから、怒るに怒れないのが何とも言えないわ。三人共だいぶ反省してるようだから、とりあえずは建て直しまではきっちりやってもらうけどな。」
はぁ~っと深いため息をつき空を見上げる。
「昨夜は家があったんだよな……」
現在目の前で俺の家が組み上がっている。床材を張り、外壁部の壁材を組んでいる。夕方には屋根まで終わるだろう。
あとは今日中に魔術具をセットし、昨日完了した工程まで追いつければいいか。
何が起こったのかって? ふん。昨日の夜の出来事だよ……
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「そういえばネシャとニョロゾって何か特化したスキルがあるのか?」
揚げたての唐揚げをつまみにジョッキに注いだ酒で喉を潤す。
「もちろんあるぞ! でも気軽に名称は明かせないんだ。自分のスキルが長所であるのは事実だけど、敵対する者にとっては弱点を晒すようなものだからね。」
一瞬料理に伸ばす手を止め、割と真剣な表情で答えるニョロゾ。そしてすぐに握りしめたフォークでホイル焼きの魚を口に運ぶ。
「そうなのか。てっきりスキルって普通に冒険者の間では知られてるものとばかり思ってたよ。」
「Cランク以上の冒険者はだいたい何らかのスキルに特化してるからね。むしろスキルなしの冒険者って……いるのかな? あっ! ここにいたわ~!」
少し酔いがまわってきたのかネシャが饒舌に答える。
「でもどうしたんだ? いきなりスキルの話なんてキノからくるとは思わなかったよ。」
空になったジョッキに酒樽から酒を注ぎながらニョロゾが呟く。
「いやな、ニーチェと出会って間もない頃に彼女のスキルは教えてもらったんだ。だから各々のこういった情報はある程度共有されてるのかなって思ってさ。」
「ん~同じパーティーを長年組んでいると隊列の関係やクエスト遂行のためにお互いの情報は話すけど、普段は隠すものだよ。」
「そかそか。じゃこの話はもう終わり!」
「えっ! 私らは別に構わないけど……」
「いやいや! これ以上深く知るとスキル関係でトラブルに巻き込まれかねないからな。いわゆるフラグってやつだ。」
ネシャ達のスキルは気になるところだが、ここらで話を切らないとマジでフラグ回収とかなりそうだ。
「フラグってのが何か知らないがキノがそう言うならやめておこうか。にしても、このホイル焼きってうまいな!」
口いっぱいにホイル焼きを頬張りながらニョロゾが料理を誉めちぎる。どうやらニョロゾは唐揚げよりもホイル焼きのほうが好きなようだ。
「だろ? 肉ばっかじゃ体に悪いからな。ただ冷めたら味が落ちるから熱々のうちにな。」
「だな! って、もう酒がなくなってきたぞ。それよりあのビビって子、なかなかいける口だな。」
「よく食うしよく飲むよな。そういや、あいつがこのホイル焼きを初めに食ったんだよ。どうしてもレイザーラモンを食わせろってうるさかったから食わせたんだが丸々一匹食っちまったわ。」
「ほほぅ! って丸々一匹……どこにあの体に入るんだよ……」
「分からん。ってニョロゾ達も大概だぞ! どう考えても許容量を越えてるぞ……」
「そう言われてみればそうだな。だけどよ、ビビって何者なんだ? 人間じゃないよな?」
やはり気配だけで人外の存在だと分かるものなんだろうか。二人ともくつろいでいるようだが、完全に警戒を解いているわけではないようだ。
「ん……あぁ……人間じゃないな。ま、今はちょっと話せないが近いうちに話すよ。悪いやつじゃない。と思う。と自分に言い聞かせてるがな。」
「なんだよそれ……まぁオルーツアに危害を加えないなら、そこまで用心する必要もないか。」
少しピリッとしていた空間が緩んだように感じる。二人の警戒心が解かれたのだろう。
「そういうことだ。まぁゆっくり飲み食いしてくれよ。」
そう言うとビビとオルとニーチェの側に座り軽く労う。
「ビビ。今日は助かったよ。ネシャ達にちゃんと指示してくれたおかげで一日で建てちまうんだからな。それにニーチェもあの二人を呼んでくれてよかった。報酬も俺の料理ってことで済んだしな。」
「この私からすれば、このような建物などまさに積み木のようなものですよ。ですが、すべて木で造る建物など強度の面では大丈夫なのですか? あっ。唐揚げおかわりお願いします。」
リスのように頬を膨らませておかわりを催促するビビ。
その横ではオルが一心不乱にマヨネーズまみれの唐揚げと戦っている。まるで大食い競争を見ているかのようだ。
「あの二人なら力仕事はお手のものだから、キノの役に立つと思ったんだ! でも1日で家ができちゃうなんてね!」
酒の代わりにお茶を飲みながら屋内を見渡すニーチェ。今回の一番の功労者は二人を呼んでくれたニーチェだろうな。
「だよな。俺もびっくりだよ。あとは明日のうちに金物できっちり固定したら内装に取りかかれると思う。」
ぐびりとジョッキの酒を飲み干し床に座る。家具やらなんやら購入するとなるとまだまだ資金不足だな。なんとか効率のいいクエストをこなして稼がないと……
「キノよ。一つ頼みがあるのですが聞いてもらえますか?」
少し赤みがかった顔を近づけてビビが話しかけてきた。
「私の住まいには二人の使用人がいるのですが、その者にこちらの料理を試食させたいのです。」
「ん? 別にいいぞ。ってお前ってどこに住んでるんだ?」
まだ取り付けができていない窓からビビは向かいのブロックにある家を指差す。
「あそこです。リーヌ様が用意してくださいました。」
……え?
「くだらぬ教団を立ち上げようものなら即座に連絡するよう常に監視できる場所だと。なのであなたは下手な真似はできないでしょう。」
……あのくそレゴブロックめ……先手を打ちやがったな……
「そ、そうか。じゃご近所さんだな。だが毎晩のように飯を食いに来るなよ。お前のメイドにきっちり教えてやるからな。」
「もちろんです。では二人を呼んできますのでしばしお待ちを。」
そう言うと少し千鳥足のビビはふらふらと家から出て行った。う~む。酒には弱いみたいだな。あのふらつき具合は仕事帰りに一杯ひっかけたサラリーマンと変わらないぞ。
「キノ! お酒なくなったからちょっと買いに行ってくるよ! すぐ戻るから何か魚の料理作ってて!」
ネシャとニョロゾが空の酒樽を担いで飛び出して行った。あいつらは一体どれだけ飲むんだ?
「あの二人って酒場にいるときより飲んでるんじゃないか?」
「だね。それだけキノの料理がおいしいんだよ!」
「そんなもんか。まぁしっかり食べてくれるのは作り手としても嬉しいけどな。」
そんな調子でニーチェと話していると玄関の扉が開き、ビビと二人の人物が入ってきた。
「はじめまして。ビビ様の使用人として使えています。」
「サークです。」
「シークです。」
「「どうぞよろしくお願い致します。」」
ビビの使用人の登場です。




