2 何でも一人でやろうとするのは間違ってはいないができないことのほうが多い
助っ人がきます。
―ありがとうオル! まじで助かったよ!―
埃まみれの体を払ってやりながら感謝を伝える。
―ふん。この程度のこと造作もないわ。約束は守ってもらうからな―
―おう。今夜の晩飯から肉解禁だ。んじゃ早速……―
―お、おい! すぐに食えるのではないか?―
―ダメだ。この更地で作れるわけないだろ。晩飯まで我慢するんだ―
―ぐぬぬ……肉ぅ……―
しおらしく尻尾と頭を垂れて残念がるオルを尻目にタブレットを起動し、チェックしていた物を購入する。
しばらくすると、またもや地響きをたてて購入した物が更地に現れた。
―おい。これは何だ?―
目の前に積み上げられた加工済みの木材を見上げながらオルが呟く。
―これが俺達の家だ。こりゃ力仕事になるな……―
「お――い! 買い物は終わった? って何これ?」
家に置いてきぼりにしてきたニーチェが小走りに向かってくる。うんうん。そりゃその反応が当たり前だよな。
「おっニーチェか。これを組み立てて家を建てるんだ。」
「ふえぇぇ……まさかこれも……」
「おう。ネットショッピングで買ったんだ。魔術具とこいつのおかげで有り金が500万から20万くらいになったがな。」
あんぐりと口を開けて材料の山を見上げるニーチェ。
「まったくネットショッピングって本当にすごいね……でも一人で建てるの?」
「できなくはないがむちゃくちゃ時間がかかるだろうな。この町で大工仕事ができる人を雇おうと思うんだが、相場はいくらくらいか知ってるか?」
「えっとね~家を建てることができる職人はこの町にはいないと思うよ。普通は王都の建築ギルドに予約してから自分の番がくるまで順番待ちだからね。」
くっ。マジか。一人で建てるとなると、家ができる頃には俺の体は間違いなくムキムキになっちまうな。
「そうだ! 彼女達なら何とか力になるかも!」
「あ! どこ行くんだよ?」
「ちょっと待ってて!」
そう言い残すとニーチェは風のように走り去ってしまった。
―お前はまったくもって計画性がないな。リーヌ様とは大違いだ―
―うるさい。男は計画性よりも勢いが大事なんだよ―
―ふん。この木の山がどのようになるのか見ものだな―
くそぅ。オルに返す言葉もない。日本での仕事柄、建築にはある程度の知識と経験があるが、一番大事な事が頭から抜けていた。
この世界には重機がない。ゆえにいくら加工された材料を組み立てていくだけの作業でも、非力な俺にとってはこの上ない筋トレになるのは間違いない。
誰かを雇おうにも残金は20万ちょっとなんだよな……
ニーチェが連れてきてくれるやつに期待するしかないか。
「来たよ~キノ!」
「ちゃんと謝礼はもらうからな! で、何からしたらいいんだ?」
荷をほどいていると後ろから聞こえる聞き慣れた声に振り返る。ニコニコ顔のネシャとニョロゾがいた。
「おいおい! 二人とも家建てれるのか?」
「普通の家は建てたことはないけど、ニーチェの話から察するに木を組んでいくだけなんだろ?」
「レンガ造りや凝った家なんかはもちろん作れないけど、積み木みたくするならたぶん私らでもできるよ! 貧弱なキノじゃ無理でしょ?」
む~。小馬鹿にされてる気分だが何も反論できない。
「まあ設計図があるから余程の事がない限り素人でもできるかな。でも、ほんとにいいのかよ?」
「ちゃんと謝礼があるならね! そこんとこはきっちりしとかないと!」
ニョロゾが満面の笑みを浮かべて念を押してくる。なんだろう……とてもやばい笑みに見える……
「もちろん謝礼は出すよ! だけど、この家を買って手持ちが……」
「大丈夫! 俺らは金には困ってないからさ。金の代わりに……」
「「キノの家を酒場にしてもよい?」」
「はい?」
一体この化け物コンビは何を言い出すんだろう?
「いやね。酒場って言っても私達が来たときに、キノがちゃちゃっと料理してくれたらいいんだ! もちろん材料とお酒は私達が持ち込むから!」
ということは、俺は料理を作るだけでいいのか?
「それに毎日お邪魔するってわけでもないからな。オルーツアに戻ってきたら立ち寄るくらいだ。たぶん一ヶ月のうち一週間は入り浸るな。」
「多いなっ!」
だが悪い話じゃないな。この二人がいれば三日もあれば建てられそうな気がしないでもない。
「よし! 二人にお願いするよ。要は二人が食いたいときに料理を作ればいいんだな? まかせろよ!」
「やったー! これでいつでもキノの料理が食えるぞ! じゃ早速建てようぜ!」
そう言うとネシャとニョロゾは飛びかかるように建材を運び始めた。
「ふ~。あの二人って体力ありすぎだよ。どう? 手伝ってくれそうかな?」
息を切らせながらニーチェが戻ってきた。
「ああ。ほんと助かったよ! 正直、どうしようか頭を抱えていたからな。ニーチェも謝礼を出すからな。」
「えっ? 何くれるの?」
目をぱちぱちさせながら俺を見上げるニーチェ。
「いつでも好きな時に俺の手料理が食える権利だ。もちろん期限はないぞ。」
「えっ……そ、それって……死ぬまでキノに食べさせてもらえるって……」バタン
どうしたんだ? 顔真っ赤にしてぶっ倒れたぞ。
―まったく……女心が分かっておらんな。言い方というものがあるだろうが―
―オルよ。お前の言ってる意味がまったくもって分からん。話したのは飯食わすってだけじゃねえか?―
―……ワシが思うに、お前は結婚するチャンスを逃すと死ぬまで独身でいるタイプだな。それよりもほれ。すべてをあの二人に任せていてよいのか?―
オルの言葉にふと我に帰り、二人に視線を移すと……
まるでやぐらのように積み上げられた建材の前で、いかにもやりあげたって雰囲気の二人が額に汗を滲ませて爽やかな笑顔を浮かべている。
「あの……一応平屋(一階建て)なんだけど……」
こりゃ現場監督が必要だな。
「とりあえずもう一回最初からやり直そう。図面の見方から説明するから。」
せっかく組んでもらって悪いのだが、さすがに解体せざるを得ない状況だ。せっせと材料ごとに分別しているとまたもや背後から声がする。
「あらあら。このような安易な建造物すら作れないとは。所詮ドワーフと毛玉ですわね。私が手を貸しましょうか?」
……この声。あいつだよな? でも何であいつの声がするんだ?
「ぁあん? 何言ってるんだ? てか、てめぇ何者だよ?」
うっわ。ニョロゾくんがヤンキーみたいだ。ネシャもあの顔つきからしたら怒りモードか?
「あなた方に名乗るほどの者でもありませんわ。弱き者達よ。」
あの時と同じ感情のない眼差し。己が強いからこそ見せる弱者に対する眼差し。
「はぁあん? 誰が弱き者だって?」
あっ……ネシャさんお怒りのようですね。すっげぇメンチ切ってるよ。手を出したらあかんよ。君ら冒険者だよ。一応最高ランクなんだよ。
―そこまでだ。この場において争うのはこのワシが許さぬぞ―
「むっ。オルちゃん……が言うなら仕方ないな。」
「オルちゃんが仲裁に入るくらいならやっちゃいけないよね。」
「……申し訳ございません。私は争う気はありませんわ。」
むぅ……この町が崩壊してもおかしくないような争いを一言で沈めるとは……やはりオルは凄いな。
「ま、まぁ喧嘩はよくないからな。ネシャ達もこんなちんけな言い争いで名前に傷がつくのはあれだろ? んでもって、お前は何でここにいるんだよ?」
振り返りシュンとしている赤黒い髪とルビーのような目の持ち主に声をかける。
「ビビ。」
再登場のビビです。




