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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第6章 追う者と追われる者では追う側のほうが楽しい
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14 深夜の来訪者

誰か来ました。


「……きろ。……っち起きるんだ!」


 ……ん? 何だ? まだ朝じゃないよな……


「起きろって言っとるだろうが――!」


「うぐわぁっ!」


 みぞおち辺りに激痛が走る。殴られたというより踏みつけられた感じだ。


「う……ぐおぅ……一体何事?」


 まだ薄暗い空間に目を凝らすと、俺の上にサチが突っ立っている。


「……おい。俺は大抵の悪ふざけは寛大に許すが、睡眠を邪魔するやつは万死に値する存在だと判断して、きついお仕置きをかますんだが覚悟はできているか? てか、ちょっと待ってろって言ってこんな時間に来るのもどうかと思うぞ?」


 脅しの文句にも怯まず、逆にサチは俺の胸ぐらを掴みまくし立てる。


「やばいよ! 早く逃げるんだよキノっち! 殺されるよ!」


「訳わからん。てか、どうやってこんな時間にエルシュさんちに入ったんだよ?」


「この家はマーキングしたから転移魔法で来れるんだよ! そんなことよりも早く逃げるんだ! もう……来るっ! が、うが――――っ!」


 夜が明けきらぬ暗闇の中、月明かりに照らされたのはアイアンクローをかまされて、むごーと声にならない悲鳴をあげながら手足をバタバタさせてるサチ。


 そして軽々と右手で彼女を宙吊りにしている鬼の顔をしたレゴブロックの姿だった。


「やはりあなたが教祖でしたか。ミンチにして差し上げます。」


「ま、待て待て! 教祖? 何の事だよ?」


 うん。大変危険な状態だ。ここは誤魔化してでも切り抜けないと!


「あなたのおかげで我が家には入信を求める女性が足しげく訪れています。レゴブロック教とやらを求めて。」


 静かに言葉を続け、右手にはサチを掴みながら静かに近寄ってくる。

 やばい! このままだとあの左手の餌食になるのは時間の問題だ!


「レ、レゴブロ……いや、リーヌさんよ。勘違いしていないか? 俺はよかれと思ってやったんだぞ。」


 俺の言葉に体を止め、冷めた眼差しで俺を見下ろす。

 

「どういうことですか?」


 サチがいるから普通の会話じゃやばいな。ここは念話で……


―お前は女神なんだろ? 少なからず人々に崇められ敬われる存在だよな? それが今じゃこの地でエルフの元騎士団団長として見られてるだけだ。はっきり言えば女神の威厳すらないわけだ―


―……そうですね。それは常々感じていましたよ―


―だからさ、人々がもっとお前に注目するように仕向けたんだ。女神=崇拝の対象だろ? だからお前のその立派な絶壁を知れば似た境遇にある女子達が……―


 あ……やべ……口が滑っ……がっ!


「どうも言い訳が苦しいですね。本音がちらほら出て余計に腹立たしいです。あなたには特別に利き腕を用いましょう。」


 あれっ? おかしいな。なぜか足が宙に浮いているし、なんか頭蓋骨がメリメリ音をたててるぞ。これってやばいやつじゃないか……?


「キノくんどうしたんじゃ? ネズミでも出たのかい?」


「キノどうしたの? ちょっとうるさいよ……」




「「ぎゃ――――――!!」」


 二人の悲鳴を聞き届けた後、俺は意識が飛んだ。





「レゴっちひどいよ――! あたし何もしてないじゃ……があぁぁ!」


 本当に残念なエルフだ。つい口を滑らせてしまうのだろうが、タイミングが悪すぎる。


「リーヌさん……もうそのくらいで許してあげたほうが……鼻血垂れてるから……」


 ニーチェがおどおどしながらレゴブロックをなだめている。


「リーヌ殿、どんないきさつがあったのか存じませぬが、さすがに我が家で殺人事件は控えて頂きたいのですが……」


 エルシュさんは半ば呆れ顔でレゴブロックをなだめている。


「今何時だと思ってんだよ。俺は明日から忙しいんだぞ。モラルもへったくれもないな。寝る子は育つって知らないのか? そうか! 無駄に夜更かししてるから、出るとこも出ないでぺったん……ぬがあぁぁ!」


 こめかみを襲う激痛。やばい。また意識が……


「エルシュの顔に免じてこのくらいにしてあげましょう。しかし、くだらない宗教は立ちあげないことです。」


 こんな夜更けに命の危険を味わうとは思わなかった。


「……おい残念なエルフ。どうして同じエルフなのに、おまえと違ってあいつはあんなに男前な上半身なんだ?」


「男前な上半身? ぴゃ――――! キノっちは相変わらず笑わせてくれるねぇ! エルフでも珍しいんだよ。あそこまで谷間がない女子っ……はうっ……」


「あなたはもう少し口数を減らす必要がありますね。」


 あかん。ネックハンギングされたサチが白目むいてる。


「もういいだろ。それに気も済んだだろう? さっさと帰って休みな。マジで明日から忙しいんだよ。」


 「貧乏暇なしとはあなたのための言葉ですね。まあいいでしょう。もう二度とあのような立て看板を……」


 くるりと背を向け部屋から出ようとする彼女を、サチがなぜか引き留める。


「う……リーヌっち……待って。」


 よろよろと立ちあがり、部屋の片隅に置いてある例の看板をレゴブロックに差し出す。


「これを返さなきゃ……ぴぎゃああぁ!」


 こいつはバカなのか? 

 レゴブロックが去った後には、頭から煙をあげるサチと粉々に砕かれた立て看板が転がっていた。


「エルシュさんこんな時間に騒々しくてすいません。ニーチェ、悪いけどサチを泊まらせてやってくれよ。さすがに外に放り出すのは可哀想だ。」


「う、うん。じゃ私の部屋で休んでもらうよ。」


「死人が出なかっただけよしとしよう。キノくんも災難じゃったな。」


 再び眠りにつくために各々部屋に戻っていく。さすがに今回ばかりは二人に迷惑かけたな。俺ももう一度寝ないとな。






「おはようキノっち!」


 先に起きてパンをかじっているサチは、昨夜の出来事が嘘のようにテンションが高い。


「お~朝から元気いいな。てか、生きて朝を迎えられてよかったな。」


「リーヌっちは死にそうになる一歩手前でやめてくれるから死ぬことはないよ!」


「そかそか。で、昨日慌てて出ていったのは何だったんだ? まさかレゴブロックを連れて来るためとかじゃないよな?」


 俺の言葉にはっとするサチは、テーブルの上のパンを二つ三つと鷲づかみにし勢いよく椅子から立ち上がる。


「すっかり忘れてた! キノっちちょっと待ってて!」


 そう言い残して昨日と同様に転移魔法で姿を消した。


「サチさんって凄いね! まさか転移魔法使えるなんて!」


 お茶を準備したニーチェが羨ましそうにエルシュさんと話している。


「凄いんだろうけど……いろんな意味で残念なやつだな……」


 俺はパンをスープで流し込みながら彼女を心から憐れむしかなかった。


 しかし、彼女は一体俺に何の用事があったのか?







新しい登場人物と閑話を挟んで新章に入ります。

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