8 人の価値観ってほんとによくわからない
グラーシュさんの依頼を片付けます。
「地図によると……この岩の隙間が入り口か?」
人の手によって造られたであろう岩肌に開けられた穴の形が、地図に記されているそれと一致している。
「ふむふむ。どれ! ワシが先に行って様子を見てきてやるぞ。」
ニコニコ顔のネルは手のひらから光の球体を出し、灯りの代わりにして穴に入っていった。
「中は広いのじゃ! お主も入ってくるがよいぞ!」
ネルの声が中で反響して穴から漏れてくる。まいったな。俺一人で探索するつもりだったから松明とか持ってきてないぞ。
「何をしておるのじゃ? はよう中に……うひょ――――!」
何だ? 何を見つけたんだ!? もしや魔術具が山盛りで俺達を迎えてくれるのか?
こうなったら仕方ない。あまり見られたくないが懐中電灯を使って入るしかないな。
穴に入るが、やはり中は地下に進むように設計されたものだら、それもなかなかの規模がありそうだ。
「おお~い! どこにいるんだ~?」
「こっちじゃ! こっちじゃ!」
蛇のように曲がりくねった下り道の先にネルの持つ光の球体が揺れている。
あの先にグラーシュさんが求めているお宝があるに違いない。まさかこんなに簡単に見つかるとはな。
「どうしたんだ? お宝か!?」
「見ろ! あれはワシが見つけたのじゃ! ワシが持って帰るぞ! 」
「……持って帰って構わないから退治してくれ……」
俺の目に飛び込んできたのは体の大半が朽ちながらもこちらに殺気を露にするドラゴンであった。
敵意むき出しのゾンビのようなドラゴンが、おもむろにその口を広げ咆哮を放つ。
その瞬間、俺の意識は真っ白になった。
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「……きよ。」
「しっかりするのじゃ。起きよ。」
どれくらい気を失っていたのかネルに起こされる。
「……俺は……気を失ったのか……はっ! あのゲテモノドラゴンは!?」
体を起こすがドラゴンの姿はない。だがやつの体液であろう液体が地面にシミを作っている。
「あやつの咆哮はスタンの効果があったようじゃ。ワシには効かぬがな。そしてあやつならば、心配せずともワシが生け捕りにしたのじゃ! まぁあれは生きていると言えるのかどうか分からぬがな。ほれ。」
自慢げなネルのマジックバッグを覗きこむと鎖に巻かれたあのゲテモノドラゴンがうねうねしている。
「お前って……凄すぎるな……しかもこのマジックバッグは生きたやつも収納できるのか?」
「うむ。だが、人間や亜人は無理じゃ。それにそんなに多くは入れられんしの。そういえば、こやつはあれを守護していたようじゃがお主の目当てのものではないのか?」
そう言いながら彼女が指差すほうにはいかにもって感じの宝箱が山積みになっている。
「どうやら魔術具のようじゃが、珍しげな感じじゃぞ。」
近づいてみると確かに魔術具のようだ。しかし、100%に近いくらい知識がないのでその価値が分からない。
「おおっ! たぶんこれだ! 悪いな。あんな厄介そうなやつ片付けてくれて依頼品まで見つけてくれるとは。そうだ! お前の手柄でもあるし、いくつか持って行けよ。」
「ふむ。ワシが見る限りでは興味をひくような品はないようじゃ。それに腐敗したドラゴンを手にしたほうが収穫じゃ。だが、お主がどうしてもと言うのならば……」
ニヤリと意地悪そうな笑顔を浮かべるネル。
「その手にある光の松明を譲るのじゃ。」
あっ……懐中電灯ね。。。
「むふふ――! これはよい物じゃ!」
懐中電灯を手にしたネルはご機嫌すぎるくらいご機嫌だ。
「ああっとな。それなんだが、電池がいる……って分からんよな。ちょっとあっち向いて待ってろよ。」
機嫌がいいネルは素直に俺に背を向け、懐中電灯をいじくり倒している。
その隙に俺はタブレットを取り出し、単3電池を三ケース購入する。
「これは……あれだ。魔素を詰め込んだようなものだ。しばらく使ってると光が出なくなるか、そうなったらこいつをこうやって……」
ネルに電池の入れ替えを教えくれぐれも他言しないよう釘を差す。
「このように光を集めて放つ魔術具など聞いたことがないのじゃ♪ お主は凄いのぅ!」
いやいや……あのゲテモノドラゴンを生け捕りにして持って帰るお前のほうが凄いぞ。
「いや~よい暇潰しができたのじゃ! 礼を言うぞ! これで心置きなく帰れるのじゃ。」
「こっちこそ助かったぞ。俺一人じゃあのドラゴンは倒せる自信はないわ。」
「であろうな。人間や亜人ごときでは己の死体を山積みにするのが関の山であろう。」
どうだと言わんばかりに胸を張るネル。会った時のあの殺気はどこへ行ったのか、今では昔から知っている冒険者仲間のようだ。
「さて……それではワシはそろそろ行くとするのじゃ。また会うのを楽しみにしておるぞ。それまでは達者でおるのじゃ!」
「また会うって? ネル……お前は……」
彼女の足元に複雑な魔方陣が広がっていく。そして淡い光が彼女を包む。
「ワシはワシじゃ。ネルと言う名は連呼されたくないのじゃ。ではキノよ。またの。」
話終えると同時にネルの姿がかき消された。
不思議なやつだったな……結局はネルの助けもあったが無事にグラーシュさんの依頼をこなせたぞ!
とりあえずはオルーツアに戻ろう! グラーシュさんの喜ぶ顔が目に浮かぶな!
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とある城のとある部屋
「父上。戻りましたわ。」
「おおネルよ! 随分と遅かったではないか。わざわざお前が足を向けるほどでもなかろうに。で、どうであった? あの二人の様子は?」
「元気そうでしたよ。それに……とても気になる方にお会いしましたわ。出会うべくして出会ったと。」
「何……それは男なのか?」
「ええ。」
「どんなやつ……だ?」
「とても不思議な方ですわ。一言では言い表せませんわ。」
「ワシとそいつとではどちらが男として魅力的……なのだ?」
「あらあら父上……それは口には出せませぬわ。そんな事言うと母上に慰められますわよ。ポッ……」
「おい大臣……魔団を呼べ。今すぐに呼べ。その男を地上から消しに行かせるのだあぁぁ!」
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とある城にある兵舎
「おい。久しぶりに国王の絶叫が聞こえるが何かあったのか?」
「知らん。魔団呼べとか聞こえたが戦争でも始めるのか?」
「う~む。俺達もいつ呼ばれてもいいように待機しとかないとな。」
「だな。」
やはりいいとこのお嬢様のようです。




