7 ゲテモノはうまいって言うけどいざとなったら食える気がしない
目覚めます。
オルーツアを眼下に望む岩山の頂にある二つの影。岩肌から吹き上がってくる冷たい風が二人のローブをはためかせる。
「ネル様から頂いたお前の手土産は何だ?」
「俺のはこいつだ。スライムゼリーだ。」
「ほう。なかなかうまそうだな。私のは……むっ!ポイズンワームの干物か。」
「うおっ! そっちのほうがいいじゃねえか! あとでちょっと分けてくれよ。」
「いいぞ。その代わりお前のスライムゼリーも少しもらうからな。」
「ああいいぜ。それにしてもわざわざネル様が直々に来られるとはな。しかも差し入れだけのために。」
「まったくだ。だが、まさか私達の探し人がこうも容易く見つかるとはな。しかもあんなアホ面で寝てるとは。」
「うむ。いっそのこと寝てるまま国王の元にとも考えたがネル様がな……」
「うむ。仕方ないな。今はその時ではないということだ。」
「そうか。ならば俺らは時が来るまで…」
「そうだな。時が来るまで…」
風にかき消されるような会話が終わると同時に二つの影も言葉と共に消え去った。
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「この地図によるともうそろそろだ。」
まるでジャングルのような湿地帯を歩き続け岩山の麓までたどり着いた。何度か魔物に襲われたが、ネルが『暇潰しじゃ!』と狩りまくってくれたから俺は剣を構えることすらなかった。
「むふ―! ワシの国にはおらぬ魔物ばかりじゃ。持って帰ってもよいか?」
「あ、ああ……で、持って帰ってどうするんだ?」
ネルは倒した魔物をせっせとマジックバッグに押込みながらニヤリと笑う。
「父上と母上と食う。」
食うって……それも食うのか? 今お前がバッグに押し込んでるのはどう見てもアンデッドだぞ? 腐ってるぞ?
「よいか? 食は生きていくためには必要不可欠なのじゃ。選り好みしてはならぬ。どんな物であろうと火を通せば食えるのじゃ。」
無理だよ。絶対無理だよ。アンデッドを焼いて食う? それなら餓死したほうがましだ。
「ふぅ。よく動いたからお腹が空いたの。どれ! ワシが食事を準備してやるぞ!」
ごそごそとマジックバッグから食材を取り出そうとしている。バッグの口からは紫色の血が滴る何かの塊が……
「結構です! 俺が作ります! いや! 作らせてください!」
「ほう? お主は料理も作れるのか? ならば頼むとしよう。期待しておるぞ!」
やばかった……あんな食材は見たことないぞ。紫の血だぞ? 腹壊すとかそんなもんじゃ済まないわ。
「ち、ちなみに何を作ろうとしたんですかな?」
「うむ。我が国の伝統料理のキングセンティピードのスープじゃ。あったまるぞ! ほれこいつじゃ。」
「ぎゃ――――――! 無理無理! これからは俺が飯作るからバッグに戻してくれ!」
ネルがバッグから取り出したのは二メートルはあると思われるムカデだ。
「何をそんなに怯えているのじゃ? これは生でもイケるのじゃぞ? 火を通せばより甘味が増すのじゃがな。」
そう言うと子供の腕ほどもある足をブチッと一本引きちぎりバリバリと齧り始めた。
「うっぷ……考えるな……あれは食い物じゃない……ムカデだ。ムカデなんだ……」
脳裏に焼き付いたお化けムカデを忘れるためにしばらく時間を置き、ようやく飯の準備を始める。文化の違いだと思いたいが、世の中にはとんでもない食文化もあるもんだ。
「……ほら。できたぞ。」
喉の奥まで逆流してくる胃液を飲み込みながら何とか飯を作った。腹は空いているが、どうにも食欲が出ない。恐るべきムカデの威力だ。
「むぅ……これは? 魚か?」
「そうだ。小骨は自分で取れよ。俺はちょっと食欲が……」
「そうか。ならばいただくとしよう。どれどれ……」
ネルは見慣れぬ料理を恐る恐る口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼していくうちに彼女の目がカッと見開く。
「なんじゃこれはぁ!?」
「口に合ったならよかったわ。こいつは川魚のマスのフライ、タルタルソースがけだ。この黒いソースも少しかけてみな。」
ふんふんと鼻息を荒くしながら食いつくフライにウスターソースをひとかけしてやる。
「ふおぉぉ! このような美味な料理は初めてじゃ! お主は冒険者ではなく、王宮の料理人ではないのか?」
「俺はただの冒険者だぞ。ウスターソースは……作るの難しいからフライとタルタルソースなら簡単だから教えてやるぞ。」
「本当か!? もし嘘ついたら父上に言いつけるぞ!」
「ははは! 嘘じゃねえよ。まだあるからおかわりしろよ。そうだ! これをこうして……」
カバンからパンを取り出し切り込みを入れフライとタルタルソース、それにウスターソースをかけて出来上がったフライサンドをネルの前に置く。出来たてのサンドに頬張りながらネルは至福の笑顔を浮かべている。
「なんと美味なのじゃ……すまぬがいくつか作ってもらえぬか? 父上達にも食べてもらいたいのじゃ。」
「いいぞ。ただ、手持ちの魚がもうないからな。魚が手に入ったら作ってやるぞ。その時に一緒に作って覚えればいいだろ?」
激しく首を縦に降る姿は年相応の女の子だな。だが……やっぱり人間じゃないな。
昨夜と違い、この明るい昼間に見る彼女の目はやはり心がない。まるでビビと同じように爬虫類の目だ。
オル達と違い、彼女は普通の量で足りたようだ。普通と言っても四つのフライと二つのサンドは多いほうか。
「馳走になった。本当に本当に美味だったのじゃ!」
口元をハンカチで拭きにっこりと笑顔を見せる。
「満足したなら何よりだ。んじゃ行くか。」
少し遅めの昼食を終わらせ、地図にある印の場所に向けて俺達は再び歩き出した。
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―リーヌ様こちらです―
―うむ。なるほど……オルツよ。すまぬがこの辺りを掘ってもらおう―
―仰せのままに―
―ビビよ。あなたは……こちらへ―
―リーヌ殿? 一体?―
―何も案ずることはありません。すべては私が整えます―
「……ええ。構いません。……では……はい。三日もあれば……」
「これで仕込みは終わりました。あとはキノ次第と言ったところでしょうか……楽しくなりそうですわ。ぷぷぷっ♪」
―オルツ様……リーヌ殿は何を企んで?―
―……まあそのうち分かるだろう。多分な……―
オルはビビに勝ったので様付けで呼ばれています。
リーヌとビビは戦っていないので、今まで通り殿付けで呼ばれています。




