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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第6章 追う者と追われる者では追う側のほうが楽しい
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5 先客がいるときはきちんと挨拶をしましょう

長々とおやすみしました。


「こないだ振りなのになんだか懐かしいな。」


 宿場町から特訓をした森に着いた。馬車を操れない俺が馬代わりに使ったのは某メーカーのマウンテンバイクだ。馬車が走れる街道だから自転車でも行けるんじゃね?と思った瞬間タブレットを操作していた。

 時折魔物が俺の姿を目にして追ってこようとしたが、そこそこのスピードで走る自転車に追いつけないのか、途中で追ってくるのをやめてくれたので無駄な戦いはする必要がなかった。


「さて……地図によると森とあの山の境辺りみたいだな。」


 俺は目の前にそびえる岩山に目を向ける。こりゃ登山道具が必要かもとおもってしまうような山だ。


「うし。山の麓を攻めるのは明日だな。今夜はあの場所で野宿とするか。」


 自転車をカバンに片付け、一ヶ月過ごしたあの地へ足を運んだ。






 薄暗くなるなか夜営の地へ着いた。あのときとほとんど変わっていない。夜営の残り火がまだくすぶっているようだ。


 くすぶっているよう……だ。


 え? マジでくすぶっているぞ?


 どういうことだ? 誰かここに来ているのか? 


 周囲を見回すが人影はない。だが、あれからだいぶ経っているがつい今朝まで人がいたような痕跡がある。


 散乱している魔物の骨、寝床にしていたのか枯草の敷物、そしてどう見ても人間のものだと分かる頭蓋骨。


 何だ? 何が潜んでいるんだ? 嫌な汗が止まらない。どうする? この場から去るか?


 太陽はすでに山々の谷間に沈み、岩山と森はただ黒に近い深い藍色を帯びているだけた。

 ひとまず、これから動くのは余計危険を招きそうなので意識を切らさずここで夜を明かそう。

 焚き火を切らさず天幕で横になりながらも、自分に対する殺気だけを感知するよう瞼は閉じるわけにはいかない。

 

「こんな事ならオルがいたらな……」 


 現在の状況を嘆いても仕方ないが愚痴を言わずにはいられない。いつまでこうやって神経をすり減らすのかと自問しながら、日が落ちて三時間ほど過ぎた時だ。


―ガサッ―



 近くの茂みで何かが動く。


 魔物か? いや殺気がまるでない。風で揺れただけなのか?


―ガサッ―


 間違いなく何かいる。だが何も見えない。こう見えても俺はホラー関係のものは大の苦手だ。このシチュエーションは……すごく嫌だ。

 もう俺の脳内にはこれから何が俺に飛びかかる近い未来しか見えない。


 次第にはっきりと聞こえる茂みをかきわけ進んでくる音。

 まっすぐこの焚き火に向けられ進んでくる音。


 嫌だ。本当に嫌だ。嫌だと思えば思うほど吸い込んだ息を吐ききれず浅くなってくる。

 視線を物音のする方角から逸らさず、横に置いている短剣に手をかけ鞘から抜き身構える。


 くそっ……来るなら来い。オルも誰もいない今は、この手で自分の身くらいは守ってやるぞ。


「おやおや。どうしたのじゃ? この肌寒いなかそんなに汗をかいて。」


 突然に耳元で囁く女の声。その声には殺気が……


「そう構えるな。お主、ワシの暇潰しにしてやるのじゃ。ほれ。」


 その瞬間体にまとわりつく嫌な空気。うわぁ……この空気からは……殺気しか感じられない。


「うらあああっ!」


 短剣を振りかぶり切りつける。が、姿がない。どこだ? どこに隠れた!?


「……ふむ。なかなか厄介そうなもの持ってるのじゃな。さて、どれほど暇潰しになるのかの?」


 またも俺の耳元で囁く声。そして俺に向けられる好奇の視線。


「ちょっ待て! お前は誰だ!?」


「誰でもよいじゃろ? ほれ。ゆくぞ。」


 俺を狙い定めた剣が襲いかかる。今まで感じたことのない殺気を帯びた剣は、俺に触れることなく背後にある天幕の柱を両断する。


「待て待て! 俺を襲って何の意味があるんだ!?」


「意味などない。暇潰しじゃ。」


 両手にある二振りの剣が息をつく暇もなく襲いかかる。もはや俺に対する殺気というより、ただ単に俺を狩っているというのが正しいくらいだ。

 だが、その刺すような殺気のおかげで攻撃を食らうことはない。恐ろしく早くて重い攻撃だが、直線的な太刀筋でかわすのが楽なくらいだ。


「ぬぅ……当たらぬ。」


 欠けた月の明かりよりも輝く星の明かりだけを頼りにすべての攻撃を見切る。女は驚きと戸惑いで俺と一定の距離を置いている。


「もうやめとけ。お前の攻撃じゃ俺は倒せないぞ。」


「のようじゃ。うむ。よい暇潰しになったぞ。」


 焚き火のほのかな明かりと星の明かりだけでは表情は見えない。が、雰囲気からすると年下の女だろう。


「……ところで、お主は一人なのか?」


 ふわりとまるで風に吹かれる木葉のように焚き火の近くに座り、じっと俺を見据える。


「だな。ちょいとこっち方面に依頼を受けてな。もう一度聞くがお前は……」


「そうか一人か。なかなか腕が立つようじゃな。気に入ったぞ。」


 俺の言葉を聞いていないのか? くそっ。この暗がりでははっきり顔も見えないな。


「暇潰しではもったいない。お主は……獲物じゃ。」


 たった一度のまばたきだった。


 その瞬間、俺の横にそいつはいた。


 その女の目は普通とは違っていた。


 人間の目ではなかった。


 全身に悪寒が走り、この場にいることを体が拒否している。


   ―逃げろと―


 気がつくと俺は無我夢中で森の中を走っていた。

 あいつはヤバいと本能的に感じたのだろうか。足を止めたくない。止まればやられる。


「くそっ! 何だあれは!」


 走りながらでも悪態をついてしまう。魔物じゃない。だが魔物以上に恐ろしい。あの目は……心がない!


 いつの間にか森を抜け茂みの多い獣道に出る。今はとにかく逃げないと。

 振り返るとあの目がすぐ後ろを追ってくる。赤い髪をなびかせながら笑みを浮かべ何か叫んでいる。


「ヤバいヤバい! このまま捕まったら俺死ぬぞ! もういい加減ついてくんなぁ――!」


 徐々に二人の距離が縮まり始める。このまま捕まったら……奴隷か? それとも食料か? 最悪のシナリオしか頭に浮かばない。

 不意に背後に迫る女のねっとりとした殺気がなくなった。だが、なくなった殺気の代わりに俺の目の前には得体の知れない当人が立っている。


「お主の瞳は今宵の月のようにまん丸じゃの。」


 何の前触れもなく目の前に現れた声の主は、俺の額に手を伸ばす。まるでバットで殴られたような衝撃を受け吹き飛ばされた俺は黒い夜空を見ながら呟いていた。



「なに言ってんだ? いや俺の見間違い……か? 今夜の月は……満ちているのか?」










これでようやく一話目が終わった流れです。

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