4 唐揚げは揚げたてが一番おいしい
少し体調回復したので更新します。
バタン。
気のせいか? 反射的に閉じた扉を少しだけ開き中を覗く。
「何をしているのです? 聞こえなかったのですか? オルツの言うカラアゲとやらをとっとと作りなさい。私がその味を吟味しようではありませんか。」
「のおおぉぉぉ!」
扉の隙間からは逆に俺を卑下する視線が目の前にある。
「おい。何でお前がここにいるんだよ。」
なぜか扉の先にはレゴブロックがふんぞり返っていた。
「言ってる意味が分かりません。ここは私の家ですよ。かれこれ10年ほど放置していましたが、騎士団から身を引きましたのでとりあえずこちらに仮家として住まうことにしたのです。」
こいつ一応女神なんだよな? 普通にこの世界に馴染んで生活しているぞ……おまけにこの家の内装が……
「なあ……聞きたいんだが、これはお前の趣味か?」
「あら? 気になりますか? もちろんこれは私の好みにカスタマイズしたものですよ。辛気臭い内装は肌に合いませんからね。」
もう何て言っていいやら……俺の目の前に広がるのは家の外観からは想像できない造りなのだ。
「何で家の中に噴水があるんだぁ!?」
そうなのだ。目の前に噴水があるのだ。しかもそれだけではない。大理石で造られた壁や床、テーブルや椅子はまるで中世の貴族が使うような仕上がりだ。
そしてどう見ても広い。外から見た家の大きさより五倍以上の広さがある。
「小さいことは気にしなくてよいですよ。あちらにキッチンがありますからさっさと作りなさい。」
「小さいことじゃねえよ! なんだこの家は?」
「私は女神ですよ? それなりの住まいを持つのは相応しいとはずですが。もしかして僻んでいるのでしょうか? まったくこれだから愚民は哀れですね。ぷぷぷっ♪」
うわぁ……こんなところで神の力を惜しげもなく出してるよ。
―キノよ。早くカラアゲを作るのだ。リーヌ様とワシの分だぞ―
俺の推測だとオルがこいつに唐揚げのことを話したっぽいな。俺も腹が減ってるし無駄に争うのも面倒だから作ってやるか。
「んじゃ作ってやるから台所借りるぞ。それからお前の後ろにいるやつもどうせ食うんだろ? 今日はホイル焼きじゃねえからな。」
レゴブロックの座っているソファに隠れるようにこっちを見ている見慣れた顔。赤黒い髪をした守護竜ビビの姿があった。
「おかわりです。」
「おかわり。」
―おかわりだ。次はレモンも添えろ―
すでに四回は揚げ直している。ビビとオルの食欲はともかく、レゴブロックの食欲も負けず劣らずだ。
「どうだ? 唐揚げの偉大さが分かったかこの食いしん坊ども。」
「やはりあなたの料理の腕前に着目した私の目に狂いはなかったようです。まさかただの鳥がこのような美味になるとは。」
一心不乱に唐揚げにむさぼりつくビビ。たぶんオルよりも食べるスピードは早いな。そして口のまわりが油まみれだ。
「ただの人間にしてはなかなかの腕前ですわね。この世界にはない料理を作れるとは。もう料理人として生きればいいのではありませんか? あっ私にもレモンを添えなさい。」
……このペラペラな体のどこに入るんだってくらい食いやがるな。もしかして胃袋は異次元につながっているのか? じゃないとあれだけ食ってるのにあの体型は哀れすぎるぞ。
「なあひとつ聞くが、オルといいお前といいどこに食ったものが入ってるんだ? ビビはドラゴンだからよく食うのは分かるけどよ。ほれおかわりだ。」
「乙女にそのようなことを聞くものではありませんよ。体重を聞くのと同じほど罪深いことですからね。」
―そうであるぞ。こう見えてもリーヌ様はスタイルには気を遣っておるゆえ、食べ過ぎぬよう自制を働かせておられるのだ―
「ほう。自制を働かせてその食いっぷりか。そしてそのつんつるてんか。 へぼらっ!」
料理をしている俺の背後から飛んでくるレゴブロックの左フック。やっぱりこいつが女神とは思えん。
「ふう。私はもうこのくらいにします。なかなかの味でしたよ。カラアゲとやらは。ではお茶でもしながらあなたをここに呼んだ理由について話しましょうか。」
ビビとオルはまだ食べたそうだが、レゴブロックの一言でピタリと動きが止まる。両者共におあずけをくらった犬のようだ。
「ほれ。これが最後のおかわりだ。こいつらが食い終わったら話を聞くぞ。」
嬉しそうに再び唐揚げに飛びつく二人を尻目に深いため息をつくリーヌであった。
「……というわけで魔族らが目を光らせているのですよ。」
にわかには信じがたい話だがこいつが言うのであれば嘘ではないだろう。
「まだ確証はないんだよな? 下手に疑われると俺達どころか周りのやつらも狙われる可能性があるんじゃないか?」
テーブルを挟みいつになく真剣にレゴブロックとやり取りをする。知ってか知らずかオルは呑気にレゴブロックの横で丸くなり寝ているようだ。
「そうですね。なかなかの手練のようで、騎士団としても動けなかったのでその点は何とも言えません。ですがくれぐれも気を抜かないよう忠告しておきます。そしてひとつお願いがあるのですが。」
ん? レゴブロックがお願い? いきなり何だ?
「オルツをしばらく返してもらいます。」
レゴブロックはこの度の魔族の動きを調べるためにオルツが必要らしい。女神とはいっても所詮戦いに特化しているわけではないと。現状この世界ではオルのほうが強いみたいだ。
「それは構わんぞ。お前が飼い主だろ。クエストは討伐が絡んでいるわけじゃないからなんとかなるさ。だからそっちはそっちで何とかしろよ。」
「わかりました。あなたにはその剣があるのでこちらからは居場所はすぐに分かりますから死んだら遺体は回収しましょう。」
この剣で俺の居場所が分かるだと? まさかこいつがこの剣を……いやいや! それはない!
「縁起でもないことを言うんじゃない! それから……こいつはどうするんだ?」
床に正座をしたまま動かないビビに視線を移す。まるで忠犬のようにおとなしいな。
「ビビは私の元、ではなくオルツの元に居させます。つまりは私の元に。」
「……考えられる最強の布陣じゃねえか……国一つ滅ぼす旅にでも出るのか?」
「元は守護竜と言えども何かと役に立つと思いますからね。さて。話は終わりましたからさっさと行きなさい。」
食い物を作らせるだけ作らせて追い立てるように家から出された俺はとりあえず町の宿の予約をし、この宿場町で野宿に必要な物を揃えるすることにした。
「まったくなんてやつだ。こうなったらこの町をレゴブロック教の総本山にしてやろうか……とりあえずオルがいないから当面の俺が食う食材と野宿する道具を買って……」
そういえばなんやかんやでオルはいつも俺の横にいたな。急にいなくなると寂しいもんだ。
ある程度必要な物を揃えて宿に戻り明日からの行程を考える。
う~む。やはり一人だと心細いな。だがあのルーシキの森からそんなに離れてもいないし、いきなり魔物が強くなるわけでもないだろう。
「ま、なるようになるさ。危なくなったら引き返せばいいしな。」
あまりネガティブなことを考えない俺は早々に布団に入り目を閉じた。
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―リーヌ様。キノ一人で大丈夫でしょうか?―
心配そうにリーヌを見上げるオル。
―大丈夫……だと思いますよ。キノの今の力ならば死ぬことはないでしょう。礼節に欠けた態度を取らない限りは―
薄ら笑いを浮かべながらオルに答えるリーヌ。
―よもやあやつがあの地に行くとは。せいぜい私をレゴブロック呼ばわりしたことをその身をもって後悔するがいいですわ。ぷぷぷっ♪―
―リーヌ……様?―
―き、気にしなくていいのです。さて、ではオルーツアに行きましょうか。ビビも行きますよ―
この地を知り尽くしているビビはリーヌの態度を見てこう思った。
―キノってもしかして死ぬんじゃね?―
オルはリーヌとは念話で会話をしていながら移動していました。
ビビはリーヌ達の念話を聞いていた設定です。




