3 それぞれのクエストへ
新たなクエストにいきます。
「それじゃエルシュさんまた来ますね。お邪魔しました。」
すっかり日が暮れ、民家からこぼれる灯りと青白い月の光が町を彩っている。
魔族の国か。
エーシャから聞いた話に当惑されながらも、自分には関係ないことだと無理に割り切ろうとする。だが考えないようにしようと思えば思うほど嫌な推測をしてしまう。
俺のスキルはすでに知れ渡っているんじゃないか。
俺はこの世界の人間ではない存在がばれたんじゃないか。
俺は魔族に拉致されどこかの秘密基地に連行の末、改造人間になるんじゃないか。
……嫌だ。特に三番目のは絶対嫌だ。
「どうしたの? エーシャとなに話してたの?」
心配そうに俺を覗きこむニーチェ。どうやら盗み聞きはしてないっぽいな。
「ん……ああ。ちょっとな。ニーチェはAランクになって当面はどうするんだ?」
「う~ん。あんまり考えてなかったけどニョロゾやネシャみたく積極的に各地の依頼に対応しようとは思ってないよ。どうしてもって依頼には応えるけどね。」
「とは言ってもAランクになった途端に高難度の依頼がくるからね……明日からニョロゾ達と三人でクエストしてくるんだ! ほらこれこれ!」
にこにこ顔のニーチェがクエスト依頼の羊皮紙を俺の前に広げる。
【キマイラの討伐依頼】
ミシラ地方の鉱石場に出没するキマイラ討伐(二頭)
〔報酬内容〕
50,000,000G
なんなんだこのとんでもない報酬のクエストは……
「10日くらいは戻らないつもりだよ。キノは参加できないから……留守番だね!」
「行かん行かん! キマイラってあれだろ? すっげ~強いやつだろ?」
「うん! 私もまだ見たことないんだけど、ネシャが相当手強いって言ってからね。」
ネシャ達は前々から化け物だとおもっていたがニーチェもその領域に入ったということか……
「……まあ気をつけて行って来いよ。俺は俺でやることがあるからな。」
「例の高難度のクエストに行くの?」
「そうだ。魔物の討伐じゃないから何とかなるとは思うんだがな……」
「じゃそこまで心配しなくていいみたいね! オルちゃんはしっかりキノを守ってあげてね!」
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というわけで俺は今グラーシュさんから依頼されたクエストのために、乗り合い馬車に揺られルーシキに向かっている。
もらった地図から推測すると、俺が特訓した森から更に20キロは北のようだ。山のような絵が描かれているから、とりあえずはその山を目指そうか。
―キノ。腹が減ったぞ。例のカラアゲを食わせろ―
ふてぶてしく座椅子の上で寝転がるオル。見たくれだけはかわいげがあるから乗り合いしている他の客も微笑ましく見ている。
―唐揚げは屋外じゃ無理だな。なんせ調理器具がないからな。そして他のお客さんらとお前は命懸けで奪い合いをするつもりか? ルーシキの宿場町まで我慢するんだ―
―むぅ。仕方ないな。……これは?……―
―どうした? 魔物か!?―
―……! いや何でもない。早くその宿場町まで行くのだ!―
―へいへい。夕方には着くからな。どこかで調理場を貸してくれるところがあればいいんだが―
―それは大丈夫だ。お前が心配する必要はないぞ。カラアゲを作ることだけを考えておればよいのだ!―
この猫は食い物のことしか考えていないな。しかも段々と舌が肥えてきてやがる。おとなしくしていればかわいげのある猫なんだがな。
―じゃ少し急いでもらうか。チップ握らせたらどうにかなるだろう―
従者に金貨三枚を握らせると途端にスピードアップする馬車。暴れ馬に引かれ予定時間よりも相当早く宿場町に着くことができた。
「お客様~ホンデの町に着きましたよ。お疲れ様でした。」
まだ昼を過ぎたくらいの時間だ。どんだけぶっ飛ばして馬車を走らせたんだろう。あまりの爆走に一緒に乗っていた老夫婦は今にもリバースしそうな顔色だな。ほんとすいません。
―こっちだ。着いてくるがいい―
いそいそと勝手に歩き出すオル。っていうかほぼ走ってる。
―お、おい! どうしたんだ?―
俺の言葉を気にもせず、路地を縫うように走り続ける。徐々に町の中心部から離れ、行き着いた先は一軒の小綺麗な二階建ての家であった。
―ぜえぜえ……オル……どうしたんだよ? なんか変だぞ?―
オルは返事もせずに扉の前に座り込んでいる。扉をノックするとおもむろに扉が開いた。そして一言
「来ましたか。早くカラアゲとやらを作りなさい。このヘタレ。」
またも再登場です。
一軒家をもっているようです。
話の都合上、今回は短いです。




