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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第6章 追う者と追われる者では追う側のほうが楽しい
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2 エルシュさんの家にて

今回はエルシュの語りが8割を占めています。

「へ? 俺が?」


 突然の言葉に固まってしまう。


「そうじゃ。すべてはキノくんが始まりじゃ。」


ニーチェも関心があるのか洗い物をする手を止めて椅子に座る。


「まずキノくんのランクアップに関してじゃが、例のレイザーサーモンの件が認められたのじゃよ。」


「国王が不審に感じておられたのは短期間にあれだけ捕獲が難しいレイザーサーモンをきっちりと納品した点じゃった。それもこれ以上ない状態でじゃ。そこで真相を知るべくこの町の冒険者らから密かに情報を集め、キノくんの捕獲を知ることとなった。」


「しかもこの町の住人でもない君の態度が余程国王の心に響いたのであろうな。我々が知らぬ知恵と技術を惜しげもなく提供し町のメンツを保たせ、自身のことをひけらかさない謙遜さ。港町ならともかく、内陸のキリサバルやオルーツアにおいて河川より魚を入手しやすくするあの技を高く評価されておったわ。」


「そして極めつけはテルヨ殿……ではなかったな。リーヌ様との戦い。騎士団団長と互角の力がランクアップを決定する根拠になったのじゃ。」


 う~む。ここまで誉められるとなんだか体がむず痒いな。


「そしてニーチェはな」


 くくっとエルシュさんが笑い出す。どうしたんだ?


「ようやくこの町のために動いたという点じゃ。」


「前から耳にしていたであろう? ニーチェはAランクに匹敵する実力があると。冒険者になってはじめの頃はランクのことばかり口にして力をつけ、少しずつアップしていったがある日から何の関心も示さんようになった。」


「それが冒険者になりたての君をタートルドラゴンの狩猟に連れていき、レイザーサーモンのクエストでは町の冒険者らを説得させ、君を鍛える手筈を整えた。」


 ニヤニヤしながらニーチェは話を聞いている。そういえばニーチェが誉められるの見たことないな。相当嬉しいんだろうな。


「エーシャは類稀な賢者としての強さじゃ。あやつ自らが考えた魔法の威力を視界から消す技術は王都の魔法に長けた者でも誰一人としてできぬものらしい。ネシャやニョロゾ、ニーチェと同格の力を有しておるとは感じていたが、この秀でた能力が評価されたのじゃ。」


 なるほどな。確かにあのときのどSっぷりはなかなか鬼畜だったよな。


「そしてネシャとニョロゾに関してじゃが、彼らの国に対する献身さが評価されたものじゃ。」


「困っている地に足を運び速やかに解決する。聖者のような働きもし、汚れ仕事も躊躇わず手にする、いわゆる便利屋稼業のプロフェッショナルがAランクが行う生き方じゃ。」


 そういえばあの二人はずっとオルーツアにいるわけじゃないな。いつも誰かの依頼で呼ばれてどこかに行ってるイメージしかない。


「その彼らが文句を言わずコツコツと依頼を完遂し、国に対して忠誠を示し続けている。Aランクにもなると私欲のために力を行使して欲にまみれた生き方をする輩がほとんどじゃがあやつらは違っておった。」


 そうなのか……あいつらはただの戦闘マシーンではなかったのか。だがな……あの強さは反則だよな……やっぱ化け物コンビだよな……


「そしてニーチェ、ニョロゾ、ネシャの三人のランクアップを決定的にしたのは君への教育の結果じゃ。」


「オークに襲いかかる君を騎士団団長と張り合うほどまでに短期間で鍛え上げた教える技術と、それによって得られた国同士の均衡はある意味国を救ったと同等の結果をもたらしたからのぅ。」


「あの守護竜との争いでもしもキノくんらが敗れていたならば、この国がどうなっていたか想像もつかん。なんせ向こうは国交がない軍事大国でもあり、実質的に地を支配しておる守護竜の後ろ楯がある国なのじゃよ。」


「つまりはもしも惨敗などという結果になっておれば、この国はミラーハに足を踏み入れられていたやもしれんということなのじゃ。力がすべてであると謳うミラーハのセティ国王の御前でのあの戦いは、このうえない結果だったと評価されたわ。それに守護竜の従魔と引き分けたオルの存在によって気安く攻め入られることもないだろうと判断されておった。」


「このようにすべてはキノくんを中心に物事が回り、すべての者がその恩恵にあずかったというわけじゃ。」


 ……話が込み入って頭のネジが三本ほど抜けそうだぞ。


「なんとなく分かったような分からないような……でもみんなが喜べる結果になったのならよかったですね!」


「なんかすごいね……国王はちゃんと私達のやってた事すべてを知ってくれてたんだ。その上でオルーツアの人間じゃないキノをきちんと評価してくれたんだね。」


「そうじゃ。じゃから国王の陰口は慎むのじゃ。ニーチェもすでにAランクの冒険者じゃから、己が発する言動が他の人に与える影響を十分に考慮するのじゃぞ。」

 

「うふふ。わかったよ! 話してくれてありがとう!」


「うむ。ニーチェがAランクになったのをハク達が知ったらどう反応するかのぅ。ある意味楽しみじゃぞ。」


「だね~! なにかお祝いくれるかな? 早く帰ってくればいいのにね!」


 穏やかな二人の会話を微笑ましく眺めているとさっきのニョロゾ並の勢いでエーシャが飛び込んできた。


「おいキノ! こいつはどうやって作るんだ!?」


 その手にはフォークに刺さった唐揚げがあった。



「いや~びっくりしたよ。こんなうまい肉料理があるなんてな。しかもこんなに簡単に作れるなら、俺でも作れそうじゃん!」


 せっかくわざわざここまで来たエーシャのために実際に唐揚げを作ってみせる。


「だろ。油がしつこく感じるなら……ほれ。これで食ってみな。」


 絞ったレモン果汁をつけてエーシャの口に突っ込む。


「酸っぺ! でもこれもいけるな。こんなに料理ができるなら店でも開けばいいんじゃないか?」


「人には向き不向きがあるんだよ。たまに作るならいいけど毎日作るのは俺には無理だな。ところで、こないだはレゴブロックに何の用で呼ばれたんだ? まさか王都に来いって話じゃないだろうな?」


 揚げたての唐揚げを酒で流し込みながら神妙な顔で語り始める。


「この事はここじゃあれだからキノの部屋で話そうか。これ部屋に持ち込みオッケー?」


「……ダメだ。唐揚げの匂いが部屋につくからな。」


「ちっ。んじゃちょっと待てよ。」


 舌打ちをしたエーシャは二個、三個と口に頬張り酒で一気に流し込む。


「よし。んじゃ部屋に行こうぜ。盗み聞きするなよニーチェ。」


 一瞬ビクッとしたニーチェであったが『ふふん♪』と鼻歌でごまかしている。こいつ間違いなく盗み聞きするな……よし。こうなったら仕方ないな。

 部屋に入るとおもむろにシステム手帳を開きペンを準備する。以前俺がエーシャにプレゼントしたものだ。

 そして口を閉じたままペンを走らせる。


〔実はなキノ。あのときの審判したアイオロス覚えているか? リーヌ様が言うにはあいつの国から諜報員をオルーツアとキリサバルに送り込んでいるらしいぞ。〕


〔マジで? 一体何のために?〕


 いきなりとんでもない情報をぶっこんでくるな。


〔あいつの国であるマクーノの国王の指示みたいだが、ある人物を探してるんだってよ。〕


 俺じゃないよな? 大丈夫だよな?


〔で、どうしてそんな情報をレゴブロックはエーシャに流したんだ?〕


〔あいつらに肉弾戦で対抗できるのはネシャやニョロゾクラスのやつらだけだ。だが魔法、魔術ならばそれなりに戦える。〕


 なんだと……あの殺戮マシーンとガチでやりあえるだと……あのときのアイオロスてやつはそんなに強そうには見えなかったが。


〔魔法使いが有利って。どうしてそう言えるんだ?〕




〔相手が魔族の国の連中だからさ。マクーノは魔族の国だ。〕



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