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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第5章 異世界って戦いばかりで結構疲れるのです
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閑話 ネシャとニョロゾ2

毛玉の回です。


 青白い月明かりが薄暗く照らす街道を一つの毛玉が疾走していた。

 夜行性の魔物が久しぶりの獲物を見つけたと言わんばかりに我先にと襲いかかるが、その狂牙は触れることすらできず毛玉を見失う。


「今夜は邪魔が少ないからスムーズに進むな。これなら明日の昼前には着くだろうから一眠りできるか。」


 自分を足止めするほどの魔物はいないと慢心していたせいか、はるか上空から毛玉を見下ろす巨体には気づいていない。

 不意に頭上から来る威圧感を感じ身を転じる。毛玉がかわさなければその巨体に潰されていたであろうか。

 月明かりに照らされて見えるそのシルエットはビビよりも小柄ではあるが、まぎれもなくドラゴンであった。


「おいおい……よりによって俺一人の時に出てくるのかい。ふむ。まだ若いな。」


 腰に提げている二振りの剣を手に取り、身を低く構える。休むことなく走り続けていたが息の乱れはない。


「ちょっと急いでるんで邪魔しないで欲しいなぁ。」


 まるで縮んだバネが弾けるように毛玉の体がドラゴンに飛びかかる。一瞬怯んだように見えたドラゴンだが、その口から毛玉めがけて炎のブレスを勢いよく吐き出す。


「遅いなぁ。そんなんじゃ俺は焼けないぞ。」


 すでに背後に廻っている毛玉の持つ剣が、ドラゴンの両翼を根元からさっくりと切断する。そして悲鳴をあげる前にその喉元に剣を突き立て一気に真横に切り裂く。ヒューヒューと力ない空気の流れが首に空いた穴から漏れている。


「ふぅ。ドラゴンの咆哮は耳をやられるからなぁ。手早くやるのが……一番っと。」


 いつの間にか両手にあった剣は腰に提げられ、代わりに握られている二メートルも近くある大剣によってドラゴンの首は綺麗にはねられ、おびただしい血を吹き出している。


「やれやれ。急いでる時に限って邪魔が入るんだからなぁ。もうこれ以上時間のロスはできんな。」


 いそいそとドラゴンを解体し、マジックバッグに詰め込んでいく。素材として廃棄する部分がほとんどないのでそのままマジックバッグに入れてもよいのだが、彼の性格がそれを許さないのだろう。


「さて。もうひとっ走りするか。」


 再び青白い月明かりの下、風を切り目的の地に疾走する毛玉であった。




~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~


「お~い! いるか~?」


 王都のとある家に響くニョロゾの声。


「いないな……画材道具はあるから外に描きに出てるわけじゃなさそうだし。ほんじゃ頼まれてた染料は置いとくか。」


 マジックバッグから取り出した二つの皮袋をテーブルに置きすぐに宿に行く。部屋に入るなり身に付けている装備品を外し埃にまみれた体を濡れたタオルで拭き、綺麗にたたんだ服をいくつか取り出す。


「今日の集会のコンセプトからすると……これだな!」


 まるで全身タイツのようなピンクの服に身を包み、頭にはコウモリのような被り物をセットする。


「素晴らしい。一眠りしてその時に備えよう。」 


 ニョロゾはその奇抜な姿のまましばしの間、惰眠をむさぼった。



~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~



「ようこそ~! ようこそ! いらっしゃい~!」


「足元の段差に気をつけてね! ようこそ!」


「いらっしゃ~い! どこから来たの? うっわ~そんな遠方から……しっかり楽しんで帰ってね!」


 そこかしこで歓迎の挨拶が交わされる。誰しもが友好的である。そして……集まる人々……いや、集まる毛玉の何と多いことか。

 王都の中央に位置する噴水広場に集まるのはすべてニョロゾと同じ獣毛族である。その数はゆうに100を越えている。そしてほぼすべての毛玉が奇抜な服装をしている。


「やあやあ! ニョロゾ久しぶり!」


「おぉ! ケロか。久しぶりだね!」


「だね! 買い付けでしばらく王都から離れていたから集会も半年振りくらいだよ。相変わらず暴れまくってるみたいじゃないかい?」


 ニョロゾの側に現れた毛玉。彼より少し吊目ではあるが、やはりケロもタイツのような衣装と動物の耳をあしらえた被り物をしている。


「暴れまくってるのはネシャのほうだよ。俺はサポートしてるだけだからなぁ。そっちはどうだい?」


 噴水の掘に腰を下ろし話を続けるニョロゾ。ケロもその隣に腰掛け久々の再会を楽しむ。


「遠出しただけあってなかなかの掘り出し物があったよ。一応サンプルとして少しだけ手に入れたけど、使い心地がよかったら定期的に仕入れてもいいかなって。」


「なるほどなぁ。俺は物の目利きはできんからよく分からんがケロなら大丈夫だろうな。集会後はどうするよ?」


「そうだな~。姐さん誘って飲みに行こうか?」


「いいね! けどな、昼過ぎに家に行ったんだが留守だったんだ。画材道具はあったから遠出はしてないはずだけどね。乳飲み子抱えてんのにどこ行ったんだが。」


「まぁ集会には来てると思うから探してみようぜ。おっ! ジェーム久しぶり! 今さぁニョロゾと話してて……」



 こうして獣毛族によって催されたこの日の集会は和やかな談笑の場となり、集まった毛玉達は仲間とのふれあいにより新たに英気を養うことができた。

 そして朝を迎えるとそれぞれのあるべき地へ戻って行ったのである。


 無論、遅くまで酒場にいたニョロゾも二日酔いなど微塵も見せずに慌ただしい朝の王都からオルーツアに向かうのであった。



すみません。


あと1話閑話を入れます。

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