閑話 ネシャとニョロゾ 1
化け物二人の話です。
「お――い! そっちに行ったぞネシャ! あとは任せた!」
「おっけ―! 任せられた!」
足元が揺れるほどの地響きと共にその巨体が命の灯火を消して無様に倒れる。
「まさかこんな河口付近にシーサペントが現れるなんてね。それにしてもなかなかの大物だね。」
「だな。こんなんがいたらそりゃ漁に出たくても出られんわな。」
ネシャにより頭と胴体を切り離された三頭のシーサペントを見上げる二人。
「んじゃ領主のとこに行こうか。これでお役御免だ。」
「だねだね! 打ち上げで例の店行って見ようよ! なにやら生の魚が食べられるらしいよ!」
「ほぅ。それは気になる情報だな。じゃその店で晩飯にしようか。」
人間の子供にも満たない体格の二人がトコトコと浜辺から引き上げる。
「あれがAランクの冒険者か……レベルが違いすぎる……」
「あんな戦い見たらどっちが化け物か分からんぞ……」
「はぁ……いいよな。Aランクの冒険者がいる町は。軍隊が常駐してるようなもんだろ。」
シーサペントとの戦いを見守っていた漁師達からは二人への称賛が惜しみなく注がれる。その事を知ってか知らずか二人は意気揚々と領主の館へと歩を進めた。
「さすがですな! この短期間にすべてのシーサペントを退治してくださるとは! 報酬はこちらに。」
口髭を蓄えた大柄な男がテーブルに三つの布袋を置く。中身を確認するまでもなくニョロゾはマジックバッグにしまって受け取りのサインを書面に記す。
「三頭もシーサペントがいたら漁師のみなさんが仕事なんてできませんからね。これからはしっかり漁に出て儲けてもらわないと。」
にっこりと微笑みを返すネシャ。この依頼でいくら稼いだかなどは関心がない。どんな町でも問題を解決して貢献するのがAランクの役割でもある。
「それにしても見事な戦いでありましたぞ! 私も遠目から拝見させてもらったが、シーサペントを苦もなく倒すとは……底が知れぬお二人ですぞ!」
「いやいや。俺らの力はあんなもんですよ。本当に底が見えないってのは俺らに使っちゃならん言葉ですからね。」
「お二人よりも優れた冒険者が? まさかそんな人はおらんでしょう?」
「世の中は広いですよ。直に領主さんも耳にすることになるでしょう。そいつの事をね。」
「なんと! あなた方が一目置くほどの手練れがいるのですか?」
驚きを隠せない領主に二人ははっきりと答えた。
「「のび盛りの活きのいいテイマーがいるんですよ!」」
「うおっ! マジで生の魚料理だ! どれどれ……くううっ! 酸っぱ!」
「うおぅ! この酸味はすごいね! でもやみつきになりそう……」
ジョッキを片手に次々と料理を口に運ぶ二人。魚の切り身に酢と果実の汁をかけたものだが、どうやら二人が満足する味のようだ。
「ところでキノくんは生き残れてるかな?」
「さてな。だけど死にはしないだろう。守護竜が欲してるのはキノくんだろ? 殺すことはないさ。」
「だといいけどね~。あれだけ将来が楽しみな人は久しぶりだからエルシュさんも手放したくないだろうし。」
「まぁ依頼も片付いたしオルーツアに様子見がてら戻ってみるか。っとその前に王都に行かないとな。」
「もしや……集会?」
「うむ。明日の夕方開始だから、飯終わったら俺はすぐに町を出るからな。」
「わかった! じゃ私は相棒の手入れが終わったらオルーツアに戻っとくからね!」
「おう。キノくんが無事なのを願っておこうぜ!」
それからしばらくの時間、二人は海の幸と酒を楽しみオルーツアでの再会を約束し別れた。
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「おっちゃ~ん! 遅い時間にごめんよ! 相棒の手入れよろしく!」
「おぅネシャか。これまた派手に欠けておるな。一体何と戦っとるのじゃ?」
ランタンの灯りが揺れる町外れの鍛治場にネシャはいた。
「それがさ~このコザーキの領主に呼ばれてシーサペントを三頭ほどと……あとルーシキの森に1ヶ月ほど籠ってたんだ!」
「……まったく常識とかけ離れた冒険者だな。柄の部分もだいぶ傷みが進んでいるな。そろそろ買い換えたほうがいいぞ。」
欠けた刃先を指でなぞりながらネシャの倍はあろうかと思われるドワーフが柄の部分から斧の刃を取り外し修復にとりかかる。
「まだまだ使えるよ! 物は大事にするようにってのがお父さんの遺言だからね!」
「はっはっはっ! そうだったな。だが一応予備の斧は準備しとけよ。いざとなった時に窮地を招くのは準備不足だからな。明日の夕方には直るだろうからそれまで時間潰しでもしときな!」
「わかった~! じゃ頼んだよ! お代は置いとくからね!」
ネシャは作業台に金貨の入った布袋を置き鍛治場を後にする。通い慣れた場所だがなぜが心が安らぐ。すでにこの世にはいない父の面影を鍛治場の主人に重ねているのだろうか。
「これで一応は片付いたししばらくはのんびりできるかな。にしてもエーシャはいいな~。キノくんらと遊べるのか。私も依頼さえなかったら仲間に入れてもらってたはずなんだけどな~。」
青白い月明かりが照らす道をテクテクと歩きながら呟く。自身の身の丈にあった生き方を冒険者として選んだネシャだが、いずれはどこかに落ち着きたい。こうして一人の時間ができるとふと感じざるを得ないのであった。
長いので二回にします。




