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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第5章 異世界って戦いばかりで結構疲れるのです
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13 噂話が正確に広まるほど恥ずかしいものはない

観光?です。



 次の日の朝、三人は荷物をまとめ早々に王都を後にした。ニーチェがまだまだ観光案内をしたそうだったがエルシュさんに引きずられるように仕方なく帰っていった。

 俺はあと二日は留まることにしてオルと町に繰り出す。


―とりあえず朝飯代わりに何か食うか?―


―うむ。この地にしかないようなものがあれば是非食べてみたいぞ。今日の気分は魚だな!―


―よし。じゃまずは飯だ! 昨日観光したところは食べ物屋がなかったから違う方面に行くぞ―


 こうしてオルと二人きりでうろつくのは久しぶりだな。今回は色々と活躍してくれたから奮発してやらねば。


―そういえば、うまい鳥の食い物を用意してくれる約束であったな。今すぐは食えないのか?―


―今すぐは……無理だな。エルシュさんの家に帰ったら作ってやるぞ。もしここで作ったら腹空かせたやつらが殺到して観光どころじゃなくなるからな。―


―なんと! そんな食い物なのか! あのビビが貪るように食っていた魚よりうまいのか?―


―おう。お前みたいな食いしん坊大将にはたまらん食い物だ。おっ! あの店にするか―


 目についた店の入口には魚を木彫りした看板がぶら下がっている。店内に入るとなかなかの繁盛している様子が伺える。


 メニューを見るがほとんどがスープで煮込んだ料理みたいだ。焼き魚も一応はあるな。

 店員さんにホワイトクリームと白身魚の煮付けと鯛に似た魚の塩焼きを注文する。程なくして料理が運ばれてきた。


―まだいろんな店に行くから追加はするなよ。他の料理が食えなくなるからな―


―大丈夫だ。おかわりは一回だけにしておくぞ。ふむ。この白い汁の魚はなかなか……おかわりだ―


―はえぇよ! 俺なんかまだ一口も食ってねえぞ!―


―さっさと食わんと冷めてしまうぞ。この焼いた魚も味が濃くてうまいな。これもおかわりだ―


 ……料理がきてまだ五分も経ってないぞ。どんだけ食欲があるんだよ。


「くすっ………いい食べっぷりだね。うちの子も見倣ってほしいよ。」


 声の主に目を移すとそこにはニョロゾと同じ毛玉がいた。体毛は若草色だ。声の質からして女子に違いない。しかも小さい毛玉が一つ横に並んで慣れないフォークを使い料理と格闘している。


「いや~こいつなかなかの食いしん坊で、食うのが生き甲斐みたいなやつなんですよ。そちらは……お子さん? ですよね?」


「そうですよ。実はここにもう一人……」


 そう話す彼女の頭のワサワサした中から更に小さい毛玉がピョコンと顔を出して『う~あ~』と声をあげている。


「この子はまだ乳飲み子だから魚はまだ食べられないんでね。かわいいでしょ?」


 これは……見た目がまさに毬藻だ。この小さな毬藻が将来言葉を喋る毛玉になるのか……


「えぇ……かわいいですね。どこが目でどこが口なのかよくわかりませんが……」


「あらっ! ここが目で~ここが口ですよ~! 私に似て美人になるに違いないわよ。」


 この種族の美人の基準がまったくわからないからなんとも言えない。とにかく親バカなのは確かだが。


「ところでお兄さんは王都の人間じゃないね。どこから来たんだい?」


 骨がうまく取れない子供を見かねて、上手に取り分けて食べさせながら毛玉のお母さんが話しかけてくる。


「野暮用でオルーツアから来たんですよ。王都ってすごい賑やかですね。オルーツアとは比べものにならないですよ。」


「まぁまぁオルーツアから。あそこへは私の親族がよく出入りしてるのよ。私も何度か商いで行ってるから知らない町じゃないわ。」


 ほぅ。子連れなのにわざわざオルーツアまで商売をね。ってことはこのお母さんも鬼のように強いのか?


「そうなんですね。じゃオルーツアに来たら是非声をかけてください! 俺の名前は……」


「あなたの名前はキノでしょ? ここじゃ有名人よ。」


 え……まさか……


「テルヨ様じゃなかった、リーヌ様が小さい子猫を連れたヘタレテイマーと痛み分けの試合をしたって城下町で噂になってるからね。あなたのことでしょ?」


 腐れエルフめ! どんだけ情報操作がうまいんだ?


「……いいえとは言いません。ちなみにどれくらいその噂は広まってるんですか?」


 平然とした顔で俺の問いにやんわりと答える毛玉お母さん。


「もうこの町に知らない人を探すほうが難しいくらいじゃないかな? ヘタレでもあのリーヌ様と同等の強さだなんてね。見かけによらず大したもんだよ。」


「それは誉められてるのかけなされてるのか……ちなみに普段やつはどこにいるんですか?」


「いつもは城内で暮らしているはずだけど、騎士団を離職したからこの町のどこかにいるとは思うわよ。あら? 急に立ち上がってどうしたの?」


「観光よりやつに拳骨をくらわすって大事な用事ができましたので。また会いましょう。毛玉お母さん。」


「ふふふっ。やっぱり噂通りの血気盛んな人だね。私の名前はティルク。また会いましょうね!」


―どうした? まだ食べかけではないか。食い物を粗末にするでないぞ―


―お前の飼い主はろくなやつじゃないな。これからやつを折檻しに行くぞ―


―言ってる意味がよく分からんがリーヌ様に会いに行くのか?―


―そうだ。レゴブロック教を立ち上げる前に一発食らわさんと気が済まないんでな―


 食べかけの料理を残し頭の中で何かが切れた俺は『レゴブロックどこだぁ!?』『出てこいレゴブロック!』と叫びながら町を徘徊した。

 だが、もちろん姿を見せるわけもなく結局無駄な1日を過ごすこととなり、町の守衛には五度ほど取り囲まれて事情を根掘り葉掘り聞かれた。

 その都度守衛に大笑い&下手に尊敬されるを繰り返す。恥の上塗りもいいとこだ。


「くそっ! あのやろうどこに行きやがったんだ!」


 宿に帰りベッドに体を投げ出してブツブツと呟く。


―リーヌ様ならもうこの地にはおらぬぞ―


 はい? 王都にはいないだと……


―なので探しても無駄だ。それよりも何か食わせろ。いい加減腹が減ったぞ―


 おうっ! あまりに頭に血がのぼってあれからオルに食わせるの忘れてた。


―すまん! 思いっきり忘れてた! ここじゃあれだから露店に行くぞ! 好きなだけ食っていいからな!―


―おおお! そうこなくては! よし早く行くぞ!―


 すまんなオルよ。俺がイライラしたばかりに飯を忘れるとは……気の済むまで食っていいからな!




「らっしゃい! おっ……その子猫……そのもやし的な体格……お前さん噂のキノだな! 武勇伝は聞いたぜ! 何本いるかい? こんな有名人にあったんじゃ仕方ねえな。三本おまけしてやるからな!」

 


 ……なぜ露店のおっちゃんまで俺の名前を知ってるんだ……



「あんの腐れレゴブロックめええぇ!!!」



 俺の無情な叫びが王都の城下町に響き渡った。



王都でキノの名前を知らない者はいないようです。

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