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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第5章 異世界って戦いばかりで結構疲れるのです
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10 王都の仕立屋さん

三回目の登場でようやく名前が明かされます。

「ふ―ふ―……そこのお姉ちゃん水ちょうだい。」


 宿屋の受付にぶしつけに催促し、一気に飲み干す。


「ちょっと! あんたの言った通りに大通り探したけど、ヘタレ王子なんていないってみんな言ってたんだけど! どこにいるのよ!」


 う~む。どんな用事なのか知らんが、これほどまでに探してるということは結構大事な内容なのか? だがレゴブロックが関わってるんだよな……


「なぁエルフさん。そのヘタレ王子に大事な用事でもあるのかい?」


 エーシャが間に入って話を聞いてくれる。どうやらエーシャも俺が降参上手のヘタレだと認識しているみたいだな……


「むっ! どうやら君はこの男とは違って話が分かるみたいだな。実はそいつ指名でクエストの依頼があるんだ!」


 ほほぅ……わざわざ俺個人に指名か。だが簡単にはひっかからんぞ。オルーツアでなら指名されてもおかしくないが、ここは初めて足を踏み入れた王都だ。無名な俺になぜ指名なんぞ……


「なるほど。そいつは奇遇だ。お前さんが探しているヘタレ王子かは知らんが、さっき俺達の前で潔い降参を見せてくれた男ならこいつだぞ。」


 エーシャのやつ………唐突にばらしやがったじゃねぇか!

 エルシュさんとニーチェは顔をそむけ肩を震わせて笑ってやがる。あのときの俺ってよっぽどカッコ悪かったのか……


「むき―! やっぱりあんたが降参上手のヘタレだったんだ! 無駄に体力使わせてなんて男だい!」


 おおぅ……この荒くれ具合は似てるぞ。そしてあいつより荒々しいな。


―オル! このエルフはレゴブロックの身内か? どうにもあいつに似てる気がするぞ!―


―さて……どうだろうな。リーヌ様が今の姿になっている時、ワシですらリーヌ様だと気づかなかったからな―


 ……だったな。オルに聞くだけ無駄だった。


「ええっとな。俺はキノって名前なんだが、本当にお前さんが探してるのは俺か?そのヘタレってやつの名前は?」


「名前までは聞かなかったぞ! 黒髪のもやしみたいな猫連れた男を探せって言われたんだけど……今頃宿を探しているはずだから、すぐに見つかるだろうって」


 うん。間違いなく俺のことだな。さすがにもうこの場の空気を読まないとな。


 「…………お前さんの探してるのは俺に間違いないぞ。で、クエスト依頼だったよな? 大したクエストじゃなければとっとと失せろ。これからレゴブロックにげんこつを食らわしに行くんでな。」


「お―こわこわ! テルっちの言う通りの男だね! そのクエストってさ、あたしからの依頼だよ―! ど―する? ね―ど―するよ!? もうやるしかないよ―!」


 俺を見つけて安心したのかいきなり豹変したぞ? 


「おいニーチェ。王都にはこんなちんちくりんなやつが徘徊しているのか? 自分の名を名乗らないで初見でこんな態度取るやつは生まれて初めてだ。」


「えっとね、エルフは人間と違って長寿だからみんなこんな感じだよ。人間のことを短命で知恵がないって少し見下してるんだろうと思うけど……けど……この人どっかで見たような……」


 首を傾げてう~んう~んと唸るニーチェ。別に思い出さなくていいんだそ。簡単なことだ。聞けばいいんじゃないか。


「なぁ人にものを頼む時はまず自分を名乗るのが礼儀だろうが。お父さんお母さんに教えてもらわなかったのか?」


 ふん。エルフだろうがなんだろうが社会のモラルすら守れんやつは親に代わって俺がしつけてやる。


「あ―ははは! ごめんね―! 私の名前はサチだよ―! 仕立屋サチの店長なんだ♪」


「仕立屋!? 服屋のことか。そういやお前の服はみんなが着てる服より色使いもデザインも全然華やかだな。そうだ! エーシャに似合う服をプレゼントするよ! お前のおかげで俺は助かったんだからな。男前に磨きがかかるぞ~! おいサラって言ったな? クエストの話はその後でいいか?」


「お―全然いいよ―! そんなに急ぎでもないしね。ちなみにサラじゃない。サチだからね! じゃお店に行こうよ― ほら! みんな立たないとお店に行けないぞ―!」


 ん? 立つ?


 不思議に思い、振り返るとみんな膝をついている。あのエルシュさんでさえもだ。


「あの~。みんな何やってんの?」


「「「お前こそ何やってんだ! サチ様だぞ!」」」


 え……様をつけるようなお方なの!? 


「あ―あ―! 君らに言っとくけど敬語なし! 他人行儀なし! 食事は割勘! おっけ―?」


 本人は至ってごく普通のファンキッシュなエルフっぽいが……

 




 このサチってエルフはエルフの国のお偉いさんの娘で社会勉強という名目でキリサバルに住み着いて商売をしているらしい。

 そして一般人でありながら、唯一王室に自由に出入りできる人物なのでほぼ王族扱いになってるとのことだ。


 この国にエルフが定住するのは彼女が初めてだったので、話が決まったときには国中に伝令の馬が走り回ったほどらしい。

 まぁ、この地に来た初エルフならアイドルみたいなもんだろうからちやほやされるのも分かる気がする。

 その後テルヨやほかのエルフも彼女に追随して定住するようになったということだ。


 エルシュさん以外の面々はサチの後についていく。やがて町の中でも一際目につく建物が目の前に現れた。見た目からして異質なのだ。一言で言うならば『派手』。仕立屋っていうよりデザイナーズハウスって感じだ。


「はいはい―! どうぞ入ってよ!」


 急かされるように店内に通され奥の事務所? みたいな部屋に案内される。


「ところでさ、テルっちのことだよね? レゴブロックってやつ。あんなイカした呼び名を考えるなんて!」


 お茶を準備しながら聞いてくる。


「そうそう! 私も不思議に思ってたんだよ! レゴブロックってカッコいい呼び名なのにテルヨ様はあんまり嬉しそうには見えないんだよね!」


「俺もそれ思ってた! レゴブロックって響き……歴戦の戦士って感じがしてもっと広まればいいのに!」


 みんなどんな感性を持っているのか……いい機会だ。やつのあだ名を広めるためにもこいつらには事実を知ってもらわねばなるまい。


「うむ。今後のこともあるから君らには知っておいてもらう必要があるな。このレゴブロックという名がやつに降臨した経緯をな。」


 三人とも無言になり軽く頷く。唾を飲み込む音さえ聞こえるほどの静寂の中、俺は事務所っぽいところから店内に三人を導く。

 そしてきらびやかなドレスを纏った女マネキンを指差しこう告げた。


「すばらしき女体。」


 三人の真剣な眼差しは変わらない。むしろ『次の言葉は何だ? もったいぶるんじゃねえ!』と言わんばかりの鋭い視線だ。


 期待を高めた俺はカバンから粘土を取り出し、細長い長方形の塊を四つ、そしてそれよりも三倍ほど太めの長方形の塊を一つ、そして最後に丸い塊を作った。


 三人が注目するなか、俺はおもむろにその粘土を積み重ねる。出来上がったのは人の形をした粘土の塊だ。


「ちっさいゴーレム?」


 サチが呟く。俺は軽く鼻で笑い彼女の導いた答えを否定し塊を指差し三人に告げた。


「レゴブロック。」


しばしの沈黙の後にサチがブフォッと吹き出し、続けてニーチェとエーシャもケラケラと笑い出す。


「ぶわっはっはっ! これか! これがレゴブロックか! 確かにテルっちの体型だな……意味が分かって納得したよ! ぴゃ―お腹痛い!」


「ひっひっ……いや~これはきつい! 確かにテルヨ様は……いやいや! これは口に出せない!」


「ふふふっ♪ よし……私はレゴブロックじゃないぞ!」



「三人に理解してもらえて何よりだ。ぜひ世間に広めてくれ。ではこれでどうだ!」


 そう言って丸いだけの粘土の塊に表情をつけ髪をつける。


「テルヨ。」


 それを見たサチはひーひーと笑いながら床で転がり回っている。うむ。こいつはいいエルフだな。俺の美的センスが分かるやつに悪いやつはいないはずだ。


 と突然、その転がり回るサチの頭をつかみあげる細い腕。サチは『うがー』と叫びバタバタと宙で暴れるが逃れられない。そしてその細腕の持ち主はいつもと変わらない静かな口調で語る。


「いつまで経っても連絡がないからこちらに来てみればいるじゃないですか? ところで……何をしてるのですか?」


 状況を把握しているであろう鬼が目の前にいた。



















エルフが二人になりました。

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