6 主と従魔
そろそろクライマックスです。
「これが守護竜か……」
その場にいるすべての者が固唾を飲んでその巨体を見つめる。結界の中にいてもその獣気が電気のようにピリピリと伝わってくるのが感じられる。
「サガラ川で見たときとは様子が違うな。どうみても怒ってるぞ。」
エーシャが念のために結界の内側に自身が唱える障壁を張り巡らし更なる防護を固める。ほんの気休め程度ではあるがやらないよりはましだと考えたのだろう。
―オルいけるか? いくらお前でもやばいんじゃないか?―
どうにも状況が悪いと感じてキノはオルに聞くが当の本人は呑気なものだ。
―さて。ワシの心配よりもこの箱の心配をするのが先決だと思うのだがな。結界自体をこの箱全体に広げたが、戦いに集中しすぎて結界が疎かになるといつ崩れても知らぬからな―
―分かった! すべてはお前にまかせるからな。ここが崩れそうになったら逃げるから俺達のことは気にするな―
―ふん。お前らなら潰れて死ぬことはあるまい。では続きを楽しもうかの―
続きを楽しむだと……肝が座り過ぎてるんじゃないか? 相手はあのドラゴンだぞ!
ドラゴンへと姿を戻したビビは人間の姿の時と変わらぬ素早さで爪を振るいオルを踏み潰そうとする。その巨体ゆえに破壊力も格段に違うが、素早さに関してはオルが勝っているようだ。
隙を見てオルも爪を振るうがビビ自体に障壁があるようでその体に触れることすらできない。
―やはり所詮は獣よ。私に触れることすら叶わぬとは。いつまでも逃げてばかりでは勝負は見えたようなものですわ―
ビビは深く息を吸い込みブレスを放つ。かまいたちのような突風と氷の結晶が混じった白い気体がオルに襲いかかる。ビビの手足に集中していたオルは反応が遅れ、ブレスを避け切れず後ろ足にもろにくらってしまった。
「オルちゃん!」
ニーチェの悲鳴が響く。凍結した後ろ足が地面に凍りつき身動きが取れなくなっているのだ。
―オル! 無理するな! そのままじゃマジで食われちまうぞ!―
―気にするな。この程度なんのことはないぞ。―
オルは凍結した自分の足を地面から引き剥がす。だが、肉球の皮が地面から剥がれ血が足元に滲み出る。
「オルちゃん……」
その様子を見ていたニーチェは目を背け肩を震わせている。エーシャは歯を食いしばり何も言わず戦況を見つめる。
―オル!そんな痛い思いをしてんだから絶対勝てよ! これが終わったらうまいもん食わせてやるからな!―
―ほう。では肉を食わせるのだぞ! いい加減、毎日猪ばかり食って飽きておるから他の肉を食わせるのだぞ!―
―まかせろ! だから……勝て!―
―ふっ。主にここまで命じられるならば意地でも勝たねばなるまいな―
そう呟いてオルはビビに飛びかかっていった。
その後の戦いを見守る四人は言葉が出なかった。
後ろ足の皮が剥がれ踏ん張りが効かないオルは再三のチャンスを逃し、いまだにビビに触れることすらできずにいる。
振りかざす爪は宙を切り、その都度よろめき今にも倒れそうだ。
対するビビは動きの鈍くなったオルを容赦なくなぎ払い踏みつけて体力を削り、オルの白い体を赤く染め始めている。誰が見てもどちらが勝者か明白である。
だがオルはどんなに傷ついても倒れても立ち上がる。後ろ足は骨が折れたのか引きずりながらもビビの前に立つ。
「オルちゃん……もういいよ……」
声を震わせるニーチェの頬に涙が伝う。
いつもの愛らしい姿ではない。土と血にまみれた毛の塊が目の前でやっとの状態で立っている。
―獣の分際でなかなかしぶといですね。食らってやろうかと思っていましたがその姿ではとても口にしたくはありませんから、お前の汚らわしい手足を引きちぎり、そろそろ戦いを終わらせてあげましょうか―
ビビがオルをつまみあげ前足に手をかける。荒い息を吐きながらも光を失わない眼光でビビを睨みオルは口を開く。
―ふぅ……ワシはいかなる時でも主の命じる言葉には一切の妥協もせずに成し遂げる―
―何を今さら。もうお前はこれから手足をもがれ、芋虫のように這いつくばって生きるしかない未来だけなのだぞ―
―寝ぼけるな。ふぅ……芋虫になろうともこの牙さえあれば貴様の喉元に噛みつけるわ―
―寝ぼけているのかお前ではないか! 私に傷一つすらつけられぬ獣風情が! もうよい。お前はこのまま芋虫になれ―
ビビがその腕に力をこめようとした瞬間
「少しお待ちください。」
国王の座から声が響いた。
「審判員アイオロス。ビビは人間の姿から元の飛竜の姿に戻りましたが、ルール上問題はありませんか?」
「うむ。まったく何の問題もないですぞ。どうしたのですか?」
「では……あの従魔も元の姿に戻るとしても何の問題もないもと思うのですが?」
「それはもちろんですが……」
「わかりました。では、もう一人の主として命じます。オルツよ。あなたを覆う枷を取り払います。あるべき姿に戻るのです。」
もう一人の主だと……
アイオロスと話をしているのは騎士団団長のテルヨだ。あいつがオルの主だと?ってか、今オルツって……言ったよな?
―おおっ……久しいですな。まさかそのようなお姿になられておられるとは。あなたからのこの枷を取り払う許し。ありがたくその命に従いますぞ―
―オル……もう一人の主って……まさか……まさか!―
―ふぅ……ワシもまったく気がつかなかったわ。あのようなエルフの姿になられておられるとは。それにあの方はもう一人の主ではないぞ。あの方は……真の主であるリーヌ様だ―
「嘘だろ!? あのエルフが……騎士団団長がレゴブロックだと!?」
シュッ!
俺の頬を石つぶてがかすめる。
「あらあら外れてしまいましたか。しかしながらまったくもってだらしない主ですね。あなたが私に勝っていればオルツはあのような痛みを受けることはなかったのに。所詮は人間ちゃん。いいえ、人間ごときですかね。ぷぷぷっ♪」
……あいつマジで俺を狙ったな。そしてあの口調……間違いない。
「てめぇ! なんでここにいるんだよ! そしてエルフになってもレゴブロックかい!」
無数の石つぶてが飛んでくる。必死にかわすが、石つぶては壁にめり込んで俺に対する殺意が思いっきりこめられてるのがわかる。
「……理由は追々説明するとします。さあそのしょぼくれた目で見るがいいですわ! オルツの本当の姿を!」
レゴブロックに促されてはっと振り返ると、いつの間にかあれだけの傷も汚れもなくなっているオルがいる。その姿は……
「おい……あの姿って以前見たぞ。シューラさんとこで……」
さっきの倍の石つぶてが降ってきた。しかも握りこぶしくらいのものも混じっているではないか。この殺意はロックリザードの比ではないぞ!
揚げ足を取られた形のレゴブロックは『ちょっとカッコつけたセリフが言いたかっただけだ』とか『ムキー』とか訳のわからないことをマシンガンのように捲し立てている。相変わらず残念な方だな。
だが、これ以上ない助けでもある。
あのレゴブロックがいるんだぞ。
絶対に負けられないからな! オル!
みなさんお待たせの方です。
この方をこの形で再登場させるのが当初の目的でした。
そして決着つきませんでした。明日こそ決着させます。




