4 勝負の行方
決着します。
「おらああぁぁ!」
迫り来る鬼と化したテルヨの顔面に俺の手にあるブツを叩きつける。
「これで……どうだぁ!」
「もがっ……ががっ!! があっ!」
顔に張りついた物が何かが分からず、両手をバタバタとさせて苦しむテルヨ。息を吸うことも吐くこともできない。おまけに顔全体に覆われているので視界すら塞がれている状態だ。
「ふぅ……これで勝負あったな。あとは……どうやって決着をつけるか……」
魔物ならば斬りかかればその時点で俺の勝ちは明白だが、なんせ相手は見た目はほぼ人間の女子エルフだ。できれば血を流すような真似はしたくない。
下手に武器で攻撃するよりは微動だに動けなくさせるか? どうやって降参まで持ち込むか?くっそ~この戦いには場外は負けとかってルールはないのかよ!
どうする……? ここから先のことは考えてなかったぞ! 衣服を無理やり脱がして戦闘不能にさせるか!?
いや! それはやっちゃいけない。そんな大胆な作戦を遂行したら、俺が変態として未来永劫語り継がれるのが確定してしまうぞ。それにあの貧相な体を公衆の面前にさらすのはさすがに可哀想だ。
本意ではないが、ここはやはり剣を突きつけ『降参しろ』と迫るのがベストか。くうっ! こんな場面でいかにもって決め台詞を言えるとは! 実は俺って強いのか!?
「キノ! 何突っ立ってんのよ! 早く勝負を決めないと……ああっ……」
ニーチェの叫びが響き渡る。よし!ここは勝者らしく勝名乗りをしなけりゃならんな!
「テルヨよ!お前の敗けだ!潔く降参し……」
剣を抜きテルヨに構えようとするが、すでに顔面に張りついた物を取り、俺の構える剣をわしづかみにしている鬼がそこにいた。
「私の顔に何をつけたのですか?このネバネバしたもの……」
「あはは……もう取っちゃいましたか……それって人畜無害なんで気にしないでいいですよ……」
「ほぅ。人畜無害ですか。ですが私は非常に気分を害しました。こちらに来て初めてですよ。ここまで人を殺めたいと心から沸き上がる感情を押さえているのはね。ぷぷぷっ。」
あかん。これはあかんよ。彼女の握りしめた拳がどんな剣よりも血に飢えているのが分かる。
これは今まで繰り出してきたパンチより更に気持ちがこもっていると見た。どうやら彼女の気持ちは俺の血でしか贖えないようだ。
あのワンパンで俺の頭は吹き飛ぶ未来しか見えない。こうなったら……
「はいっ!参りましたぁ!」
「……そこまで。テルヨ殿の勝利です……。」
俺は両手をあげ素直に降参した。
「……まったく……。勝てた戦いをみすみす捨てるなんて。」
「あと一歩というか……なんと言うか……」
「まあ生きて戻っただけでもよしとしようではないか!」
―おまえらしいと言えばそれだけなんだが……あそこで降参か?―
みんなのやるせない視線が痛い。やはりここは経験の差が出たか。こういった戦いに慣れている者ならば迅速に降参を迫るやり方を熟知していたはずだが、俺はまだまだ初心者なんだぞ。あのエルフを前に生きてるだけでも奇跡なんだからな。
「いや~生きてるって素晴らしいね! さすがに最後は死を覚悟したぞ!」
エーシャに傷の手当てをしてもらい一息つく。後にも先にもこんな戦いは金輪際ごめんだ。壁にもたれるとニーチェが問いかけてきた。
「ところで、あの騎士団団長の動きを止めたのって何?」
「あれはな、とりもちだ。」
「とりもち?」
「そうだ。あいつが疲れて息が切れるまで温存しておいた秘密兵器だ。ほらこれだ。」
鞄からとりもちが入った袋を取り出す。実は先日ネットショッピングで購入したものだ。この戦いで役に立つだろうと大量購入していたのがよかった。
初めて見るのかエーシャとニーチェが指で触って騒いでいる。地球では大昔から西洋でも作られてたが、どうやらこの世界にはないものみたいだな。
「さっきみたいにずっと戦って呼吸するのも辛いくらいのときにこんなものを顔に塗りたくられたら……」
「うん……これは息できなくなるな。恐ろしすぎる……」
「だろ? 体は鍛えられても息なんて鍛えようがないからな。しかし惜しかった! 詰めが甘かったな。」
「キノが負けてあれだけど、あとはすべてオルちゃんにかかってるわね! 大丈夫! きっとオルちゃんなら勝てるよ!」
―さてさて。どうなるか分からぬがやるしかなさそうだな。お前らはできるだけ離れておれ。巻き込まれてもしらんぞ―
「うおっ! これがオルちゃんの念話か! ダイレクトに頭に響いてくるな……」
「きゃー! 久しぶりにオルちゃんの声聞いたわ! 頑張ってね!」
初めて念話を聞くエーシャは少し戸惑っているがニーチェはいつも通り体をくねくねしている。う~む。あのくねらせ具合はある意味変態の域に達しているぞ。
「お前らはオルと念話ができるのか!? ワシには何も聞こえなかったが……」
―オルよ。エルシュさんが念話できなくて残念がってるぞ。いいのか?―
―ふん。気にするな。気まぐれなんだとでも適当に言っておけ。それから一応お前らに結界を張るがあまりあてにするな―
―わかった。じゃ主としてお前に命じるぞ。石にかじりついてでも勝て!―
―やれやれ……降参なんぞした輩がよく言うな。まぁなるようになるぞ―
そう言い残すとオルは闘技場の中央に静かに歩きだした。
「あなたのおかげで私にまで楽しみがまわってきましたわ。久しぶりに力を解放して戦えるなんてこんな喜ばしいことはございませんわよ!」
無機質なその眼差しに血が通ったかのようにビビは歓喜している。
ドラゴンとしてその力を表すのはいつ以来だろうか。
そうだ。己が欲する物のために力を振るうのはあの時以来だ。あれは人間が用いていた魔術具なる道具を手に入れるために町を襲った時が最後だった。
その時は手に入れられなかったが今目の前に不思議な業を用いる人間がいる。もう手に入れたも同然!
「ビビ様。どうぞご武運を。ところで……私の役目はこれで終わりでしょうか?」
とりもちまみれのテルヨが顔を伏せビビに伺いを立てる。
「ええ。あなたにとって暇潰しくらいにはなったでしょう? その顔の汚れを落としてくるとよいでしょう。あとはあの獣魔さえ片付けれはすべては終わりますからね。」
「……わかりました。このような場を与えてくださり感謝致します。ですがこの戦いを最後まで目に焼き付けたく存じます。」
「ふふっ。よいですよ。この守護竜の力滅多なことでは見れませぬからね。そこに転がっている役立たずを連れて国王どものところに行くがよいぞ。あそこには私が結界を張っていますからね。」
「ありがたき幸せ。では失礼します……」
ぼろぼろになったを担ぎ上げ舞台から引き上げるテルヨ。
―さて……。どうなるか……―
その視線にはちっちゃい猫とキノの姿が映っていた。
いよいよ大将戦です。




