3 二人からのプレゼント
猪が頻繁に出てくるのは先日、実家から猪肉をもらったからです。
―とりあえず日が落ちる前に町に戻るぞ! 理由は帰りながら聞くからお前は周りに魔物が寄り付かないようにしてくれ―
俺はすぐに猪をカバンに入れ始める。オルのやつどんだけ食べたいんだ……軽く20頭くらいはいるぞ。解体するのは町に帰って明日にでもするか。
そしてこのイケメン半魚人。白目むいて気を失ってるようだ。白目でもイケメンとは……さて、どうやって彼を町まで運ぶかだ。オルはもちろん俺ですら彼を町まで背負っては帰れない。
しょうがない。突然の出費だがこのまま放置するわけにはいかんからな。おもむろにタブレットを取り出すとポチポチとショッピングを済ませる。
『ご利用ありがとうございました』
の定型あいさつと共にばかでかい箱が現れる。
購入したのはアルミ製のリヤカーだ。オルーツアにも似たような木製の荷車があったから問題ないだろう。やっとの思いで彼を荷台に載せ森から出る。まだ日は完全には落ちてないがかなり暗くなってきている。
―ダッシュで戻るぞ!―
オルを急かして密集した木々の間を抜けていく。ガンガンと後ろから聞こえてくる音には耳を塞いだ。たぶんグラーシュの体がリヤカーの中で転がっているのだろう。
森を抜け街道に出るとひと安心だ。あとは町に戻るだけ。距離もそう遠くないから一時間もあれば帰れるだろう。
少し足早に帰りながらオルに聞く。
―おい。何があったんだ? あの量の猪は大体想像がつくんだが― って……ちゃっかりオルは荷台に乗っている。
―うむ。森に入り猪を探していたらちょうど群れを見つけてな。一、ニ頭ごとお前ののところに誘導するのは面倒だからまとめてワシが仕留めたのだ―
―なるほど。じゃ、このイケメンはどうしたんだ? 猪と同じようにお前がやったのか?―
―そいつは猪の群れから少し外れたところで気を失っていたのだ。こないだお前はこいつに会っただろう?ほっておくと魔物に食われるだろうと思い保護してやったのだ―
―ふむ。そいつは感心なことだ。だが厄介事にならないように気を付けないとな―
人助けならぬ半魚人助けをするとはたいしたやつだ。ちなみになぜすぐに俺を呼ばなかったのか聞いたところ、『猪放置したまま俺を呼びに行っている間に魔物に食われるのが惜しい』とのことだった……
無事に町まで戻り荷台から降ろしたグラーシュを起こす。
「う……うぅ……。体中が痛い……ここは?」
リヤカーの中でぶつけまくったのだろうか。よく見ると結構乱暴に扱ったせいで体中アザだらけだ。額にはたんこぶもできている。すみません。もう少しゆっくり帰ればよかった。
「気がつきましたか? 森の中で倒れていたので町まで送りました。立てそうですか?」
「あぁありがとう。結構な距離があるのにわざわざすまないね。ちょうど森の中でマヒダケの群生地を見つけて採取しようとしたらなんとも言えない気配を感じた瞬間、気を失ってしまったんだ。あの時は心を握り潰されそうになったよ。」
……もしや……
―なぁオル?―
―な、何だ?―
俺に一切顔を向けようとしない。こいつの仕業か。まぁいい。
「それは大変でしたね。もう町まで戻ってますから安心してください。マヒダケはまた今度取りに行ってくださいね。」
「うん。本当にありがとう。 おや? 君はこないだサガラ川で会った……」
うっ……覚えられてるぞ。下手に関わりたくないから誤魔化したいがこの様子だと無理だな。
「はい。キノって言います。さすがに見知った方をあんな所に置き去りにはできませんでした。」
「いやいや。助けてもらたのに感謝しかないよ。そうだ! もしよければ明日にでも僕の店に遊びに来てくれよ。ちゃんとお礼がしたいからね。」
う~む。話した感じだとまともだな。しかも紳士だ。あのチラシは誇張されてるだけかな。
「分かりました。じゃ明日お邪魔させてもらいますね。」
「うん。じゃあ明日待ってるよ。あっこれ渡して置くね。」
爽やかな笑みと別れの言葉と一枚のチラシを残して彼は人ごみの中に消えていた。
さすがに店はもう知ってるからチラシなんかなくても…あっ。緑色の文字から黄色に変わっている。
【魔術具の館グラーシュ】
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……なんというか……あれだな。危ない匂いしかしないな。
明日軽く店に行ってお茶でもしたらさっさと逃げよう。うん。そうしよう。
―あの……焼肉は……?―
少しどころか、かなり控えめに催促してくるオル。さすがに自分のせいだと分かっているのだろう。フラグ立てたつもりはなかったがなかなかの厄介事を持ち込みやがって。
―明日だ明日。今日は暗いから解体できないだろう? さすがにエルシュさんちで解体するのは悪いからな。それにギルドにクエストの報告をしとかないとな―
―おお! では明日まで我慢するぞ! 二頭は食うからな!―
―……どこに二頭分の肉が入るんだよ。お前の体は四次元ポケットか?―
こうしてくだらない会話をしながらギルドに行き報告を済ませて家路に着いた。家に着くとなぜかアヤメさんがエルシュさんとニーチェと話をしている。
「あれ?こんな時間にアヤメさんどうしたんです?」
待ってましたとばかりに俺に近寄り一枚の羊皮紙を手渡す。
「ようやく帰ってきたわね。ギルドですれ違いになって渡せなかったからわざわざ届けに来たわよ。はい!」
これは何だ?権利書と手紙?
「ネシャとニョロゾからのプレゼントだよ。こないだキノくんが戦ってた時にネシャに横槍入れられたロックリザードのお詫びだって。」
「ああ! ネシャさんが見事に首をちょんぱしたやつですね! お詫びとか全然いいのに……」
「そういうわけにはいかないみたいだよ。なんせ、あのロックリザードの亜種を足止めしてたのは君なんでしょ? それにあと一歩で倒せたはずだってうちのレイカもニョロゾも言ってたしね。」
エルシュさんもニーチェも頷いている。これは受け取るべきなのか? でもなぁ……
「いいからいいから! 素直に受け取っておきなよ。手柄の大半はネシャが持っていった残り物だけどね。まぁ今度二人に会ったらお礼言っときなよ。」
強引なアヤメさんに半ば押し付けられるように渡され受け取ることにした。それじゃありがたく頂こう! ちなみになんだろう? え~とこれは二人からの手紙だな。
『キノくんへ こないだは楽しい時間をありがとう! お詫びと言ったらあれなんだけど、これをあげるね! ロックリザード亜種の報酬で私達で探してみたものだけど、ちゃんと使ってね! ネシャ&ニョロゾ』
ふむ。それでこっちは何だ?
【オルーツア5ブロック23権利書】
所有者 キノ キョータ
「アヤメさん。これは何ですか?」
帰りかけていた彼女を引き留め訪ねる。アヤメはどや顔で俺にこう言った。
「これはね、土地の権利書よ。君の土地だからね!」
ようやく地主になりました。




