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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第4章 息抜きこそが人生の縮図である
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2 チラシの宣伝文句には結構な確率で騙されやすい


「やあ。こんなところで食事かい?」


「あっ……どうも……。」


 その男は手に弓を持ち背中には矢筒を背負っている。そしてその容姿だが……えっと、イケメン半魚人?顔立ちはジャニーズだな。これは女性に群がられるタイプだ。だが、肘の辺りにヒレ? なんか腕にも鱗っぽいものが……


「君は変わった魚の捕り方をするんだね。邪魔をしちゃ悪いかと思って遠目でみさせてもらったよ。」


 うっ……釣りをしてるのを見られたか。だが、あれこれ聞いてこないな。オルもおとなしくしているから敵じゃなさそうだ。


「え、ええ。魚を傷つけずに取る方法なんですよ。なかなか便利ですよ。」


 愛想笑いを浮かべて適当に話をあわせる。彼は軽く微笑みながらおもむろに背中から弓矢を取り出し川に向ける。


「そうなんだ。僕はこうやって……魚を捕るんだよ。」


 そうして矢を水面に放つ。風をを切り弓矢は瞬時に川の中に消え『ゴボッ』という音と共に気泡が浮かび上がる。


「君みたいに傷つけずにってわけにはいかないけど、今のところ百発百中だよ。」


 そう言いながら右手をくいっと手前に引く仕草をする。すると矢に突き刺さったナマズのようなゲテモノが引っ張られるように水面から顔を出した。


「うおぉぉ! すごい! どうやったんですか?」


 あまりに見事な捕り方に思わず声をあげる。もしかして彼は水の中が見えるのか?


「ははは。これはね、魔素に引き寄せられるように作った弓なんだ。もちろん普通の魔物なんかにも効くんだけど、刺さってもほとんど殺傷力がないから魚専用なんだよ。」


 うぉ――――! こんなのあったらわざわざ釣りしなくてもいいじゃん! ちょっと欲しいかな……


「結構魔素を使うから一投するだけでだいぶ疲れるんだけどね。もし気になるなら今度うちの店に来たらいいよ。それじゃ早いとここいつを持って帰らなきゃいけないから失礼するね。」


 えっ……魔素がいるの? ということはあれは魔術具か何かなのか?


「あの! どこのお店に行けば……?」


 去り際の彼がすっと一枚の紙切れを俺に投げた。それをキャッチし見てみると緑色の文字でこう書いてあった。




【魔術具の館グラーシュ】 


 店長のグラーシュです。


 快適な毎日を送りたい方に朗報です。

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 さぁ!新しい扉を開く時です!今すぐ当店へ!




 なんだ……この怪しげなチラシは……裏面にも何か書いてあるぞ。



〔このチラシを持参の方に限り先着100名様には素敵なプレゼントがあります。迷わず当店へお越しください!〕



 いやいや! これはまったくもって怪しすぎるぞ……絶対何か買わされるやつだ。おじいちゃんおばあちゃんが実演販売で騙される的なあれだ! この世界にもこんな怪しい店ってあるんだな。純真な人間ならばイチコロだろう……


 ある意味感心しながら去っていく男に目を向ける。が、彼がいない。もう姿を消したのか?


 横にいたオルはまるで何事もなかったかのように悠然と魚をたいらげて顔を洗っている。彼に敵意がないのは俺でも分かったが、オルにここまでどっしりと構えられるとは……


―なかなかうまかったぞ。ほれ、もう少し釣りを楽しむがよかろう。ワシは寝る―


 五匹と俺の分とあわせて六匹食ったオルはパンパンに膨れた腹をさらけ出して昼寝モードに突入だ。たぶん『もう少し釣りを楽しめ』というのは『もっと釣れ』という意味だろう。まったく。

 それから夕方になるまで釣り糸を垂れて、しばらくの間釣りに来ることがないようしこたま釣り上げて帰路に着いた。




 それから三日後、まだまだ休息が必要だと自己判断した俺は気分転換にクエストを受けにギルドに足を運んだ。

 レイカさんも休みボケが覚めたようで、てきぱきと業務をこなしてる。

 運動不足を解消するために薬草と眠り草の採取クエストを受けた。報酬はあわせて金貨一枚だが、家でゴロゴロするよりはましである。


 ピッピさんのところに行き、乾燥させていない薬草と眠り草を見せてもらう。実物を見ずに外に出たらどれがどれやら分からないからだ。


―オル行くぞ! 薬草と眠り草の採取だ―


―草か……興味ないな。ワシはエルシュの家を守らねばならぬのだ―


 明らかに面倒くさがってるな。ふん。仕方ないな。


―そっか。じゃ昼飯はニーチェから何かもらってくれよな。俺はこないだ食べた焼肉のタレがまだ残ってるからまた猪でも狩りして食おうかな~―


―そうか。ならばワシも動かねばなるまい。今日はどっちに行くのだ? お前の望むままに従おうぞ―


 まったくもって……これは間違いなく餌付けされた獣だな。


 焼肉と聞いて目の色を変えたオルはすでに家から出てしっぽをピンと立てている。ちょっと勇ましいぞ。

 やる気になったオルと共に町の入り口に向けのんびりと歩き出した。


 町から出て南の街道を歩いていくと、少し道から外れた茂みにピッピさんの道具屋で見かけた草が目につきだした。どうやら薬草と眠り草はこの辺りに群生しているっぽい。


―よし。じゃ俺は依頼品を集めるからオルは猪でも探してきてくれ。魔物はいらんぞ―


―うむ。任せるのだ! 猪だけだな!―


 たぶん肉のためだけについてきたオルは飛ぶように近くの森の中に消えていった。あいつの事だからすぐに見つけてくるだろうな。


 見つけたポイントがよかったのかものの一時間くらいで依頼品は集まった。これでいつでも帰れるのだがオルが帰って来る気配がない。


「あの食いしん坊大将は一体どこまで行ったんだ……」


 まぁあいつが帰ってくるまで暇だからネットショッピングでもしようかな。今後役に立つ物があるかもしれないしな。

 それにしても調味料は買えても食材や飲み物が買えないとは。買える飲み物はミネラルウォーターだけかい……酒はジュースが手に入れば言うことないんだけどな~。


 こうして暇潰しにタブレットで色々検索していたら、いつの間にか日が傾きかけてきた。どこの世界でもネットに集中したら時間が経つのは早いもんだ。


「う~む。マジでどうしたんだろうか?あいつより強いやつなんてそうそう出くわすはずもないしな。しょうがないな。」


 あまり行きたくはないがこで待ってても時間が過ぎるだけだ。ぐっと背伸びをして薄暗い森に足を踏み入れた。




 この森はルーシキの森とは違い魔物の気配が少ないようだ。魔物が縄張りを示す独特の糞の匂いや木に残された爪痕があまり見当たらない。ただ木々が密集しすぎていて、すいすいとは歩けないくらいだ。


―お~い! いつまで森の中にいるんだ? そろそろ帰るぞ!―


 オルに念話を飛ばすが返事が戻らない。あのやろうめ。どこまで行ったんだ?


―どこにいるんだ~? 帰るぞ~! 置いてくぞ~!―


 どんどん森の奥に進む。う~む。日が完全に落ちるまでには帰りたいな。


―キノ! 来てくれたか! 助かるぞ。早く運べ!―


―おいおい……探しにきた者にいきなり命令かい? 一体何やってたんだ? あっ……―


 オルがいる場所には山になった猪とその端に一人の男性が転がっていた。


 グラーシュとかいうイケメン半魚人が。




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