1 毎日が充実していたら気晴らしも楽しい
四章に入りました。
ルーシキの森から戻り、疲れを癒すために少しばかり休息を取ることにした。
俺をしこたま鍛えてくれたネシャさんとニョロゾは受注していたクエストの報告をしたあとすぐに南のとある都市に向かって旅立って行った。俺達が森に引きこもっている間にどうやら向かう都市の領主からの依頼が届いていたようだ。
「すごいわよね~ギルドで探さなくても依頼が舞い込んでくるなんてね。しかも領主から直々にだよ! 一体報酬はいくらなんだろ?」
朝飯にいつものサラダとパンをかじりながらニーチェが呟く。
「だな。あの二人はマジで鬼だな。力も性格も。あんなのと一緒にずっと旅したらそれこそ世界を恐怖に陥れる戦闘兵器になれる自信があるわ。」
塩味の麦粥を食べながら森での特訓を振り返る。本当に辛い辛い一ヶ月だったな……しみじみ思う。
「そういやニーチェはあいつらとよくパーティー組むんだろ? ランクが違うのによくあんな化け物達と一緒に組めるな。」
「ははっ。キノくん。ニーチェはこう見えてもAランクの冒険者と変わらん実力はあるのじゃぞ。だが本人がランクをあげようとは思っておらんのじゃ。」
俺達の会話を聞きながらお茶をすすっていたエルシュが答える。
「そうなんですか? ランクあがれば冒険者として色んな特権があるんじゃないんですか?」
「もちろんそうなのじゃが、当の本人がその気がないのだから無理強いをするのはな。それに町長の孫となればランクがあがればひがむ輩もおるからのぅ。コネであげたんじゃないかと言われかねん。」
なるほど。やはりどんな世界にでも他人を羨むやつらはいるもんだ。そんなやつらには関わりたくないな。どうせろくなことになるわけないだろう。
「そんなもんなんですか……ま、確かにニーチェもすごいよな。とても俺より年下に思えないくらいの強さだし。」
「ふふふっ。今頃気づいたの? 私だってやるときはやるのよ!」
やばい。あまり調子に乗せないほうがいいな。下手に煽てて組み手なんかやろうと言われたらぼろ雑巾になる予感しかしない。
「ところでちょっと聞きたいんだけど……」
ニーチェが真顔になって食事の手を止める。
「保護って?」
その後なんとか言い訳をしてその場をやり過ごした。あまりにニーチェが真剣に聞いてきたから正直に話してもいいかと思ったが、オルに止められたのだ。
―まったく。お前が保護とか話すからだぞ。秘密にすべきなら口にするんじゃねぇぞ―
部屋に戻りベッドに寝転んでオルに悪態をつく。オルはばつが悪そうだ。
―すまぬすまぬ。ワシもつい口が滑ってしまったわ。今はお前の素性をすべて明かすのは得策ではないと判断したから、あの娘には告げぬほうがよいだろう―
―ほほぅ。では何でニーチェに言わないほうがいいんだ?―
―うむ。覚えておるか? あの魚を捕らえる時のことを。ニーチェはよいと思って共にいたやつらにお前のことを喋りだした。黙っていろと念を押していたお前の了承を得ずにな。では、もし次に同じような場面に遭遇したら……―
―また物事の解決のために口を滑らせるかも……―
―そういうことだ。強さに関しては申し分ないがまだ心が幼い。ニーチェが自分でより重要なことを見極めれるようになるまでは、お前のことは隠し通すのが得策だぞ―
―だな。オルの言う通りにしとくのがいいな。わかった!―
ネットショッピングのことを知る人間だけに、秘密を共有してもいいかと考えたがちょっと甘い考えだったな。まぁ、別に騙してるわけじゃないからいいだろう。
それにしても何をしようか。マジで体を休めたいから気晴らしついでに……
―なぁ。ちょっと骨休めついでに魚でも釣りに行くか?―
―おお! 魚! こないだはあやつのせいで一口も食えなかったからな!―
―だな! それに釣り貯めてたやつもニョロゾ達に全部食われたから、食ってないのは俺らだけだ―
―よし! そうと決まれば行くのだ! 早くするのだ!―
どうやら凹んでいたオルもいつもの調子に戻ったみたいだな。じゃ早速行くか!
「ふぃ~着いた着いた。さて! 釣るぞ!」
カバンから釣り道具を取り出しすぐに釣りを始める。あいかわらずサガラ川周辺は景色がきれいだ。のんびり景色を楽しみながらリールを巻く。程なくして強い当たりがくる。どうやら今日も入れ食いになりそうだ。
―オル! とりあえずすぐに食うか? 食うなら火をおこすぞ―
―うむ! 5匹は食うぞ! あの飛竜が食ってた酸味の効いた調味料を使うのだ―
へいへい。よっぽどポン酢が気になってたんだな。焼き魚にもあうから俺もポン酢で食おうかな。
タブレットで100円ライターを買い、枯れ枝を集めて焚き火をする。火が落ち着くまで再び釣りをして合計16匹も釣り上げた。
―とりあえず五匹だけだからな。残りは持って帰って違う料理にしてやろう―
―ふむむ。お前は強さに関してはからっきしだが飯を作るのはすごいぞ。他の料理も期待しよう―
―……まぁ期待しろ。それに地球だともっとたくさんの調理法があるんだ。俺の知る限りのお前の知らない美味なる世界を見せてやるぞ。まぁ結局のところ、俺が作るのは調味料に頼った料理だがな。よし! 焼けたぞ!―
素焼きにしたニジマスのような魚を丸ごと二匹皿に並べポン酢をかけてオルの前に置く。始めはくんくんと匂いをかいでいたオルだが、一口食べた瞬間むさぼるように食いつく。そして一言。
―おかわり―
―ちゃんと噛んで食ってるのか?俺はまだポン酢をかけただけだぞ。食うんじゃなくて飲んでるんじゃないか?―
―おかわりだ。つべこべ言うな―
あっ……だいぶお気に召したようですな。最近、オルの食べ物に対する反応で好き嫌いが分かるようになってきたのだ。そして気に入った食べ物になると……
―まだか……? 早くしろ! いや! それをよこせぇ!―
はい。このように俺の食べ分が強奪されます。もうね、下手に抵抗したら俺の腕が食われそうになるから無駄なあがきはしません。
どうにか自分用にかぶりつく。
エクセレント。
それ以上の言葉が見つからない。
この世界での生活における唯一の欠点は味である。もしも町の人々がこの味を知ったならどうなるだろう。戦争が起きるかも知れんな。……考えるのはやめよう。それよりも目の前のこいつを食わねば! オルに食われてしまう!
こうしてオルとやいのやいの言いながら食べていると後ろに何かの気配を感じる。
魔物か? と思い振り返るとそこには背の高い優男が立っていた。
以前に一度出ましたが顔見せは初になります。




