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16 手助けは時とタイミングによる 2

昨日に続き三章のエピローグ的なものです。


 俺の推測が正しければ……


 きた。いつもの死ぬ間際のビジョンだ。やつの振り上げた爪が俺の左肩めがけて振り下ろされる。いつもなら……この後に脳裏に浮かぶのはえぐられちぎれる左腕のはず。


 だったら……後ろに避けるなら……どうなる!?


 ―シュッ!


 キノの胸元が薄く血で滲む。だが深手ではない。肉をえぐらたのではなく皮一枚その爪に裂かれただけである。


「くぅ……カミソリみたいな切れ味だな。だけど思った通りだ。次はどうくる?」


 体勢を整えて次に備える。両足は震えが止まらないが、先程の回避ができれば致命傷を避けられる自信がある。


 ロックリザードは無数の牙をむき出しにしキノに噛みつこうとその口を広げる。大きく開いたその口はキノの上半身を容易に噛みちぎれるほどだ。そしてキノの頭部を包むように

襲いかかる!


 だがやつの口はキノを捕らえることなく地面にその鼻っ柱を叩きつけることになった。キノは真上から迫るロックリザードをギリギリのところで横にかわしたのだ。


 勢い余ってよろけて膝をつくキノだが、この二回の攻撃で推測が確信に変わる。


 シューラからの保護。それは彼が死に至るようなビジョンがその身に起きる前にはっきりと思い描くものなのだと。

 そして、今までは何のアクションも起こさずただ死を感じるだけであったのが彼女の一言で変化したのである。


 自ら一歩を踏み出す。


 自分の死に際が分かるならば、かわせばいい。防げばいい。


 ただそれだけなのだ。なぜシューラからの保護がこのようなものなのかはオルの言葉を思い出したおかげだ。


『シューラは時の神』


 時間をねじ曲げるのではなくキノだけに一寸先の未来を与える保護。死に際だけに発揮されるものであるがそれだけで今のキノにとっては充分すぎるのである。


―オル! お前の言ってたことが理解できたぞ! シューラさんがくれた保護ってやつをな!―


 攻撃に対する距離感がまだ掴めていないせいで幾度もその爪がキノを削るが、彼は少しばかり笑みを浮かべながら次々に襲いかかるロックリザードの攻撃を徐々に完璧に避け始める。


―ほう。順応すればなかなかよい体捌きになっておるではないか。そろそろその手にあるものを用いてはどうか?―


―だな。やったるぞ!!―


 疲れがでてきたのか動きが鈍くなってきたロックリザードが足を止めた瞬間手にした短剣を眉間にめがけて突き立てる。


 が、その突きは空振りに終わった。一瞬早くネシャの一撃が頭と胴体を分離させることとなりロックリザードは息絶えた。


「うぉ……ネシャさん……か……やっぱすげぇや……」


 駆け寄ってくるネシャを見ながらキノの意識はプツリと切れたのである。



~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~




―ようやく目が覚めたか? 腹が減ったぞ! 食い物を出せ!―


 耳元でオルの声が響く。辺りはすっかり闇に包まれている。そして……オル以外誰もいない。


―ん……オルか? あれ? レイカさんは!? ひどい怪我をしてたはず!―


 ばっと飛び起きるがレイカさんの姿も見当たらない。くうっ……体中がバラバラになりそうなくらい痛い…


―あやつならば治癒を受けて町に戻ったぞ。有休が切れるとか叫んでいたな。他のやつらはこの近辺にはいるが鍛練が終わるまで姿は見せぬとのことだ―


 そっか。レイカさん無事だったならよかった。それにしても有休使ってまでこんなとこに来るとは…


―オル。ありがとう。お前のおかげでシューラさんとの繋がりが理解できた。お前の主の姉さんは凄いな―


 体を起こし目の前にある焚き火に身を寄せる。ロックリザードにやられたおかげで服がボロボロだ。いくらなんでも風邪を引いてしまいそうだ。


―ふん。確かにシューラ様は神々のなかでも突出したお方だからな。それを言うならば我が主リーヌ様も凄いのだぞ! あの方は……―


 リーヌのことになるとこいつは意地でもむきになるな。


―いや。レゴブロックのことはいい。やつのせいで危うく思い出せるものが記憶の彼方に飛んでいきかけたからな。当分やつのことは思い出したくもない。それより! うまいもん食わせてやるぞ! 絶対気に入るはずだ!―


―……お前はもう少しリーヌ様を敬う必要があると思うぞ。なんせ……―


―ああ! もういい! 飯が不味くなる。俺も腹減って死にそうだからすぐ準備するぞ。少し待ってろ―


 ぶっきらぼうに返事をすると狩った猪を切り分け串に刺し火で炙る。そしてネットショッピングで焼き肉のタレ(甘口と辛口)を購入し焼き上がった肉につけもう一度炙る。周囲に焼き肉独特の甘辛い匂いが広がる。


―ほれ。食ってみろ―


 串から抜いて皿に盛り付けた肉に少しばかりタレをかけてオルの前に差し出す。さて……早速俺も一口……


―おかわりだ―


 皿がすでに空になっている。一滴のタレすら残っていない。…ちょっと早すぎるんじゃないかい? まだ一口目を食べようと…


―早くしろ。なんならお前の手に持ってるやつで構わんぞ―


―わあ~った! ほれこっちのを食え。うまいだろ?―


 面倒だから二本分をまとめて皿に移す。はむはむよく食うな。さて……


―おかわりだ―


―ちょっ! 待て待て。俺にも食わせろ!―


―おかわりだぁ! ないならお前のそれをおとなしくワシによこせぇ!―


 こうして狩った猪の大半はオルに食われた。俺が口にできたのはたったの二本だけだったが気に入ってもらえたならこちらも満足だ。


 その後、俺は保護を充分活用しある程度の魔物なら自力で対処できるようになった。

 ザネックスさんから買った短剣を使いたかったがこれに見合う魔物が現れないという理由でオルから使うのを止められた。

 この短剣に見合う魔物? 今度詳しく教えてもらわないとな。

 そしてオルから聞くところによると、このシューラさんからの保護が発動するには、俺が命の危険を認識しその対象に恐れを抱かないとダメらしい。だから、弱い魔物を前にして恐れを感じなかったり気持ちが麻痺してしまうと保護の対象にはならないと。

だから常に自分の身を案じてどのような場面でも警戒心を怠るなと散々言われた。弱いながらもこの世界の魔物はすべて俺を殺せるだけの殺傷力を持っているんだ。


 こうして特訓の日々は終わりようやく町に戻る日になった。


 始まりはみんなが企んだ拉致からだったが、女神との繋がりがまだまだあるとわかっただけでも有意義な日々だったな。


 とりあえず帰ったら布団で寝たい! 夜営は当分したくないぞ!



~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~


「ねぇねぇエルシュさんからの差し入れどうする?」


「どうするって……これをキノくんに渡したら特訓の意味ないんじゃない?」


「だね~」「なんでおじいちゃんはこんなに……」


「どんだけ過保護なんだよ……ピクニックに来てるんじゃないんだぞ……」


 エルシュからの差し入れを前にしてみんな呆れている。


「しょうがないから私らで片付けよう! キノくんには申し訳ないけどね。」


「「そうだね!」」


 こうしてエルシュが差し入れた一ヶ月分の食材と飲み物そして大量の酒は、キノを警護していた冒険者らによってひとつ残らず消費された。当の本人はまったく知ることもなく。

特訓の場面が長すぎてもあれなのでさっくりと終わらせました。


次回は閑話


次々回は登場人物紹介です。


四章はかなり短めです。(本当は三章扱いにしたかったのですが分けたほうがよいと判断しました)

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