15 手助けは時とタイミングによる 1
キノのピンチに二人は間に合うのでしょうか?
本日と明日の内容が三章のエピローグ的なものです。
「はぁはぁ……もう少し……」
先を行くニョロゾに必死についていくニーチェ。Aランクのなかでも随一の俊敏さを持つニョロゾについていけるのはニーチェだけだろう。
「ニーチェ! 絶対に気を抜くな! スキル解放状態にしとけ!」
「わかった!」
ニョロゾは焦っていた。オルとレイカの護衛で安心しきっていたからだ。自分が目の届かない場所で呑気にクエストをこなしていたのも腹立たしく自分を責める。
「森を抜けるぞ! 構えろぉ!」
森を切り裂くように駆け抜ける二つの残像がキノがいる原っぱに飛び込む。
「キノぉぉぉ! ……お?」
「……どういうことだ? こりゃあ……」
彼らが目にしたのは……
原っぱの隅で岩にもたれ口から血が溢れているレイカ。
その横で静かに佇むオル。
そしてロックリザードの亜種と対峙しているキノ。
「あぁ……オルちゃん! キノを助けて!」
ニーチェの悲鳴にも似た叫びが原っぱに響く。
ニョロゾは静かに呼吸を整え大剣をかざし、大きく息を吐くと同時にロックリザードに向かってその俊足を飛ばす。
―やめておけ。そして己の魔素を鎮めろ!―
オルの念話が二人の頭に響く。その瞬間ニョロゾは足を止めオルに目を向ける。
「今の……オルちゃんか……?」
―そうだ。今、こいつらに手出しはするな。ワシと同様見守るがいいぞ―
「何言ってんのよ! 早く助けなきゃ…」
―ニーチェよ。今キノを手助けしたら恨まれるのはお前だぞ。しっかりとその目で見るがいい―
「どういうことなのよ? 相手はキノが敵うような……」
ニーチェはキノに目を向ける。体中傷だらけだ。服は血で染まりあらゆる急所の付近が切り裂かれている。今にも呼吸が止まりそうなくらい肩で息をしている。
が、彼の目は死んでいない。むしろロックリザードを圧倒するかのごとくその目はたぎるように目の前の大トカゲを見据えている。
「オルちゃん……これって……」
―ここからはお前にだけ念話を飛ばすぞ。キノはようやく祝福と保護を認識し始めたのだ。まぁ、まだ保護だけだがな。だが保護だけでも認識して受け入れれば……どうだ?貧弱な男でもなかなか様になっているであろう?―
「ガツッ!」
地響きとともに土煙が舞い上がる。ロックリザードの前足が地面に叩きつけられる。キノは体を反転しその攻撃を避けている。休む間もなく二撃目、三撃目と続き更には尾でキノをなぎ払う。
しかしいずれもキノにはかすりもしない。キノの目はしっかりと見開き、ロックリザードのいずれの攻撃も紙一重ですべてかわしているのだ。
「すごい……キノくん一体どうしちまったんだ?」
口をあんぐりと開けて戦況を見つめるニョロゾ。まるでダンスを踊るかのように華麗に攻撃を避けているのだ。この動きは熟練の冒険者にも匹敵するのではないかと考えてしまう。
「なんなのよ……あんな僅差で避けるなんて人間技じゃないよ……」
―ふん。確かに人間がなせる動きではないだろう。だが、間違いなくキノの力でもあるぞ―
いくらロックリザードがその鋭い爪を振り下ろそうが、幾百もの獲物を噛み砕いてきた牙を向けようが、丸太のような尾を振り回そうがキノに触れられない。まるで同じ磁極を近づけるだけの磁石のようなのだ。
「! キノくん……あの剣を手にしたか。」
ニョロゾが彼の右手を凝視する。主を探し求めると呼ばれている短剣。キノがその主として認められ秘められた力を表すことができるのか。その答えが目の前で…
「ふんっ!」
その瞬間すべての時が止まった。ロックリザードの首がその強靭な体から切り離され切り口から血が吹き出している。一撃必殺とはまさにこのことをいうのであろう。
「大丈夫? キノくん! しっかり!」
「「「!」」」
ニョロゾもニーチェもオルも言葉が出ない。
「なんでみんな助けようとしないのよ! ほんとに死にかけになるまで放置プレイしてたの!?」
「「……まぁネシャはこの状況を知らなかったから仕方ないか……」」
―う、うむ。キノのやつも緊張の糸が切れたのか意識を失ったからよしとしよう―
三人の冷めた眼差しを尻目に、会心の一撃を放ったネシャはいそいそとロックリザードの解体に取りかかっていた。
「なにぃ!! あのロックリザードとまともにやりあってたって? 嘘でしょ? 私は嘘をつく人には鉄拳制裁をくらわすのが趣味なのは知ってるよね!?」
ロックリザードの解体を終えたネシャが大斧を手入れしながらニョロゾにつっかかる。
「まさかそんなわけないでしょ? だってあのキノくんですよ? 昨日までグローウルフやゴブリンといい勝負してたんですよ?」
傷を癒し痛み止めを与えたレイカに疑いの目を向けるエーシャ。
「「まさか! ネットショッピングで新たな武器を!?」」
「それが本当なのですよ。ロックリザードの一撃で少し気を失っていたけど気がついてから私が見たのは、キノさんのとんでもない動きでした。キノさんが人が変わったみたいに……強いっていうか逃げ上手って言うか……」
折れた手足の回復を確認するかのように曲げ伸ばしをしながら二人に答えるレイカ。どうやら完全回復しているようだ。相変わらずエーシャのヒールの力は凄まじい。
「レイカさんが言うのなら嘘じゃないわね。にしてもだよ! ニョロゾがびっくりするような動きってどんなのだったのよ!」
知りたがりのネシャはキノの様子を見ることなくロックリザードを倒してしまったのが悔しいのかニョロゾに質問攻めだ。
「レイカさんの言うことは信じるのかい……まあいいや。とにかくキノくんの動きはえげつなかった。それしか言えない。それ以上でもそれ以下でもない。なぁニーチェ。」
「うん! なんかダンスしてるような華麗な舞い? そんな感じでロックリザードの攻撃をかわしていたの! 私でもニョロゾでもあんな動きはできないよ!」
「ふむむ。こりゃ当の本人に聞いたほうが早いかな。キノくん! 君はどうして急に強くなったんだい?」
エーシャに治癒され、ヘトヘトになって横になってた俺は一言だけ返事を返した。
「そうだな……俺が一歩を踏み出したからだ。それだけだ。」
会話するのもしんどいくらいなんか今日は疲れたぞ。今までの特訓とは比べものにならないくらいにあらゆる筋肉、精神をフル回転した1日だった。
もう考えるのもよそう。
少しでも体を休め……
そして俺は瞼を閉じて意識を飛ばした。
残念ながらネシャに手柄を取られてしまいました。
三章の山場はここまでです。




