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11 人間は過保護に育てられるとなかなかの甘ちゃんになるもんだ

特訓は続くのですが、少しばかり変化があるようです。

 どうも~! ただいま絶賛特訓中のキノです。

 かれこれ特訓を始めてから一週間は過ぎました! 二日目にはニーチェとなぜかレイカさんも合流して賑やかに日々を過ごしています!

 ネシャやニョロゾ、エーシャの厳しくも的確な指導のおかげで、苦手だったゴブリンなどの人型の魔物にも躊躇なく剣を振り下ろせるようになったのは大きな進歩だと実感しております。

 このお礼は近づく対抗戦が終わり次第きっちりお返ししなければと思います! やはりお世話になった方には相応の返礼が大事ですからね!

 以上、現場から毎日瀕死状態のキノでした!




「じゃ次はグローウルフ八頭いくよ!」


「う~っす。どっからでもかかってこさせろやぁ~。」


「だいぶ人格崩壊しかかってるね。どうする?」


「まだいいんじゃない? 返事がなくなるまでは連戦させとこう。」


「なかなかの鬼畜っぷりですね。さすが町を代表する高ランク冒険者のみなさんです。こんな光景はギルドにいたら見れませんわ。」


「まぁAランクの二人はまさに鬼軍曹ですね。しかし明日からを考えたら今日はほどほどにしとかないと、いつもみたいに深夜まで戦わせたらほんとに彼は狂ってしまうかもしれませんね。」


「鬼軍曹だなんて失敬な! これでも緩めなほうだからね!じゃこれ終わったら今日は終了にしようか。」


 俺以外のやつらはみんな晩飯食っていつものまったりモードに入っている。どう見てもキャンプに来て騒いでる若者集団にしか見えない。世間でいうリア充ってやつだな。俺の飯は残ってるんだろうか?

 レイカさんは酒に弱いため、すでにできあがったみたいで布団の中で丸まって寝息を立てている。 

 そして大事なことだが、気のせいか日々の食事の量が減ってきているように感じるのだが…


「おっ! 終わったみたいだね! キノくん! 今日はここまでにしよう! ご飯食べなよ~!俺はもう寝るから~。」


 ニョロゾが手招きして俺を呼んでいる。彼は座っていた場所を譲ってくれて自分はもそもそと寝床に入る。


「まだ日が落ちて二時間くらいだが今日はあっさりと終わったな。はっ! もしや明日の早朝から……」


「いやいや! 明日は日の出まではゆっくり休んでいいからね!明日からはメニューを変えて頑張ってもらうから!」


 ネシャが干し肉をかじりながらジョッキに注いだ酒を流し込む。


「ほぅ。ちなみにどんな内容になるのかな? お兄さんはまずその話を聞いてからじゃないと飯が喉を通らないぞ。」


濡れた布で汗や返り血を拭き焚き火の側に座る。初日の特訓後とは違いだいぶ疲れにも慣れてきた。


「明日からはキノくん一人で頑張るんだよ~。俺がわざわざ魔物を呼びに行ったりしないからどの魔物でも君が選び放題だからね~。頑張れよ~栄光はその先に。」


 すでに就寝準備が整ったニョロゾが布団の中から答える。

 はい? それは一体どういうことでしょう?


「正確には明日からは一人で生き抜いてもらうんだ。無論食料も現地調達でね。一応俺達も近くにはいるが君の目には映らないだろうな。あとアドバイスも何もしないから。」


 今日はエーシャが夜の番なのだろうか。薪を運びながら素っ気なく返事をする。

 えっ? なにそれ? 放置? ここにきてそんなプレイを?


「戦いに慣れてきて魔物に対しての恐怖心が麻痺しかかってるのは誰の目にも明らかだからね! なので、戦いとはなんぞや? という基本を思い出してもらうのが大事だとオルちゃんからの意見を取り入れようってわけなのよ!」


 ネシャと並んで座っているニーチェは干し肉を焚き火であぶってはむはむと咀嚼している。相変わらず食い方がウサギだな。


「まったくオルのやつはいらんことを……ひとつ聞いていいか?もしも俺がヤバい状況になったら助けてくれるんだろうな? 正直に答えてくれ。」


「ほんとに危ないと判断したら助けには行くよ! だけど君が対処できると判断したら放置だね。私らはクエストついでに森を徘徊するのが多くなりそうだから、どうしてもって時以外は悲鳴をあげないでね!」


 ネシャはニーチェの真似をして自分のマジックバッグから取り出した魚の干物を焚き火であぶり始めている。


 う~む。ネシャ先生は相変わらずどSなこと言ってくれるじゃねえか。


『まぁオルちゃんが近くにいたらなんとでもなるでしょ。』『だね~。あと、レイカさんも冒険者登録してあるからいけるんじゃない?』


 割れ関せずとも言わんばかりでみんな好き勝手話してる。飯すら自分でなんとかしろっていう話からしてもなかなかのスパルタ形式にチェンジするようだ。


「よし。やったろうじゃないか。だが、俺の命だけは保証しろよ。何よりも優先して必ず守るんだ!」


「「はいはい~。」」

「まぁ気楽にいこうや~。」


 ほんとに大丈夫なのか不安になる。確かにみんなは化け物みたいな強さだが俺は違うんだぞ? ちょっと目を離した隙に死んでる可能性だってあるんだよ? なのになんて気の抜けた返事を……


―キノよ。明日からはワシの念話だけが生きる術になるであろうから常にワシの言葉に注意せよ。実はな、お前とこいつらが弱い魔物をほぼ片付けたおかげでそこそこの魔物しか廻りには残っておらんのだ―


ニーチェの膝の上で丸くなっているオルがあくびをしながら念話を飛ばしてくる。


―おい。それはあれか? 俺の力がレベルアップしたから更に強い敵と戦って強くなるっていうのじゃなくて……―


―うむ。ただ単に強い魔物しか残っておらんのじゃ。更にこの森にはワイバーンやコキュートス、リッチーなども生息しとるらしく、こいつらは周囲の安全のためにそれらを相手にすると話していたぞ。それゆえお前にはワシとレイカとかいう娘だけで警護をするのだ―


―なるほど。ってレイカさんは戦えるのか? こっち来てずっと天幕で見学してただけみたいだが…―


―心配はいらぬ。あの娘もなかなかのやり手のようだ。魔素の量はこの人間のなかで一番多いぞ―


―マジか! まぁゴロツキみたいな冒険者の集まるギルドの職員だから強くないと体がもたないわな。そういう理由なら仕方ない。明日からはみんなに甘えられないな―


―そういうわけだ。ゆえに今夜は早めに休むといい。明日からは……地獄だぞ―


 オルの最後の一言が怖い。いや……深く考えたらいかん。もう戻れないんだ。今は強くなることだけを考えて…


 どう見ても3日前の半分くらいの量の晩飯を腹に流し込みさっさと横になる。明日から……どうなるんだ…




翌朝




 ニーチェとネシャ、ニョロゾ、エーシャは天幕からいなくなっていた。そして枕元には一言だけ書かれた手紙が。




『魔物は基本食べられるよ! (ほとんどのやつはまずいけどね!)』





一人で生きてもらいます。

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