10 ネットショッピングというものを知ってもらおう
夜の部です。
「ところで、なんでおれのネットショッピングは戦いに不向きなんだ?」
晩飯のパンとスープを食べながらふと疑問に思った点を聞いてみる。
「実際にそのネットショッピングを見たわけじゃないんだが、それって何かの対象に対しての対応策としてはすごく価値があるし、俺達が思いもよらない結果を生み出すものだと思うんだ。」
鍋に残ったスープを器にてんこ盛りにしてがっつくエーシャ。
「んだね~。だけど急に魔物に襲われた時とかにはすぐに対処できないでしょ?命が危険に迫ってからあれこれと考えてたらその間にやられちゃうよ。」
すでに満腹になったニョロゾはゴソゴソとマジックバッグの中を整理しているようだ。
「だな……それは今日の猪やゴブリンと戦ってよくわかった。自分を守るのは己の剣だけだなって……って違う! 俺は戦わずして生計を立てるのが最優先なんだ! 魔物を討伐して生きて行く? 冗談じゃないぞ。」
どうもこの世界は戦いに対しての意識が高すぎる。そんなに命のやり取りが好きなのか? 高い報酬金は確かに魅力的だが死んだら何の価値もないんじゃないか?
「じゃ、ここでネットショッピングを見せてよ! どんなものなのか生で見てみたいしそれで生活できるか私が見極めてあげるわ!」
「おお! そうだそうだ! ぜひ見せてくれよ!」
「うん! 金はみんなそれぞれ出すからそこは気にするな! まずはエーシャからやってもらえよ!」
うわぁ……三人とも目が爛々と輝いてるな……まぁ、ニーチェの友人だし問題はなさそうだから無難な物ならいいかな。
「よし。じゃ一人ひとつだけだからな。何かこうしたらいいなとか、こんなものがあったらいいなとかあれば言ってくれ。ただし食い物と武器はダメだ。こればっかりはいくら確認しても買えないんだ。ただし調味料はいけるぞ。」
『ええっ! 何にする?』『何がいいかな? やっぱり変わったもの?』『う~む。急に言われたら何も思い浮かばないな』
三人とも何にするか迷ってるな。地球の文明の利器を知り尽くしてる俺ならば様々な便利グッズがすぐに頭に浮かぶが、こればかりは仕方ない。この世界では今ある生活が不便だと感じる人がいないのだ。今が当たり前という考えしかないのだ。
―オルよ。お前は何か欲しい物はあるか?―
―いや……食い物が手に入らないのであれば興味が……さっき調味料とは言っていたな?ワシの知らぬ物もあるのか?―
―もちろんだ。だが、お前があのレゴブロックの所や他の世界で食ってた味が被るかも知れんがな―
―リーヌ様といる時は何も口にせずともよかったので、食うという概念がなかったな。他の世界ではいくらか口にしたが、味はこの世界と大差はない。地球に行ったときも何も食ってないな―
なるほど。つまりは地球の味を出せばいいのだな? まかせろ。俺はあのホイル焼きのポン酢の匂いを嗅いだときから早く日本の味を口に入れたくてたまらないのだ。
―よし。お前には様々な味の肉を食わせてやろう。期待しろよ―
オルと念話をしていると話がだいぶ静かになってきたみたいだ。希望の品が決まったのだろうか。
「キノくん。なかなかみんな決まらないからキノくんに選んでもらって頼んでもいいかな?」
決まらなかったのか……まぁ無理もないか。
「おっけー! じゃ、まとめて購入しようか。」
エーシャにB5サイズのちょっと大きめなシステム手帳をニョロゾは硬化ガラスのゴーグル、ネシャにはオルゴールを購入して渡した。
「すごい……普通は紙なんて商人が使うものなのにこんなにきれいでしかも持ち運びやすい! それにこの棒きれで文字が書けるのか。書いても滲んだりしないぞ! 手で触れても……字が擦れない!」
「これは目を保護するものだな。素早く動いても眼鏡と違って頭から取れないから使い勝手がいいな! 雨の日や虫が多いところだと目に入って痛くてかなわなかったからこれは役立つぞ!」
「すごく綺麗な音色……それに鉄でできてるのかな? こんな緻密な作りの細工みたことないよ……一体どれくらいするのよ……」
それぞれから10000Gを預かったのでお釣りを返す。
「ええっ? 2000Gでこんな立派な紙が……」
「俺のも2000Gで買えたのか!?」
「うっそ……2500G……お昼ごはん代と変わらないじゃない……」
三人とも呆然としている。一応そこそこいいやつを選んだつもりだったのだが。
「こんな風に金さえ出せば買えるんだ。なかなか便利だろ?」
「「「いやいや! 便利って言うか凄すぎて!」」」
どうだ! 恐れ入ったか! これがネットショッピングの力だ!
―オルの分はまた今度だ―
―なんだと? なぜ今ではないのだ?―
―今お前に食わせたら間違いなくこの三人も欲しがるはずだ。思い出してみろ。あのビビすら虜にするようなうまい味だぞ? 独り占めしたくはないのか?―
―う、うむ。ワシの取り分が減るのも気に食わぬしまたの機会でかまわんぞ。絶対だからな!―
へいへい。実のところまた肉を焼いたりするのが面倒なだけだからなんだがな。
「確かにこれで生きていけると思うよ。問題をかかえるかもだけどね……よし! ネットショッピングとはどんなものかわかったところで……」
「「始めようか」」
……この三人切り替え早すぎなんじゃ……一晩くらい感動しまくってくれてもいいんだよ? それにこんなに真っ暗だと魔物の姿すら見えないんじゃ……あっ……灯りの代わりになる魔法があるんですね……これなら深夜でも問題ないですね……
「それじゃ夜の部いってみようか! 魔物はグローウルフあたりがいいかもね!」
「わかった! 俺がやつらをおびき寄せてくるわ! 早速このゴーグル使ってみよ!」
すっかり日が落ちて暗闇に包まれた森に風のように消えてゆくニョロゾ。がっくりと肩を落として夜の特訓に備えるキノだった。
「キノくんのスキルすごいわ。狙われて当然ね。」
「ですね。ある意味物を生み出す錬金術に似ていますが、素材ではなく金さえあればできるというのが……しかもとんでもない物ばかり……」
「ほんとよ。下手したら一国の財産を産み出しかねないね。絶対に鍛え上げてやるよ。彼自身の力で自分を守ってもらわないとね!」
その夜、なぜが気合いの入ったネシャが遅くまで俺を鍛えてくれた。グローウルフを倒したと思ったらすぐに次のやつが暗闇から飛びかかってくる。まるで俺を襲う順番待ちをしているようだ。
俺はただ淡々と飛びかかるグローウルフを切りつけその命を絶つ。山積みになったグローウルフは寝ぼけ半分のニョロゾの魔法で瞬時に灰になってゆく。まるでRPGのレベリングな気分だ。
いよいよグローウルフが出てこなくったところで今日の特訓は終わりだ。
フラフラになりながら天幕の寝床に入る。明日の朝のことは考えるのはよそう。ただ横になり目を閉じたいんだ。
ああ……やっと寝られる……
明日も特訓です。




