9 特訓とは
今日は短いです。
「おっしゃ! 次来い! 次だ!」
あれから数時間過ぎた。キノは延々特訓を重ねているが、ザネックスさんとこで購入した剣は間合いが狭いので、ニョロゾから借りた少し長めの剣を借りて猪との戦いを続けている。
「だいぶ剣の扱いに慣れたようだね。初めの一匹目と対峙したときはどうしようか本気で考えたけど。」
「だねだね! まともに剣すら振れないなんてどこのおぼっちゃんかと思ったよ。」
「ですが、彼が腰に提げているあの剣……あれって……」
「うん。エーシャが思ってる通りの業物だね。よくもまぁキノくんが手にしてるな。だがあの剣の主がキノくんだとすると彼は召喚者ではないね。」
「だね~。もしもキノくんがあれを使いこなせるようになったら……」
「……今は考えないようにしようよ! それより、そろそろゴブリンいっとく?」
エーシャ達三人は切り株の上でまったりモード全開だ。時折血の臭いに引き寄せられる魔物を交代で狩っている。
「じゃ、キノくん! いい加減猪と戦う君にも飽きたから、これから人型の魔物も混ぜるよ!」
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こんにちは。紀野京太ことキノです。
僕は今日から剣を振るっています。生まれてこのかた魚を捌く時に使う出刃包丁以外にこんな殺傷力があるものは持ったことはありません。
社会人として建設会社に勤務し、平穏な日々を過ごしていただけでした。ですが、たまたま目に入ったちっこい猫のせいでこんな世界に飛ばされ、慣れない生活を強いられこんな目にあっています。
いくらなんでもひどいと思いませんか? 猪までならまだ我慢できます。ですがどうやらゴブリンという魔物をこれから手に握っている剣で倒さないといけないようです。
このゴブリンというのは思いっきり人の姿をしているのです。自分の中の何かが変わらないと剣を向けるのさえ戸惑ってしまいます。
あっ! 手に石でできた斧を持っているようです。あれをくらえば非常に痛いでしょう。僕は鎧のような防具を身につけていません。当たれば生命の危機を迎えるでしょう。
まるで子鹿のように地面を跳ねながら迫ってきます。もう目の前にまできました!
「嫌だぁ―! 動物ならまだしもあれって80%人間じゃね~かよ!」
「……ねぇ……キノくん追われてるよ。」
「ん~まだ放置してていいんじゃない?」
「ですね。逃げる練習もしておいたほうがよいかと。」
まったく助ける気がない三人。ゴブリンごとき助けるまでもないのだ。向こうも自分が生き残るために必死ゆえに鬼の形相で迫るのは当たり前だ。
問題はその迫り来る魔物が本当に弱いのをキノが理解していない点なのだ。奇声を発し武器を振り上げ迫ってくれば、例え 相手が年端もいかない10歳ほどの少年でも恐怖を感じるだろう。だが、所詮は10歳の子供なのだ。大の大人なら相手になるわけがない。
ゴブリンも同じである。が、それに気づかなければいつまで経ってもゴブリンの恐怖によりまともに対峙するのすら避けてしまう。今のキノがまさにそれだ。
「キノくん逃げるのも特訓のうちだから頑張れ~!」
あぐらをかいて気の抜けた声援を送るエーシャ。
ネシャとニョロゾは切り株の上に布を敷き昼寝をする体勢に入りつつある。
「あいつら……助ける気がねぇな。オル! ヘルプミー!」
―へるぷみー? なんだそれは? さっき肉を食ったから腹は減ってはおらんぞ―
「……」
ゴブリンは瞬発力はあるが走る速度はそれほどでもないので、キノとの距離は縮まらない。いい加減ゴブリンも疲れたらしく何度も振り返りながら森の中に戻って行った。
「はぁはぁ……お前ら助ける気がないな……むちゃくちゃくつろいでるじゃねぇか……」
足をもつらせながら三人のいる天幕に戻る。
「だってまだ死にかけてないじゃん。練習と特訓は違うんだよ? もっと自分を追い込まなきゃ!」
うつ伏せで半目になっているニョロゾが呆れ口調だ。
「あのな。俺は今までこんな戦いなんてしたことないんだ。しかも初日数時間経過でゴブリンやっちまえってどこの戦闘民族の修行だよ。」
大の字になり口から出るのは文句ばかりだ。こりゃ間違いなく明日は筋肉痛で動けんぞ。すでにふくらはぎがプルプルしている。
「徐々に慣れるよりは初日に剣を扱う基本を覚えて二日目には実践、三日目以降は応用残された日数からするとこのくらいじゃないときついよ~。」
いや。もうすでにきついのだが。これは命を賭けたしごきという名のいじめだ。
「とりあえず日が落ちるまで休憩しよう! 夜からまた再開だからね!」
ネシャの弾ける笑顔と裏腹に発する言葉を恨めしく思うキノであった。
暇があれば本日中にもう一話更新します。




