6 Aランクの冒険者
ネシャとニョロゾが戦います。
「さて……それじゃキノくんにはそろそろ起きてもらいましょうかね。」
軽く背伸びをしながらおもむろにキノの鼻の穴から眠り草を引っこ抜くネシャ。
「おおっとぉ! オルちゃんの獣気の障壁がなくなったから森の魔物が一斉に飛びかかってくるかもよ。この付近の魔物をある程度倒してからにしない?」
マジックバッグから自分の背丈よりも長い刀身の大剣を取り出し周囲に警戒網を張るニョロゾ。
「それがいいですね。ではキノくんは俺が見ておきますので討伐はお二人に任せますね。」
天幕を張りながら無駄に魔素を消費したくないエーシャは面倒な割り当てを二人に丸投げだ。
「も~仕方ないな~まっ、このパーティーじゃヒーリングできるのはエーシャだけだからね。馬車の扱いで疲れただろうからゆっくりしててね! じゃ行くよニョロゾ! 目標はこの近辺の魔物の各ランクすべて八割討伐で!」
「はぁ~。むっちゃ面倒だな……そんじゃD以下の雑魚は俺がやるからC以上を頼むわぁ。」
しょっぱなの戦いから連戦モードになるようなので大剣をバッグに納め、切り返しがしやすい一振りの剣を取り出し右手で構える。
「「じゃいってくるよ~!」」
重なる掛け声と共に二人の姿は一瞬の残像を残して霧のように消えた。
「はい~いってらっさい~。ってもういないか。さすがAランクのコンビだな。魔物がかわいそうになるわ。それじゃキノくんが目を覚ますまではのんびりさせてもらおうかな。」
天幕を張り終え冷え込むであろう夜に備えて火を起こし暖を取るエーシャ。魔物の群れの中に消えた二人のことなどこれっぽっちも心配していない。
いや心配する必要がないのだ。彼らの戦いを何度も見てきたエーシャならば、この付近に生息する魔物など二人にとっては鹿やウサギと変わらないのだ。
「あ……討伐ついでに食える肉を頼んどきゃよかったな……っとお! 派手に始めたな~やっぱ化け物だなAランクって。」
エーシャの視線の先にはメキメキて音を立て倒れる木々が見える。それも一本や二本ではない。ドミノ倒しのように天幕を中心に円を描くように次々と倒されてゆく。
「先にキノくん中心に原っぱ作るからね~! 視界に入る雑魚お願いよ~!」
ニコニコしながら白銀の斧を振るうネシャ。草刈りのごとく一振りごとに一本の木が倒れる。あれよあれよという間に天幕を中心に半径50メートル程の原っぱができあがった。
「これなら戦いやすいわ~! ほんじゃ早速目につく魔物から…」
茶色の毛玉がゆらりと動いたと同時に森の暗がりから様子を伺っていたオーク達の首が宙に飛ぶ。そして命を失いし体が崩れ落ちるやニョロゾの左手から発せられる炎の塊によりその身が瞬時に灰となる。
「ちょっと森の中行ってくるわ~。高ランクがいたら原っぱに誘導するからね~。」
のんびりとした口調とはかけ離れた風のような速さで森の木々を縫うように茶色の毛玉が動き回り、時折魔物の断末魔と共に赤い炎が暗がりで揺らめく。これが延々ニョロゾが飽きるまで続くのだ。
戦いが始まって何匹、何十匹倒しただろうか。しばらくして地響きのような足音と共にニョロゾが原っぱに戻ってきた。
「ネシャ~! こいつら任せた! なかなか硬いぞ!」
叫びながら戻ってきたニョロゾの後ろには岩のような鱗を身に纏った体長8メートルもあるトカゲ二匹が木をなぎ倒しながらこちらに向かってくる。
「はいはい~! 任されたよ~!」
助走をつけてトカゲに向かってジャンプし、手に持つ斧をその首に振り下ろす。更に空中で体をひねり並走していたもう一匹の首にも斧を振るう。さくっと首がその身から離れ大量の鮮血がほとばしる。頭をなくした体は勢いでそのまま数メートル足を動かして歩を進めるが、しばらくするとその身を地に転がし静かになった。
「ロックリザードなんて珍しいね! 素材回収して肉はこれからの食料に使おうよ!」
「おっ! いいね! ネシャがうまいこと首を飛ばしたから血抜きもバッチリだね!」
「でしょでしょ! やっぱり食べれるものは美味しく食べないとね!」
ふたりのやり取りを眺めるエーシャが一言呟く。
「…ロックリザードって国の師団30人でようやく一匹を対応するような限りなくAランクに近いBランクの魔物だろ……なんであんなの瞬殺できるんだよ……」
「「晩ごはん♪ 晩ごはん♪」」
あれから100匹近い雑魚とB,Cランクの魔物を20匹ほどの魔物を狩ったネシャとニョロゾは、ナイフとフォークを両手にエーシャの焼いているロックリザードを今か今かと待っている。
「やっぱりお二人は別格の強さですね。見ていて呆れるくらいです。」
こんがりと焼けた肉を切り分けて二人に差し出すエーシャ。
「まぁ、修行の賜物だよね。鍛練はちゃんと結果として現れるからね!」
「だねだね! エーシャも教え手に恵まれて成長しているのかBランクでも実質Aランクの強さだって言ってもおかしくないよ!」
肉をかじり持参してきたワインをがぶ飲みする二人。
「まぁ師が優れているのは私にとってはよかったですよ。短期間でここまでの領域に達してるのは師のおかげですからね。私はこの森でキノくんがどのように生き残り成長するか楽しみですよ。あなた方がどのような鍛え方をするのかもね。」
エーシャはいたずらっぽく笑いロックリザードの塩焼きを口に頬張る。
「キノくんはね~私らと同じ鍛練をしてもらおうと思うんだ。きっと強くなれるよ。強くなれないわけがない!」
ニョロゾが指の見分けもつかないような拳を握りしめて声をあげる。
「だねだね! その人のレベルに合わせたカリキュラムなんて時間がかかるだけだしね!」
どこかの塾の先生のような意見で相づちをうつネシャ。
「ほほぅ! 一体どのようなプランを二人は考えておられるのでしょうか?」
興味津々で二人に近づくエーシャ。
「「それはね……」」
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「あ~暇だよ。」
冒険者ギルドで二人の女性がカウンターの机に突っ伏している。
「それもこれもネシャさんとニョロゾさんのせいですよ。討伐クエストを25件もかっさらうんだから、残ってるのは採集系のしょ~もない依頼だけですよ。新規クエストが貯まるまでは毎日こんな感じですかね。」
「まぁ実績がありすぎる二人だからこっちも文句言えないからね。暇潰しにキノくん達来ないかな~」
「そういえば……彼の姿はこないだのレイザーサーモンの件以来見てないですね。納品された物とはいえ一口でいいから食べてみたかったです…」
「だね……でも、あれだけのレイザーサーモンをたった一日で捕獲してくるんだよ? どんだけキノくんってすごいのよ。」
「まったくですよね。 あら!エルシュさんようこそ。その荷物は…クエスト依頼ですか?」
新調された扉が開きエルシュがロビーに入る。背後にはたくさんの荷物を載せた荷車が見える。
「アヤメさんレイカさんいつもお世話になっとるな。今日来たのはな、キノくんとこに物資の届けるのを依頼しようと思ってな。」
「「えっ?」」
「あっ! いやな、ちょいとキノくんには体の鍛練をしてもらうべくネシャ達に少し離れた場所に連れて行ってもらってるのじゃ。それで差し入れを届けてもらう依頼をしようと思ってな。」
「……ほぅ。。。ではこちらの依頼書の記入をお願い致します。」
にこやかに笑みを浮かべエルシュに依頼書記入を促し紙面を走るペンを凝視するレイカ。そしてレイカと同様ペンが生み出す文字を目で追うアヤメ。
「ではこれでお願いしてもい……」
エルシュが依頼書を渡そうとした瞬間、依頼書と二人の姿が消えた。と思ったら床でもみくちゃに転がりながらエルシュの手にある依頼書を奪おうと必死だ。
「何すんじゃあ! 私が行くんだかんな! てめぇは店番しとけやぁ!」
「何言ってんだよ! あんたはギルド長だろがぁ! お偉いさんが来たらど~すんだよ? あんたこそ店番しろや!」
「あぁん? てめえ暇潰しに行きたいだけなんだろうが! 最近めっきり新規登録者こねぇから外に出て刺激が欲しいんだろ? 魂胆見え見えなんだよ!」
「きぃ~っ!! あんたこそこんなとこに箱詰めされてる日常から逃げ出したいんでしょうが! 悪いけどねぇこんな刺激的な依頼は早々ないから譲れないわよ! 貯まってる有休使わせてもらうわぁ!」
「あの~…二人とも……」
「「うっさい!」」
数分後、お互い引っ掻き傷になりながら勝者となったのはレイカだった。
「ではエルシュさん♪ 喜んでこちらのご依頼承りますわ♪」
暇を弄ぶ女性は怖いものである。
あまりシリアスになる話にしたくないので1人ネタ的なキャラを乱入させました。




