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4 オルとニーチェ

馬車を走らせながらのオルとニーチェです。


「朝だよ~出発するよ!」


 男性陣の部屋の扉を開けニーチェがみんなを起こす。

 さすが冒険者といったところか。朝には強いようで、二度寝をかまそうとする者は一人もいない。いまだに人為的な眠りの中のキノはみんなに担がれて馬車に放り込まれる。

 その後必要な買い出しを早々に済ませ馬車を西に走らせる。


「これから先は高ランクの魔物が徘徊する土地だからネシャとニョロゾは見つけたら排除お願いね!」


「まかせて~! 素材はどうしよっか?」


「ん~お金になりそうな素材は剥ぎ取ろうか。雑魚はグールにならないようにエーシャが焼いてね!」


「わかった。ゴブリンやオークくらいの魔物ははじめから燃やすぞ。いちいち馬車を停めるのは面倒だからな。」「じゃ俺も雑魚処理担当するからね。」


 手綱を握るエーシャとその横に座り魔物の襲撃に備えるニョロゾ。後方はニーチェが監視し、ネシャは荷台で獣気の反応に気を配る。この世界の魔物は死んだ後にその屍を燃やさない限りグールとして徘徊するのだ。


 しばらく馬車を走らせると、街道は石畳からいつの間にか土がむき出しの道に変わっている。対向する馬車がきたら草むらにどちらかが入らなければならないような幅がない道だが、よく人が行き来するのかきれいに整備されている。

 視界を遮る木々もなく見晴らしがいいので魔物が襲ってくるならば瞬時に対応できそうだがまったく現れる様子がない。ふと気になったのでニーチェがオルに話しかける。


「オルちゃん……もしかして獣気を使ってる?」


―ほぅ。よく気づいたなニーチェよ。お前の推測通り使っているぞ。馬に影響がないよう微量の獣気を地中に流して、この馬車を中心に円を描くように放出しているからお前らには分かるまいと思ったのだがな―


「うわぁぁぁぁ! オルちゃんが喋ったぁぁ!」


 驚きすぎて荷台から転がり落ちそうになるニーチェ。オルは澄ました顔でニーチェにうにゃ~うにゃ~鳴いている。


「「へっ? オルちゃんが喋った?」」


 エーシャとニョロゾが思わず後ろを振り変える。


「たぶん念話じゃないかな? ニーチェの話した通りの強さをこの猫ちゃんが持ってるなら念話くらいできてもおかしくないはずだよ。とはいっても念話なんてできるのは桁違いに知能が高い魔物か幻獣とかドラゴンじゃないとできないって聞いたけどね。」


 じっとオルを見つめるネシャが答える。オルの体から出る力を感じようとするが見えない。わずかに纏う魔素だけではオルの力を見定められないのだ。


―ほう。このドワーフは念話を知っているか。なかなかの知識を擁しているようだな。ニーチェよ。キノが眠っているゆえに意思の疎通ができぬのが非常に不便だ。なのでお前にいろいろと聞こうと思うぞ―


「うんうん! 何でも聞いて! でも……オルちゃんと話ができるなんて……キャ―!」


 体をくねくねさせてニーチェは喜んでいる。その様子を見つめ口々に呟く三人。


「ほんとに口に出さずに会話してるんならすげぇよな……」


「念話ができる従魔とは……キノくんのテイマー能力は飛び抜けているようですね……」


「だねだね! この国でもこんなテイマーっていないんじゃない?」


 オルは三人の様子を横目に毛繕いをしながら、ニーチェにさらに念話を飛ばす。


―賑やかなやつらだな。ニーチェよ。声に出さず心に浮かぶ言葉をワシに問いかけてみよ―


―こうかな……もしもぉ―~し! オルちゃん聞こえるかな?―


―うむ。お前の声が届くぞ。今後必要な時にはこの念話を用いるとよいだろう。―


―わかったわ! でもでもすごいわぁ! オルちゃんとこんな形で意志が通わせれるなんて!―


 一言も言葉を出さずに念話で会話できるのが余程嬉しいのか、またしても体をくねくねさせるニーチェ。


「うわ……なんかニーチェがきもいよ……無言でくねくねしてるよ……」


「いや、あれはたぶん背中が痒いのでしょう。そうでなければただの変質者ですね。」


「もしや念話で会話してるのかな? ちょっと……いやかなり羨ましいなぁ……」


 もはやただのくねくねマシーンと化したニーチェを冷めた目で見る三人であった。




―さてニーチェよ。なぜこやつはこのようなことになったのだ? どうやらエルシュから頼まれてお前の仲間らも協力しているのはわかるのだが?―


 キノの上に座りニーチェに話しかけるオル。ニーチェも念話に慣れてきたのか、ゆっくりと言葉を選びながらオルに経緯を話始める。


―あのね、ちょうどキノとオルちゃんが収穫祭に出掛けた後におじいちゃんが戻ってきたんだけどね……―




~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~



「ニーチェ! キノくんは? キノくんはいるか?」


汗だくになって息も絶え絶えなエルシュが転がりこむように家に飛び込んできた。


「おじいちゃんどうしたの!? まさかクエストの納品で不備があったの?」


「いや! 納品自体には何も問題なかったのじゃが、飛竜が!」


「ええっ? どういうこと? とりあえず落ち着いて!」


 ネシャとニョロゾにお茶を出してくつろいでいたニーチェはコップに入れた水をエルシュに渡し椅子に座り直す。エルシュの【飛竜】という言葉に視線を鋭くし、彼の言葉を待つネシャとニョロゾ。


「捕獲したレイザーサーモンは国王のみならずその場にいた王都の連中も満足いくものじゃった。だが国王と共にこの町にきたのがクエスト中にわしらのもとに来たあの飛竜じゃったのじゃ! しかも隣国のミラーハ王国の守護竜だとわかったのじゃ。」


「嘘……あの軍事国家のミラーハの……この国とは国交はないはずだけど、なんでわざわざこの町の収穫祭に来たの?」


「それなんだが、話を聞く限りただの気まぐれとは言っていたが真相は分からぬ。ミラーハは食糧事情も悪くなくあの飛竜がいるせいだとは思うが目立つ内乱もない。国王と親しげに話しておったから少なからず敵対しているようでもない。」


「じゃどうしてキノを探してるの? まさかキノが作った料理が?」


「それなんじゃ。どうやらキノくんの料理がいたく気に入ったようで、彼を抱き込もうとしているのじゃよ。どんな料理を作ったのかは知らぬがミラーハに連れ帰ると言い出してな。そしてレイザーサーモンを捕獲したのもキノくんの力だと知られとる。」


 落ち着きを取り戻しつつあるエルシュが事の様相をもれなく三人に伝える。


「そしてこう言い出したのじゃ。『あやつの万能なスキルを手にできるならこの国もミラーハと同様に守護してやらんでもない』と。じゃが『頑なに拒むのであるならば下僕を用いて無理にでも』と言い出してな……」


「はぁ? 冗談じゃないわよ! そんな話が通るわけないわ! 国王は何してるのよ!?」


 キノを物扱いするビビに怒りが収まらないニーチェ。無論自身では敵わない強者に対しての歯がゆさも相まってイライラが募るばかりだ。


「国王は国王でキノくんをまったく知らないからちんぷんかんぷんな顔をしておったのじゃが、あの飛竜の執拗さにキノくんがどんな人物か気になりだして一つの提案を飛竜に出したのじゃ。」


 ごくりとカップの水を飲み干し静かに国王の提案を告げる。


「2ヶ月後に双方の国の代表三人を選抜して戦わせて、負けた側が要求を飲むことになったのじゃ。むろん飛竜は参加せぬ。だが当事者のキノくんは出るという条件でな……」









そろそろニーチェとオルも念話させようと思ってました。


ちなみにエルシュさんが念話を知るのはまだまだ先のことです。

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