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3 拉致初日

彼はさらわれました。

 ……んぁ……やけに薄暗いな……ちょいと飲みすぎたかな? いつの間にか寝てたようだ……うん? なんか揺れてるよう……な……


「あっ! キノくんが目を覚ましかけてるよ! 眠り草は!?」


「ここにあるよ~! 面倒だから鼻の穴につっこんどこうか?」


「うんうん! 目的地に着くまでしっかり休んでおいてもらわないとね。」


 ……んが! 何かが鼻の中……にぃ…… へぶっ……バタン。


「さっすが眠り草の効き目ってすごいね~。あっ! ホンデの町が見えてきたよ~!」


「「おぉ! 実に早い!」」


「今日はここで泊まって、明日からは夜営しながら行こうか。」


「だねだね! この季節ならまだ夜営は辛くないからいいよね!」


 オルーツアを出発したときと変わらない賑やかな馬車がホンデの町に入る。なんとか日暮れまでには間に合ったようだ。このホンデの町の周辺はオルーツアとは比べ物にならないほど魔物の数が多い。レベルが高くないのが何よりの救いだ。


「とりあえずさっき説明した件は内緒だからね! もし誰かに聞かれてしまったら……」


「間違いなくキノくんはどこかに幽閉されて死ぬまでネットショッピングさせられるか……」


「ネットショッピングの道具だけ没収されてあの世生きですな……」


「確かにタートルドラゴンやレイザーサーモンの件を考えただけでも、世界の流通や物の価値も大きく変動しちゃうね。」


「私達の知らない知恵が反映されたものをお金さえ払えば手にすることができるなんてね……」


「よし! この話はここまでにしよう! オルちゃんお腹空いたかな~?」


 余程お腹が減ったのか、白目を剥いて横になっているキノの上に乗り『ふがーふがー』と声にならない鳴き声をあげるオル。宿を取ってキノを部屋に運んだ後に四人と一匹は決起会を兼ねて酒場に繰り出した。




「ここからルーシキ地方までは順調に進んでもあと3日はかかるよね? 馬車はどうする? あっちの魔物って結構面倒だからね~。」


 豆と鶏肉の煮物をつつきながらいつものようにジョッキに口をつけるネシャ。


「ん~下手したら馬が魔物に襲われるかもしれないから、マノークの森に着いたらみんなを降ろして馬車を預けにここまで戻ってくるよ。それからマノークの森に向かうからね。」


 お酒はあまり飲まないのでサラダと鶏肉の塩焼きを食べながら野菜のスープで体を暖めるニーチェ。


「じゃニーチェが来るまでは俺達でキノくんの安全を確保しとけばいいんですね?」


 ネシャと同じくジョッキを傾けながら、自分が食べている牛の内臓の煮物をオルに分けてやるエーシャ。


「まぁ僕らがいれば死ぬことはないはずさ! あとは彼の気持ち次第だね! 魔物に慣れろとは言わないけど立ち居振る舞いには慣れてもらわないとね。」


 頼んだ料理が辛すぎてが口に合わなかったのか皿ごとオルの前に差し出し、代わりの魚料理を注文するニョロゾ。


 そして普段食べたことがない味に舌鼓を打ち、休む間もなく胃袋に料理を押し込むオル。


 明日からはこんな酒場はない。地に腰掛けてあるもので自身を養うしかないのだ。それゆえ冒険者にとってはテーブルで食べる食事ほど豪華なものはない。それはここにいる四人すべてが認識している。だからこそ旅立つ前の今夜くらいは腹一杯食べようというわけだ。


「んじゃ、おなかも膨れたし宿に戻ろっか!」


 酒場の店員に食事代を渡し店を出る。明日からは夜営しながらの日々。いくら冒険者とはいえ一ヶ月も夜営するのはなかなか辛いものがある。

 だが、あのエルシュからの直々嘆願とキノという特殊な人物。普段とは違う一ヶ月を過ごせるのは間違いないと三人共に感じていた。


「それにしても、ほんとにキノくんってもやしっ子だよね! 鍛えて強くなるのかこっちが心配になるよ。」


「だねだね! どこまで私らがフォローされるかにもよるけど下手したら半日ももたずに屍になるかも。」


「本人も自分は強くないって自覚してるくらいですからね。まずは一人で森で過ごせるようになるとこから始める必要があるでしょう。」


「まぁ、死なない程度に守ってあげてね! あとは……オルちゃん! 従魔だからって今回はキノのこと守り通さなくていいよ! 正直言うとオルちゃんだけでキノを守れるだろうけど…」


「ええっ!? この子猫ちゃんそんなに強いの?」


 四人の後ろをてくてくとついて歩くオルに疑念の眼差しを向けるネシャとニョロゾ。


「うんうん! 間違いなく私達が全員で挑んでもオルちゃんには敵わないはずだよ!」


「……マジで?」


 二人とも唖然として足元にいるオルを撫でる。こうしてるとただの子猫にしか見えない。


「うん! マジマジ! だって獣気だけでザネックスさんとこの暴れ馬を二頭同時におとなしくさせたんだからね~」


「うっそ……あの魔馬を? こんなモフモフなのに? あっ男の子か。」


 ニョロゾがオルの尻尾を引っ張りあげ性別を確認する。

 ふがーふがーとちょっとご機嫌ななめなオル。


「じゃ明日は早朝に食料を買い出ししたらすぐに出発しようね!」


「「「おっけ~! じゃまた明日!」」」


 ニーチェとネシャ。そしてキノとニョロゾとエーシャとオルに別れて部屋で明日に備えて早々に横になる。


「ねぇ道中で話してたキノくんのことだけど、彼って召喚されたってわけじゃないよね?」


 布団に潜り込んで就寝準備が整ったネシャがニーチェに問う。召喚者は特異なスキルと魔素を付与されているのである程度の経験ある者ならばわかるのだがネシャにもはっきりと断定できないのだ。


「それがね~まったく魔素がないから謎なのよ。おじいちゃんも彼を召喚者としては見ていないし、Aクラスのあなたやニョロゾもわかんないでしょ?」


 部屋の天井を見つめながらネシャの質問に答えるニーチェ。


「そうなんだよね。私が今まで会った召喚者とは違うから気のせいだとは思うかな~。ま、どっちにしろエルシュさんが危惧してる状況にならないように鍛えるしかないよね。」


「うんうん! じゃそろそろ寝よっか! 明日から大変だしね!」


「だね~! じゃおやすみ!」


 こうしてキノ拉致の初日は更けていった。







目的地は第一話でも名前が登場した地方のようです。



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