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1 記憶が飛ぶまで酒を飲むとろくなことがない

第三章に入ります。

「「「乾杯~!」」」


 今俺は町の酒場に来ている。久しぶりの酒はうますぎる!なぜにこの世界で酒を欲しなかったのか? 金銭的余裕がなかったからなのか? 異世界に来たばかりで精神的余裕がなかったからなのか? どちらも正解だろう。


 だが今の俺は違うのだ。ビビが置いて行った(多分)金貨を元手に生活の基盤は確保した。そしてタブレットを用いてなんとかこの世界でやりくりする術を理解し心の平安を得たのだ。


 つまりだ! 今の俺はこの町でやっていけるって話だ! 下手に命を危険に晒さずに地道に稼いで夜露をしのぐ一軒家でも手に入れたらもう人生の勝ち組になるのは間違いないだろう。


 魔物相手にクエストを巡回するチート組になんてなるわきゃない。そんなのは他の異世界話の主人公にまかしときゃいいんだよ! 何が楽しくて命張った仕事をせにゃならんのだ? はっはっは!

 第一、異世界行ったらチートっておかしくないか? いきなり勇者顔負けのバトルができるって? そんなんじゃ地球上は勇者候補ばっかの無敵民族じゃね~か!

 おっ! ね~ちゃん蜂蜜酒のおかわりちょうだい!








 と楽しく飲んで食べて騒いでたはずなんだが……


 なぜに俺はこんなとこにいるんだ? ジャングル? えっと……あの大きな切り株の上にいるあれって魔物だよね? ゴブリンっぽいよね? しかもこっち見てるよ。しかも軽く10体くらいいるよね? えっ? えええっ!?


「おっ! キノくん目が覚めたかい? さぁてそんじゃいっちょ鍛えたげましょうかね!」


「だねだね! とりあえず死にそうになるまでは放置しとこうか?」


「うむ。やはり生と死の狭間を行き来しないと実質的な強さは手に入りませんからね。」


―まぁ頑張れ。今回ばかりはワシもお前の保護は控えておくぞ―


 見知った顔が並んでるが、なんだこの疎外感は? たまらず俺の横にいるやつらに聞いてみる。


「えっと……死にそうになるまで放置ってあの魔物達を? そんなこと言ってないで早く倒さないと俺らが危険なんじゃ……」


「「いやぁ死にそうになるまで放置されるのは君のことだからね!」」




 ……おい? おいおい? おいぃ~~~っ!! 何がどうなってるんだぁ――――!?






~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~





この日の五日前(収穫祭最終日)



「お~い戻ったぞ! ほら頼まれていた食材だ。」


「あっおかえりキノ! 買い出しありがとね! 今ね、お客さん来てるんだよ。」


 テーブルにカバンから食材を次々出しているとニーチェがその客人を連れてきた。


「はじめまして! ネシャって言います!」


「どうも~! ニョロゾって言います。よろしくです!」


 まず初見の感想だが、見た目が人間ではない。


 ネシャさんはドワーフ族の女性だ。あれだ。体が緑がかった一般的なドワーフのイメージそのままだ。しかしなぜか髪の毛が……金髪……80年代に流行したようなあの髪型だ。なんなんだこの違和感は……


そしてニョロゾさんは……毛玉の男性だ。一言で言うならば毛玉だ。もう少し詳しく表現するならば二頭身の毛玉だ。日本で有名なお腹にポケットがある猫型ロボットの体型だ。聞けば獣毛族という種族らしい。まったくもって毛玉だ。それ以上でもそれ以下でもない……


「ああっと、キノって言います。エルシュさんちに居候させてもらってる旅の者です。どうぞよろしく。」


 ここは異世界なんだし見かけで判断しちゃダメだ。そう思いながら挨拶を返す。


「この二人はね、私がいつもパーティー組んでるメンバーなんだよ。こう見えて私より強いんだからね!」


マジでか! こんなちんちくりんなのにニーチェの口から強いって言葉が出るだけですごいんじゃないかい?


「そんなことないってば! ニーチェと同じくらいの強さだよ!」


「そうそう! 強さに関して僕らはどんぐりの背比べみたいなもんだよね!」


…ちっさい鬼が三体ここにいるな。それもアホみたいに強いであろう鬼が……やはりこの世界は人外な強さの宝庫だ。


「普段は二人とも近隣の町や国に赴いてクエストをこなしたり用心棒みたいな真似事してるんだけど、ちょうど収穫祭の時期にオルーツアに戻ってきてたみたいでうちに寄ってくれたのよ。」


 三人でキャッキャ言って話に華を咲かせている。余程仲がいいんだろう。三人とも屈託のない笑顔が弾けている。


「ところでエルシュさんはまだ戻ってないのか? もう夕方だが…」


「あっ! そうそういい忘れてたよ! おじいちゃんは一度戻ってきたんだけど『キノくんはいるかっ?』ってかなり慌ててたよ。それでまだ戻ってないって言ったら町に飛び出していっちゃったよ。」


う~む。もう嫌な予感しかしない。俺が今回のクエストに関わったのがばれたか?


「ちなみに緊急クエストの件はばれてないからね。あれだったらおじいちゃん探してみたら?」


「だな。トラブルじゃなきゃいいがエルシュさんがそんなに慌てるならば早めに情報を知ってたほうがいいかもな。ちょっと出てくる!」


 何やら胸騒ぎがする。こんな時は決まってよからぬことが起きるもんだ。とりあえずギルド方面に行ってみようか。







「どうやらギルドか市場方面に向かったみたいね。あとはどうやるかだけどいい案が思いつかないよ……」


 渋い顔で宙を見つめるニーチェ。


「まぁなるようになるさ! いざとなったら気絶させる? それか……」


「とにかく彼の後を追ってみるよ。チャンスがあれば一気に…」


「わかった! じゃ、ネシャとニョロゾ! 二人とも頼んだよ。エーシャには私から話しておくから!」


「オッケー! 任せて!」


「また後でね!」



三人の怪しい密談が行われているのも露知らず、俺はエルシュさんを探しに奔走したのであった。




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