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12 収穫祭の最終日だ

収穫祭に出掛けます。

「キノ~! 朝だよ!」


 ニーチェの声で目覚める。どうやら昨夜は椅子に座ったまま意識が飛んだせいでそのまま寝たようだ。


「おはようニーチェ。うぅ……体中が痛い……エルシュさんは?」


「おじいちゃんなら町の講堂に行ってるよ! 国王が隣の国の偉い人と来てるから昨日釣ったレイザーサーモンを持っていくんだって。キノは行かなくていいの? 昨日はあのドラゴンに料理作ったの?」


 朝ごはんの準備をしながらニーチェが矢継ぎ早に質問してくる。


「うむ。たぶん満足したと思うぞ。あのレイザーサーモンの骨の山を見てみろ。あいつが一匹食べ尽くして結局俺とオルは食べれなかったからな。それから今回のクエストを町の手柄にするには俺は顔を出さないほうがいいだろ?」


「そうだね~。一応おじいちゃんがみんなに口止めしてたから話が広まらないとは思うよ。でもドラゴンはあれを丸々食べたの? すごい食欲だね……」


「だな。また何か食わせろって言い残して帰ったぞ。二度と関わりたくないんだがな。」


 椅子から立ちあがり背伸びをし体をほぐす。このまま布団に行って二度寝したいがそうはいかない。なんせ収穫祭の最終日だ。


「ちょっと町に行ってくるぞ。収穫祭がどんなものか見てみたいんだ。ニーチェはどうする? 一緒に行くか?」


 パンにかぶりつこうとしたニーチェが手を止めて嬉しそうな顔と苦虫を噛み潰したような渋い顔を交互に見せる。


「私は……いいかな。賑やかすぎるのは苦手なんだ。昨日までの疲れもあるから家でゆっくりしてるよ! いろんなおいしいものがあるから朝ごはんは町に出てオルちゃんと食べたほうがいいかもよ!」


「そうか。じゃ行ってくるぞ! って……金がない……」


 ……そうだった。昨夜の料理にお金を使い切って手元には鉄貨が四枚しかない。普通異世界に行った主人公って、チート能力と共にお金には一切困らない設定だと思うのだが、なぜに俺はここまで貧乏なんだよ……


「はいキノ!」


 ニーチェが綺麗な刺繍が施された小袋を俺に手渡す。中には金貨が20枚入ってる。


「おいおい! なんだこの大金は!? さすがに小遣いでこんなにはもらえないぞ!」


「あのね。これはテーブルの上にあったのよ。もしかしたら昨日のドラゴンが置いて行ったんじゃないかな? 料理のお礼で!」


 なんと! 昨夜のお代を置いて行ったのか。喋り口調や仕草から察するに、ただの粗暴なドラゴンではないと思っていたから、あまり驚くことでもないだろう。

 まぁいいもん食わせた対価としてありがたく受け取っておこうか。ただ金貨20枚だろ……ホイル焼きで20万Gか……


「そうか……んじゃありがたくもらっとこうか。ニーチェは何かいるもんかあるか? 奢ってやるぞ。」


 いきなりの臨時収入で急に羽振りがよくなる。こんなだから貯金できないのだろう。


「じゃ適当に食材買ってきてくれたら嬉しいかな。野菜がなくなってきたから野菜中心でお願い!」


「わかった。じゃ行ってくるわ!」


こうして収穫祭で賑わう町に繰り出したのであった。





―キノよ―


 町を歩きながらオルが話かけてくる。


―どうした?―


―腹が減って倒れそうだ。何か……食わせろ……―


 ああああ! そうだ! 昨夜も今朝もオルに何も食べさせてなかった! 心なしかオルのからだがスリムになってきたような気がする。


―すまん! すっかり忘れていた! とりあえず肉でいいか?―


―もう何でもいいのだ。お前らが食ってる葉っぱでも構わんぞ―


 うわ……だいぶひねくれてるな……ダイエット中だが今日は奮発してやろうか。


「おじさん! この猪串を10本を大至急で! 串は抜いてくれよな。」


 目の前の露店の店主に声をかけ注文する。程なくして焼きたての肉の山がオルの前に盛られる。


―肉だ……あぁようやく食い物が……―


 一つ一つ噛み締めながらその味を堪能する。俺も腹が減ってきたな。よし! 今日は買い食いを楽しもうじゃないか!



 さすがに収穫祭だけあって普段見ない露店が多い。特に目につくのが魚介類の食べ物だ。そして値段が高い。明らかに肉料理の三倍近い値段だ。


 そんななか俺が目をつけたのが白身魚のパイ包みだ。4000Gもするが、朝飯代わりにちょうどよさそうだ。


 オルの分もあわせて二つ買う。店先の椅子に腰掛けスプーンでパイを崩しながら中の魚と食べる。


「うん! うまい!」


 冗談抜きでこれはうまい。白身魚は香草と塩で味付けされており、少し固めのパイ生地がこの魚によくあう。付け合わせの野菜の酢漬けもなかなかうまい。

 オルもすごい勢いで食べている。あまりにガツガツ食べているのでパイ生地が気管に入ってむせている。焦らず食うんだ。パイ包みは逃げないぞ。


 あっという間に食べ終わり市場の通りに行く。忘れる前にニーチェから頼まれた食材を買い漁り再び露店巡りの再開だ。


 最終日だけあって呼び込みの声も活気に満ちている。オルも目をキョロキョロさせながら次の獲物を物色しているようだ。 おっ! 蜂蜜酒だと! この世界に来てまだ酒は飲んでないな。よし一杯もらおうかな。


「すいません! 蜂蜜酒を一杯くだ……」


『うおおおお~~っ!』


 なんだなんだ? すごいどよめきのような声が聞こえたぞ?


 まだざわめいている声の方角に目を向けると一棟の大きな建物が目に入る。どうやらあれが講堂のようだ。ってことは国王の手前、例のレイザーサーモンを納めたのかな? こんな近場にいてもしも見つかったら面倒だから早々に立ち去るか。

 俺は泣く泣く蜂蜜酒を諦めて、講堂に背を向け次なる獲物を探しに出掛けたのだ。



~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~


町の講堂の中



「これほどの立派なレイザーサーモンを揃えるとは」


「大きさだけではなく鮮度も申し分ない。一体どのようなやり方で……」


「まったく傷が見当たらないな。もしや何らかの魔術を使ったのか?」



 王都の料理人達が口々に称賛している。彼らの言葉に膝をつき謁見を許されたエルシュはご満悦だ。同様にクエストに参加した冒険者達も鼻高々だ。


「見事だエルシュよ! この町にはさぞ立派な者が揃っているようだな! このワシもここまでの獲物は見たことがないぞ!」


 国王ベルン。まだ45歳と若き王ではあるがその威厳は立ち居振る舞いに現れている。そしてその声。耳にする者に畏怖の念を抱かせる圧力を備えている。


「国王よ。これらはこちらにいる古参の冒険者達がこの日のために仕入れた物でございます。喜んで頂けたならば幸いにございます。」


 深々と頭を下げ己の手柄にすることなく皆の手柄にするあたりが彼らしい。そんな彼に問いかける者がベルンの横に佇んでいた。


「本当に素晴らしいですわ。しかしながらこれはあなた方だけで手に入れることができたのでしょうか? 他にはいないでしょうか……ね?」


 恐る恐る顔をあげるエルシュ達。気のせいか? あの声は聞いたことがあるぞ。しかもつい昨夜に……体中から汗が吹き出る。そしてその視線の先にはあの女ドラゴンがいた。






ビビは国王と繋がりがあるみたいですね。

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